第33話 茶番劇の結末
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その日、アルベルトとルシアンは、慌てた様子で王宮へやってきた。
俺はというと、王太子としての執務を静かにこなしていた最中だった。
「レオニス、大変です。」
珍しく取り乱した様子で声を上げるアルベルト。
「どうしたんだ?騒々しい。」
そう言って、俺はアルベルトへ視線を向ける。
だが、答えたのはルシアンだった。
「俺達の間に子供がさずかった。」
「・・・・。」
一瞬、言葉を失う。
何だ、この展開は。
まったく意味がわからない。
「ルシアン、何を訳のわからないこと言っているんですか?」
アルベルトがルシアンを諌める。
そしてそのまま、俺に事情を説明し始めた。
どうやら、アルベルトとルシアン、それぞれの情婦に子供ができたらしい。
俺は表情を崩さず、淡々と答える。
「それは、めでたい。おめでとう。」
するとアルベルトがすぐさま食いつく。
「何、涼しい顔しているんですか?あなたも無関係じゃないんですよ?
あなたの情婦であるサラもあなたの子供を妊娠したんですよ?」
「ほおー、同時に3人か。できすぎているな。」
俺は軽くそう返した。
「それに、私には情婦などいない。特定の相手は作ってないからな。」
「まあ、あなたは常に取っ替え引っ替えしていましたから。そうではなくて、ですね。
どうするんですか?」
アルベルトは苛立ちを隠さず問い詰めてくる。
「どうするかって。そりゃあ、男として責任取るしかあるまい。」
俺がそう言うと、ルシアンは深くため息をついた。
「やっぱり、そうなるか。父上を何と言って、説得しようか、、、。」
そう言って項垂れる。
カイルは少し離れた位置から、また面倒なことをやらかしたなという目で俺達を見送っていた。
廊下に出ると、すでに騒ぎは広がっていた。
セレナを筆頭に、エレノア達が集まっている。
完全に面白がっている様子のセレナが、こちらを覗き込む。
「どうするか、決まったの?」
と、ちゃめっけたっぷりに笑う。
「おじさんじゃなかった、陛下、ご立腹だよ。宰相も、ついでにお父様も。」
その言葉に、アルベルトとルシアンの顔色がさらに悪くなる。
「やっぱり、お金でしょうか?」
アルベルトはさらりと最低なことを口にする。
「金って。アルベルト、お前、彼女を納得させるだけの金額、持っているのか?」
「そんな訳ないでしょ?そりゃあ、父上にお借りするんです。出世払いで。」
「父上が出す訳ないじゃん、お兄様、観念なさい。」
セレナは容赦なく言い切った。
「アルベルト、私とルシアンはともかく、好きな相手との子供なんだから良かったじゃないか?」
俺は軽く言う。
しかしアルベルトは即座に否定する。
「全然、良くありません。第一、結婚する気なんてサラサラありませんよ。
子供もまだ、入りませんし。」
最低な発言は止まらない。
一方でルシアンは、
「結婚、父上に許しをいただけるだろうか?最悪は、側室になるやもしれん、、、。」
と、ぶつぶつと呟いている。
どうやら責任を取る気はあるらしい。
この対照的な二人の様子が、どこかおかしくて仕方なかった。
「アルベルト、お前、絶対に彼女達の前で、余計なこと言うなよ。」
俺は念を押す。
「どうにかなるんですか、レオニス。」
「ああ、多分な。」
短く答えると、俺達は国王の元へ向かった。
「さあ、私達もまいりましょう。こんな面白いこと、見物しないわけには参りませんわ。」
なぜかセレナを先頭に、周囲もぞろぞろとついてくる。
「殿下、此度はどう切り抜けるので?」
騎士団長まで興味津々だ。
「さあな。」
軽く答え、俺達は謁見の間へ入った。
「陛下、レオニス、参りました。」
俺達はその場で跪く。
「この3バカ共が、、、。」
国王の怒声が響いた。
その視線の先には、三人の女達の姿。
女達は涙ながらに訴える。
「殿下、お情けを。私はずっと殿下だけを慕ってまいりました。
お腹の子供は間違いなく、殿下のお子です。」
茶髪の娘が縋り付く。
思い出そうとするが、やはり記憶にない。
名前は、サラと言ったかな、確か。
「で、レオニスは、この娘を知っているか?」
国王は俺を睨む。
「今、思い出そうとしましたが、わかりません。」
「では、この娘の言うことは嘘だと?ならば、この娘は恐れ多くも王太子の子を孕ったと嘘をついているのか?」
国王は静かに問う。
サラはびくつく。
「そんな、殿下、あんまりです。
私とこの子には殿下しかおりません。」
お腹を強調するようにさするサラ。
「いいえ、そうではありません。
父上、10日前の食事の内容、覚えていますか?
