第41話 愛のための代償
一瞬、時を失った。
俺は、エレノアを見る。
反則なくらい、可愛い。
張り詰めていた拳を、ゆっくりと下ろした。
そして、口元が緩むのを抑えきれなかった。
セドリックに向き直る。
「エレノアは、私の子を産みたいらしい。では、そう言うことで。」
そう言って、エレノアの手を引き、その場を後にする。
エレノアは真っ赤になりながら、
「私ったら、何ってことを……。」
と小さく呟いている。
「別にいいじゃないか?少なくとも私は嬉しかった。」
エレノアは、
「でも、恥ずかしすぎて、殿下の顔を当分見れそうにありません。」
と両手で顔を覆った。
「それは困ったな、私はエレノアの可愛い顔が見たい。」
その手をそっと退け、顔を覗き込む。
「やっぱり可愛い。」
エレノアは、さらに顔を赤くする。
そんな彼女を見つめながら、俺は静かに言った。
「私の妻は君だけだから、絶対に。」
教室に戻ると、すでに俺たちのことが噂になっていた。
ざわつく空気。
そこへ、アルベルトとセレナ兄妹が、どこからともなく現れる。
「聞きましたよ、レオニス。私も見たかった。」
セレナも笑いながら、
「殿下の子を産みますは、いいね。」
などと面白がり、すぐさまカイルに叩かれていた。
エレノアは、終始無言のままだった。
エレノアを部屋まで送り届けた後、俺は一人、思考を巡らせていた。
コーネリアから正式な婚姻の申し出があれば。
おそらく、国王は断れない。
そして、エレノアに正妃から降りるよう命じるだろう。
命じられたエレノアは、受け入れるしかない。
だが、エレノアは、俺を選んだ。
ここでエレノアを側妃に落とすなど、俺には到底受け入れられない。
俺は、エレノアを守る。
今回のことで、完全に腹は決まった。
俺の妻は、エレノアだけだ。
国王は、国の体面ばかりを気にし、俺たちを守る気はない。
ならば、コーネリアに匹敵する力を、こちらが手に入れるしかない。
俺は、覚悟を決めた。
そして向かった先は、ヴァレンシア公国、エリザベート女王の元だった。
女王の滞在する離宮には、若い男の召使いが多く仕えていた。
どうやら、女王が若い男を好むという噂は本当らしい。
俺は取り次ぎを願い出る。
拒まれるかと思ったが、意外にもすぐに許された。
「夜分遅くに申し訳ございません、エリザベート女王陛下。」
ひざまずく。
通されたのは、寝室だった。
女王はすでに寝巻き姿で、こちらを見下ろしている。
「レオニス王子、私に何か用か?」
尊大な声。
だが、俺は一歩も引かない。
「陛下にお願いがあるのです。」
正直に告げる。
「王子に願いがあったとして、私に叶えてやる義理はない。」
「はい、それは承知しております。ですが、私には陛下にすがるしか方法がないのです。」
わずかに憂いを滲ませ、言葉を続ける。
「実は、カミラ姫に結婚を迫られており、困っております。」
これまでの経緯を、簡潔に伝える。
女王は、嘲笑う。
「王子の国にとっても、王子にとっても良い話だと思うが。」
「私には、心に決めた女がいます。」
「バラの令嬢か?」
「はい。」
鋭い視線が、突き刺さる。
「そんなに大切か?」
「大切ですよ、自分自身より。」
脳裏に浮かぶのは、エレノアの姿。
「では、私が願いを叶えたとして、其方はどう応える?」
俺は、瞳を閉じて、息を吐いた。
そして、答える。
「私には、私自身でしか、女王陛下に報いることはできないでしょう。」
女王の目が、わずかに細まる。
「だが王子は、あの時拒否したではないか。それを今更……。」
「拒否したつもりはありません。私は愚かにも駆け引きをしたのです。
女王に高く買ってもらおうと思った、、、。若さゆえの浅知恵です。」
わざと、少しだけ声を甘くする。
「ですが、今となっては……素直に応じておけばよかったと、思っております。」
女王は一瞬、考え込むような表情をした。
そして、女王は、ゆっくりと口を開いた。
「よかろう。王子の申し出、受け入れよう。」




