第22話 交わらない心
「殿下、これ、あちらのご令嬢から預かりました。」
エレノアが差し出してきたのは、明らかに恋文だった。
あの一件以降、俺の周りはなぜかさらに騒がしくなっている。
縁談の話は増えるし、学院でも女生徒からの告白が後を絶たない。
正直、うんざりしていた。
本来、婚約者のいる相手に恋文を渡すなど御法度のはずだ。
だが、相手に許可を得た上で気持ちを伝えるのは問題ないらしい。
その結果、こうしてエレノア経由で運ばれてくる。
……本当に、たまったものではない。
エレノアはそれを、正妃らしく丁寧に俺へと差し出す。
その行為が、どれだけ俺の心を抉っているのかも知らずに。
「そうか。」
俺はそれを受け取ると、迷いなく破り捨てた。
「何をなさるのです?」
エレノアが非難する。
「どうせ答えられないなら、中途半端に受け取らないほうがいい。」
そう言ってみせるが、エレノアは納得しない。
「殿下、例えそうだとしても、彼女達の気持ちを少しは尊重すべきですわ。」
怒りを含んだ、まっすぐな瞳でこちらを見てくる。
俺は、その瞳を見返した。
「そうだね、エレノア、君は正しい。君にそんな顔をさせるのは、私が悪いのだろう。」
俺は、ため息をついた。
「君からうまく断ってもらえないだろうか?
今後、そういうのを預かっても、君のところで処理してくれないか?」
エレノアは即座に首を振る。
「そんなことできませんわ。そんな人の気持ちを踏み躙るようなこと。」
「殿下、どうか人の気持ちには誠実にお答えください。
それが、例え受け入れられないものだとしても。」
相変わらず、正論だった。
「エレノア、落ち着け。公衆のまえだ。
君の王太子妃としての品性に傷が入っては申し訳ない。
悪かった、言う通りにする。」
そう言い残し、俺はその場を後にした。
エレノアとの間には、確実に溝が広がっていく。
……それでも。
愛しく思う気持ちだけは、消えないまま。
その様子を見ていたルシアンが、ぽつりと呟いた。
「相変わらず、可愛げのない女だな。」
エレノア自身、自分が正しいことを言っている自覚はある。
だが、なぜレオニスがあんな表情をしたのか。
それだけは、どうしても理解できなかった。
俺は、言われた通りに令嬢へ向き直る。
「君の気持ちは光栄に思う。でも、私には心に決めた人がいるから。」
丁寧に断る。
だが、それでも周囲の令嬢達は引かない。
「殿下の好みのタイプってどんな女性ですか?」
「殿下の妃になるにはどうしたら?」
正直、うんざりだった。
ただでさえ気が立っているというのに。
「わかった、答えよう。」
令嬢達の目が一斉に輝く。
「まず、妃になるには、私に、いやどんな国益をもたらすかで決まる。
利が大きいほど、私はその妃を大切にするだろう。」
「そこに愛とかないんですか?」
「必要ない。利のない妃などもらっても意味がないからな。」
俺は、表情を変えずに答える。
「それから、好みのタイプは、分別があって、口が硬くて、共に夜を楽しめる女性だ。
後腐れのない関係が一番だからな。」
その場の空気が一瞬で変わる。
女生徒達の顔が、みるみる赤くなっていく。
その中に、顔を真っ赤にして、何か言いたげに口を開けたまま固まっているエレノアの姿もあった。




