第47話 忠犬
女王は、ゆっくりと俺に詰め寄ってくる。
「申し開きはできるのか?」
俺は肩をすくめた。
「できませんね。」
意識したわけではないが、癖で、愛想笑いが浮かぶ。
「陛下を納得させるだけの理屈は、残念ながら持ち合わせておりません。」
真っ直ぐ、女王を見返す。
場の空気が、一気に張り詰めた。
一触即発。
まさに、その言葉通りの緊張。
チャリ、と。
不穏な金属音が響く。
騎士団長、カイル、ルミナリアの兵士たちが、剣に手をかけていた。
まずい。
「早まるな。忘れたか、騎士達よ。
陛下がいつも言っているだろう?長いものには巻かれろ、と。」
あえて、軽く言い放つ。
不名誉極まりないが、
その一言で、張り詰めた空気がわずかに緩んだ。
騎士団長が、豪快に笑う。
「殿下、随分と余裕がおありですな。」
「そんなものは、ない。」
俺は、きっぱりと言い切った。
女王は、なおも俺を睨む。
そして、
静かに問いを投げる。
「お前は、この娘と私、どちらが綺麗だと思う?」
一瞬、思考が止まる。
だが、
迷う理由などなかった。
「そりゃあ、エレノアですね。」
言い切る。
場が、再び静まり返る。
「だって、もう死ぬかもしれないのに、お世辞言っても仕方ないじゃありませんか?」
俺は、淡々と続けた。
女王は、じっと俺を見つめる。
「何か言いたいことはあるか?」
「そうですね、強いて言うなら、あんまりいじめないでください。」
視線を逸らさず、答える。
「それだけか?」
俺は、頷く。
「それだけです。
だって、陛下はよくご存知ではありませんか?
私は陛下の前では、無力な子羊にすぎないってこと。」
わざと、すがるような瞳を向ける。
甘えた声音。
女王の口元が、わずかに緩んだ。
……助かった。
そう、確信した。
次の瞬間。
「もういい、レオニス。参るぞ。」
女王は、そう言い放った。
俺は、何か言いたげなエレノアを残し、その場を後にする。
本当は。
抱きしめたかった。
その後は、何事もなかったかのように狩が行われた。
そして、
獲物を使った、バーベキュー。
女王は、最も大きな獲物を仕留めたと、得意げにしている。
俺は、その傍らで肉を焼き、野菜を切り、調理をしていた。
周囲の視線が集まる。
「なぜ、殿下が料理を?」
「しかし、手慣れてますな……なぜ?」
女王は、満足げにそれを口にする。
「美味しい、満足じゃ。」
「それはようございましたね、陛下。」
俺は、従順な“犬”を演じる。
だがその裏で、俺の視線は、自然とエレノアを追っていた。
そこには、
セドリックが、露骨にエレノアへアピールしている姿。
それに気づいた女王が、意地悪く口を開く。
「気になるか?」
俺は、自嘲気味に笑った。
「エレノアは、今の私にとっては高嶺の花ですよ。
今は、あなたの忠犬なのですから。」
そこへ、アルベルトとカイルがやってくる。
「ねえ、レオニス、あれも策略のうちですか?」
「そんなわけない。」
即答した。
「どんなに思考を巡らせても、私の首と引き換えにエレノアを救う方法しか見つからなかった。
今回は、たまたま運が良かっただけだな。」
その言葉に、
カイルとアルベルトの表情が、一気に強張り、
青ざめていくのが、はっきりと分かった。




