第48話 束の間の日常
俺は、その日、久しぶりに登校した。
女王から、特別に通学を許可されたからだ。
このままでは留年しかねない。
さすがに、それは避けたい。
そんな俺を、学院の生徒たちは大歓声で迎えた。
「レオニス殿下だわ、相変わらず素敵!」
「殿下、素敵!」
アルベルトが、くすりと笑う。
「相変わらず、モテますね。」
俺は肩をすくめた。
「女王が見たら、極刑にされる光景だな。」
さらりと爆弾を落とす。
アルベルトも、苦笑しながら肩をすくめた。
教室に入ると、
エレノアが、何やら格闘していた。
「エレノア、何をしているんだ?」
「きゃっ――」
驚いた顔。
……その顔すら、可愛い。
「殿下……?」
俺を見るなり、ぱっと表情が明るくなる。
だが、すぐに神妙な顔へと変わった。
「殿下、あの時は申し訳ございませんでした。」
深く項垂れる。
「別に、あれはエレノアの責任じゃない。気にするな。」
俺は、軽く頭を叩いた。
その時、ふと手元に目がいく。
針と糸。
どう見ても、エレノアの手には不釣り合いなものだ。
「何やっているんだ?」
「実は、制服のボタンが取れかかっておりまして……」
エレノアは、再び針と糸を手に取る。
どうやら、糸を通すところで苦戦しているらしい。
……このままだと、放課後までかかるな。
思わず、笑みがこぼれる。
「貸してみろ。」
そう言って、針と糸を受け取る。
「殿下?」
ひょい、と。
一瞬で糸を通す。
「で、どこが取れかかっているんだ?つけてやる。」
「殿下、大丈夫です。」
エレノアは遠慮するが――
構わず、ブレザーのボタンを手に取る。
慣れた手つきで、縫い留める。
すぐに終わった。
「よし、エレノアお嬢様。できました。」
俺は、微笑む。
その様子を見て、アルベルトが首を傾げる。
「ねえ、レオニス、あなたなんでそんなことができるんです?」
ルシアンも、不思議そうに口を挟む。
「そういえば、前は料理もしてましたよね。王太子がなぜ?」
「いや、なんとなくだ。なんとなく、できるようになった。」
適当に誤魔化す。
そして、エレノアへ視線を向ける。
「でも、エレノアお嬢様は不器用だからな。いざとなったら、私が家事を引き受けよう。」
エレノアは、ぱっと頬を赤くした。
「そんなことさせませんわ。私だって、やればできるんですから。」
可愛くすねる。
……本当に、可愛い。
「で、レオニス、ようやく解放されたんですか?」
アルベルトが、軽く問いかける。
「いいや。」
俺は、表情を曇らせた。
ルシアンが、低く言う。
「だからといって、王太子がいつまでもあの状態というわけにはいかないでしょう。」
俺は、アルベルトを見て言った。
「アルベルト、変わってもらえるか?」
アルベルトの顔が、一瞬で引きつる。
「前、羨ましがっていただろ?」
「いえ、私は、まだ命がほしいです。」
即答だった。
実際のところ、
女王の滞在は、残りわずかだった。
だが、俺が解放されるという保証はない。




