第46話 非情な女王
ヴァレンシア公国の騎士たちが、エレノアを取り囲む。
その場にいた全員が、息を呑んだ。
空気が、張り詰める。
理由は明白だった。
赤い乗馬服。
女王と、色が被っている。
ただ、それだけ。
だが、それだけで十分だった。
しかも、若く、美しいエレノアの方が、際立っていた。
だから、女王は機嫌を損ねたのだ。
女王は、若い男には甘い。
その反面、若く、美しい娘には、容赦がない。
それは、失われた若さへの嫉妬か。
いや、執着。
そう呼ぶべきものだった。
そこへ、セドリックが割って入る。
「エレノア、大丈夫か?」
エレノアだと?
俺は、その呼び方に、わずかに眉をひそめた。
「婚約者がピンチなのに、飼い主には逆らえないのか?
えらく弱腰な婚約者だな?」
挑発。
露骨すぎるほどの。
「黙れ、セドリック。」
セドリックは止まらない。
「美しく、聡明なエリザベート陛下。
なぜ、そのようにお心を乱されるのか。
こんな小娘、女王の妖艶さには足元にも及びますまい。」
不敵に笑う。
やってしまったな。
「やっちまったな、セドリック。黙れと言ったのに。」
俺は、頭を抱えた。
女王は、愚かではない。
言葉が本心かどうか、見抜く目を持っている。
そして、この状態の女王は、
誰にも止められない。
俺はこれまで、何度もその理不尽を見てきた。
今回も同じだ。
エレノアに、落ち度はない。
本来、舞踏会や公式の場では、
目上の者と衣装や色が被らないよう、事前に調整される。
だが、今回は違う。
女王が、突発的に装いを変えた。
だから、エレノアが知るはずもない。
それでも。
こうなってしまえば、正論など意味を持たない。
女王は、セドリックを一瞥した。
「ならば、セドリック王子の顔を立てて、今回は特別に。」
セドリックが、勝ち誇ったように口元を歪める。
しかし、次の言葉で、その表情は凍りつく。
「打首のところを、鞭打ちにしてやろう?」
「女王陛下、ご冗談を。」
セドリックは眉をひそめた。
「何?不満か?
命だけは助けてやると言うておるのに。
少し、玉のような肌が裂けるだけ。
もしかしたら、一生傷ものになるかもしれん。
それとも、私に盾をついてみるか?セドリック王子。」
女王の威圧に、セドリックは怯む。
そして、
「誰か、鞭を持ってこい。」
無情な命令。
エレノアへの粛清が、始まる。
女王が、鞭を振り上げる。
その瞬間、エレノアは、覚悟を決めたように目を閉じた。
ぎゅっと、強く。
その時だった。
考えるよりも先に、体が動いていた。
バシッ。
鋭い音が響く。
「っ……!」
焼けるような痛み。
思わず、声が漏れた。
エレノアが、はっと目を開く。
「殿下……!」
女王は、険しい表情で俺を睨む。
「レオニス、どういうつもりだ?」
怒号が、場に響き渡った。




