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元ホストの俺、乙女ゲームの王太子に転生。婚約者(悪役令嬢)だけは絶対に守ります  作者: ふうこ0701
第4章 女王と忠犬

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第38話 月の下、君を選ぶ

ガシャ。


グラスが豪快に割れる音が響いた。


あまりの威圧感に、宰相ですら言葉を失っている。


だが、俺は怯まない。


「では、陛下、お聞きします。一国の王太子が、大国とはいえ媚びへつらうのはいかがなものでしょうか?」


真正面から国王を見据える。


国王は、何も言わず俺を睨みつけた。


「殿下、しかし、それでは……。」


宰相が言い淀む。


俺は、静かに手鏡を取り出し、陛下の側へ歩み寄った。


「陛下――いえ、父上。どうか落ち着いてください。」


そう言って、鏡を差し出す。


「父上は血色もよく、整った顔立ち。ダンディズムというか、大人の色気を兼ね備えた素敵な男性ですよね?」


わざとらしいほどに褒めちぎる。


国王の眉がぴくりと動いた。


「何が言いたい?」


「だてに若い妃を囲っているわけじゃないでしょう。まだまだ現役だ。」


一瞬、宰相が息を呑む気配がした。


「つまり私が言いたいのは――父上、ご自身でお相手なさったらいかがですか?」


「何の?」


「女王の。」


その瞬間、国王の顔がみるみる赤く染まっていく。


「バカもん!余を愚弄するのか!」


ガシャガシャ、とさらに激しい音が響いた。


宰相は完全に身を潜めている。


国王は怒りに任せ、そのまま部屋を後にした。


俺が部屋を出ると、廊下には重鎮たちが揃っていた。


「また、陛下を怒らせましたね?殿下。」


財務大臣が呆れたように言う。


「殿下は今回、なんと仰せになられたのですか?」


俺は、事のあらましを簡潔に説明した。


「ただ私は、陛下はまだまだいい男だから、ご自身で女王のお相手をなされば良い、と申し上げただけだ。」


その瞬間、重鎮たちは一斉に言葉を失った。


後ろから、宰相がやつれた顔で現れる。


「ええ、おっしゃいましたよ、殿下は。おかげで、私の寿命が縮まりました。」


肩を落としながら呟く。


俺は気にせず続けた。


「それに、あの女王の年齢だが――あくまで推定だが、王太后くらいだと思う。」


「なるほど、それは殿下には大人すぎるかもしれませんな。」


騎士団長が苦笑しながら頷く。


「そういう問題ではない。あちらが殿下を指名してきたんだ。」


宰相が疲れ切った声で言う。


「それは分かっている。」


俺は軽く肩をすくめた。


「実はあのバラには別の意味がある。あれを女王に渡せば、“了承”の意味になる。」


場の空気が一瞬で張り詰める。


「私は事前に知っていたから、それを回避しただけだ。」


そして、宰相を見た。


「それに、もし私が姫を選んでいたら、どうなっていたと思う?」


「……。」


宰相は答えない。


「そういうことだ。」


それだけ言い残し、俺はその場を後にした。


エレノアは、言葉通り俺を待っていてくれた。


「なんか、ものすごい音がしましたけど、大丈夫でしたの?」


心配そうに見上げてくる。


「問題ない。」


短く答える。


俺たちは、そのまま手を繋ぎ、中庭へと歩いた。


夜風が、わずかに冷たい。


「くっしゅん。」


小さなくしゃみ。


俺は、自分の上着をエレノアの肩にかけた。


「殿下、冷えてしまいますわ。」


遠慮がちに言う。


「私は大丈夫だ。こうしたら、温かい。」


そう言って、そっと抱き寄せる。


エレノアは、


「殿下……。」


と小さく呟いた。


その声は、どこか安心したように聞こえた。


久しぶりに、月が綺麗な夜だった。

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