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元ホストの俺、乙女ゲームの王太子に転生。婚約者(悪役令嬢)だけは絶対に守ります  作者: ふうこ0701
第3章 婚約ではなく、盟約

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(番外編)完璧な王妃

殿下と初めてお会いしたのは、私が五つの時だった。


光を宿した金髪に、海のように澄んだスカイブルーの瞳。


まるで物語から抜け出してきた王子様のように、美しい方だった。


「綺麗……」


思わず、声に出ていた。


殿下は微笑み、


「綺麗なのは君の方ですよ、エレノア嬢。私の可愛い、未来の花嫁さん」


とおっしゃった。


私は迷うことなく、その手を取った。


満面の笑みを浮かべるこの方を、支えたい。


五歳の時には、もう私は、自分の人生をこの方と歩むと決めていた。



けれど、穏やかな日々は長くは続かなかった。


政変――それは、避けられないものだった。


殿下のお身内、特に母方の方々は粛清され、

生母である王妃様も王宮を追われた。


幼い殿下は、王宮に一人取り残されてしまった。


そして、殿下を取り巻いていた人々も、次々と去っていった。


その頃、クラウディア侯爵であった祖父は言った。


「レオニス殿下には、もう未来がない。エレノア、婚約は解消しなさい」


けれど、私には殿下以外など考えられなかった。


「いやです。私はレオニス殿下以外とは結婚致しません。そんなことになるくらいなら、尼になります」


私はそう言い切り、三日三晩、食事を断った。


お腹と背中がくっつきそうになるほど辛かった。


それでも、殿下のことを思えば、不思議と耐えられた。


三日目の朝、ついに祖父は折れた。


その反動で、私は数日寝込んだ。


回復してすぐに向かったのは、殿下のいる王宮だった。


そこにいたのは――変わり果てた殿下。


見た目は変わらず、天使のように美しい。


けれど、その瞳には光がなかった。


「エレノア、君も私にお別れを言いに来たのかな?」


虚ろな瞳で、そうおっしゃる。


「いいえ、違います。私は離れません。エレノアは殿下のお側を離れるわけがありません。だって、私は殿下の未来のお嫁さんですもの」


私は、そのまま殿下を抱きしめた。


殿下は何もおっしゃらなかった。


けれど、かすかにその身体は震えていた。


やがて落ち着かれると、


「私も嘆いてばかりはいられないな。エレノアの前で、かっこ悪いところは見せられないからね」


そう言って立ち上がられた。


殿下は、苦しい環境の中でも前を向き、誰よりも努力なさった。


あの頃は、お辛い時期だったかもしれない。


それでも、私は幸せだった。


殿下と私の間に、確かな絆を感じていたから。


しかし、再び状況は大きく動く。


殿下の弟君、レオンハルト殿下が、闇属性であると判明したのだ。


金髪も青い瞳も、すべてが漆黒へと変わった。


その結果、レオンハルト殿下は幽閉。


そして、第一王子であるレオニス殿下が王太子となられた。


殿下は、本来の道へと戻られたのだ。


同じ頃、クラウディア侯爵家にも変化があった。


父が若い側室を迎えたのだ。


母と父の間に生まれた子は、私だけ。


この国では男子でなければ家を継げない。


私は殿下へ嫁ぐ身であり、婿を取ることもできない。


父にとっても、苦渋の決断だったのだろう。


だが、誇り高い母はそれを受け入れなかった。


家は次第に、安らぎの場ではなくなっていく。


かつて仲の良かった両親は、互いに罵り合い、傷つけ合った。


ある時、私は殿下にこぼした。


「私が男だったら――」


殿下は笑って、


「君が男だったら、私は君を妻にはできないじゃないか」


とおっしゃった。


そして、


「なら、私がクラウディア家に婿入りしようか?」


と、とんでもないことを言う。


「そんなことできるわけないじゃないですか」


私は当然、全力で否定した。


「いや、大丈夫だよ。父上はまた新しい義母上を迎えられるらしいし、王太子の代わりなんて、これからいくらでも出てくるさ」


と、さらりと言う。


本気なのか冗談なのか、まったく分からない方だった。


やがて、側室は男子を産んだ。


私の弟。


母はさらに狂っていった。


「ええ、あなた。跡取りの誕生、おめでとうございます。でも、私には将来、国母となるエレノアがいますから。正妻の座は奪えませんわ」


父にそう言い放つ。


だが父は、もう母を顧みることはなかった。


母は、私に呪いのような言葉を残した。


「エレノア、よく聞きなさい。国母となるあなたに言います。男を――殿下を愛してはなりません」


そんなこと、できるはずがなかった。


私は最初から、殿下に心を奪われていたのだから。


「できません、お母様。私は殿下をお慕いしております」


「なんと愚かな子。殿下の心が、いつまでお前の元にあるとは限らないのに」


母はそう言って嘆いた。


父は私に言った。


「嫉妬は醜い」と。


王太子妃、いずれ王妃となる者は、寛大であれ。


決して母のように嫉妬し、殿下を煩わせるな、と。


残酷だと思った。


愛しているからこそ、嫉妬してしまうのに。


それでも、女の嫉妬は醜いと切り捨てられる。


そして何より、


殿下に嫌われることが、怖かった。


捨てられたら、私は生きていけない。


だから私は、“正しい王妃”を目指した。


清廉潔白で、誰からも非難されない存在。


世間からは、よくできた妃だと讃えられた。


けれど、


殿下との間には、かつてなかった溝が生まれていた。


その溝は、少しずつ、確実に広がっていく。


私が正しくあろうとすればするほど、

殿下は寂しそうな顔をなさる。


そのたびに、胸が締め付けられた。


殿下に「本心を話してほしい」と言われた時、


私は揺れた。


すべてを打ち明けて、すがりたくなった。


けれど。


嫉妬は醜い。


そんな姿を見せて、殿下に嫌われるくらいなら、


距離を置かれる方が、まだいい。


たとえ形だけでもいい。


それでも私は、


殿下の妻でありたいと、願ってしまったのだから。

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