第26話 騒がしい日々の始まり
土曜日21時更新
セレナが現れてからというもの、俺の周りは、良くも悪くも騒がしくなった。
そしてあいつは、破天荒に周囲をかき回していく。
当然、その後始末に追われるのは俺だ。
まず、俺がセレナにやらせたのは、誤解を解くことだった。
「大丈夫、任せておいて。泥舟に乗ったつもりで」
と、自信満々に言う。
「泥舟だと沈んでしまうんだがな」
不安しかないまま、俺は送り出した。
案の定、大丈夫ではなかった。
なぜか、俺とカイルがセレナをかけて決闘し、カイルが勝ってセレナを得た、という話になっていた。
アルベルトが丁寧に説明して回ったが、時すでに遅し。
最早、どうにもならなかった。
結局俺は、セレナに無理を強いした挙句、カイルの逆鱗に触れるという、まったくもって不本意な結果を招いてしまった。
そして、俺以上に不本意だったのは、カイルだろう。
ここまで騒ぎが大きくなれば、カイルはセレナと婚約するしかない。
俺は、どこか申し訳なさを覚えながら、カイルを見つめた。
だからこそ。
エレノアにだけは、本当のことを説明しなければならないと思った。
「だから、王太后のお戯れだったんだ」
俺は、すべてをありのまま話した。
エレノアは時折、目を丸くしながら話を聞いていた。
「でも、殿下はよろしいのですか?ヴァルディス卿に楽しいお方を取られてしまって?」
その言葉に嫌味はない。
なぜなら、エレノアの瞳は、どこか茶目っ気を帯びていたからだ。
「勘弁してくれ、エレノア。あれだけは絶対無理だ。手に負えない」
俺は肩を落とす。
エレノアは、さらに顔を覗き込んできた。
俺の頬には、くっきりと小さな手形が残っている。
それを見て、エレノアは肩を震わせ、笑い出した。
「殿下、随分、男前になられましたね」
「エレノア、随分と棘のある言い方だな。もう少し労わってくれてもいいんじゃないか?」
「ですが、このところ、殿下は調子にお乗りでしたもの」
くすくすと笑う。
「どうやら、私は君の機嫌を損ねるようなことをしてしまったらしいな」
わざとおどけて見せる。
「さあ、どうでしょう?」
満面の笑み。
やはり、俺はエレノアには敵わない。
その笑顔一つで、すべて満たされてしまう。
久しぶりに、エレノアと穏やかな時間を過ごした。
その後、セレナはカイルと無事に婚約した。
だが、あいつはやはり規格外だった。
王太后を「おばあちゃん」、国王を「おじさん」と呼ぶ。
そのたびに、グランディア伯爵夫妻は後始末に追われている。
王太后や国王があの扱いなら、俺が呼び捨てにされるのも当然だろう。
さらに、騎士団長に向かって、
「パパ」
と呼び、周囲を凍りつかせたという。
まったく、どこまで自由なんだ。
そして、俺の周囲にも変化が起きていた。
婚約者たちが次々と王宮入りし、妃教育を受けることになったのだ。
ますます頭が痛い。
その中には、なぜか婚約者でもないセレナの姿もあった。
王太后の計らいで、セレナも淑女としての教育を受けることになったらしい。
が、本人は、
「ばちばちと嫉妬と策略に燃える女の戦いがみたい」
と、まったく別の目的で乗り込んできていた。
本当に、元気なやつだ。
こうして、俺の新しい生活が、幕を開けた。