それと同じです。」
「だからと言って、私は何もなかったと言えるほど、
素行は良くありません。
陛下だって、私に貞操を求めているわけではないでしょ?」
「それに、子供ができたと言われれば、男にそれが誰の子かなど知る由もありません。」
俺は、続けた。
「で、お前はどうするんだ?」
と国王は睨む。
「その前に、私はサラの気持ちを確かめたい。よろしいでしょうか?」
「よかろう。」
俺はサラに向き合う。
「サラ、私のような不誠実な男でも良いのか?」
俺は満面の笑みを浮かべた。
サラの顔はパアッと明るくなる。
「殿下、私は殿下を愛しています。」
涙ながらに告げるサラ。
俺は、その手をとった。
「では、サラ、私と共にどんな苦難の道でも歩めるか?」
「はい、殿下となら、どんなことでも耐えられます。」
サラは微笑む。
「では、わかった。其方の気持ちに答えよう。」
俺はサラに微笑み、再び国王に向き合う。
「陛下、そう言うことです。」
「そう言うこととは、どう言うことじゃ?」
陛下は声を荒げる。
「私、レオニスを王家より追放、王太子も廃嫡してください。」
俺は、高々に宣言する。
周りはざわつく。
「なんじゃと?」
「陛下、いえ、父上。私はサラと子供と幸せに暮らしたいのです。
ですが、このような不祥事を起こした私は、王太子としても、王子としても相応しくありません。どうか、わかってください。」
と大袈裟に振る舞う。
「サラは、こんな私でもいいと言ってくれた。
ならば、私もその愛に答えなくてはならない。」
何とも芝居がかった、セリフだ。
宰相は何か察したように口を開く。
「陛下、殿下のお申し出受け入れましょう。
我が国に、素行の悪い王太子は必要ない。」
そしてルシアンに向き直る。
「お前も共に殿下に続け。私もお前を勘当する。いっさい、援助はせんからな。」
クラウディア伯爵もそれにならい、アルベルトも勘当される。
そして、俺は茶番を続ける。
「サラ、すまない。君には苦労をかける。私も農夫として君と子供を養おう。
君も何か働いて家計を助けてほしい。私と君と子供の3人で慎ましく暮らして行こう。」
その瞬間、サラの顔色が変わった。
「殿下、他のご親戚とか?」
サラはいう。
「サラ、私には身内はいない。これまで、王太子としてやってこれたのは、婚約者である、エレノアの実家、クラウゼル侯爵家の恩恵があってこそだ。だが、このような形で王宮を出ていくんだ、それも当然、かなうまい。」
「だが、私はどんな貧乏でも君が一緒なら大丈夫だ。
私は凡庸ゆえ、取り柄と言ったら、この見た目だけ。
フォークより重たいものを持ったこともない、温室育ちだ。
でも、これからは君と愛を語らいながら、生きていこう。」
俺は、サラの手を握る。
その瞬間、サラの本性が現れる。
「冗談じゃありませんわ。」
俺の手を振り払う。
「サラ?」
俺は失意と困惑の目を向ける。
「王子だと思っていい暮らしができるって思ったのに。冗談じゃない。」
そう捨てセリフを吐き、
バシン
と俺は平手打ちをくらった。
またか、と俺は内心思った。
サラ達はそのまま近衛兵に連行される。
だが、おそらく、城内から追い出されるだけで済むだろう。
国王は呆れた声で、
「次から次へと詭弁を。ようやりおるわ。」
と言った。
「まあ、結果がよければ全てよしでしょう。ビンタ一つで事が済めば安いもんです。」
俺はそう言って、肩をすくめた。




