第21話 王女と王太子
毎週土曜日21時更新です。
雨が降ってきたのに、気がつき、急いで更新しました。
雨の日企画、第3弾、お楽しみください。
あれから、カイルは何も言わなくなった。
いつもなら軽口を叩くアルベルトも、ルシアンも黙ったままだった。
次の日、学園は大騒ぎだった。
もちろん、俺とマリアの件だ。
煩わしいと思いながらも、俺は無視を決め込もうとしていた。
ただ、昨日とは違う。
カイルは、絶対に俺から目を離さない。
そのせいで、昨日のように抜け出すことはできそうになかった。
エレノアは、いつも通りだった。
責めることも、問い詰めることもない。
……本当に、愛想を尽かされたのかもしれないな。
俺は、エレノアに何か言われたかった。
責められてもいい。怒られてもいい。
でも――エレノアは、何も言わない。
そのことが、何よりも俺を苦しめていた。
昼頃になって、マリアが退学処分になるという話が耳に入った。
さすがに放ってはおけない。
俺は、すぐにその場へ向かった。
そこには、リリア、クラリッサ、セレナ、ヴィオレッタ、エレノア。
そして、マリアがいた。
マリアは明らかに怯えている。
「これはどういうことだ?」
俺が問いただすと、教師の一人が口を開いた。
「殿下。この者は罪を犯しました。殿下を唆し、連れ回したのです。普段の生活態度も乱れており、殿下を惑わせました。よって―」
「違うな。」
俺は遮った。
「マリア嬢を唆し、連れ回したのは私だ。罰するというなら、私を罰せよ。」
「いえ、そのようなこと……殿下を罰するなど……」
「なぜだ? 学院を抜け出し、サボったのは私も同じだろう。
教師なら、平等に裁くべきじゃないのか?」
静かに、だがはっきりと言い切る。
「学院では身分は関係ない。そう教えているのは、あなた達だろう?」
「それに、マリア嬢を誘ったのは私だ。王太子に誘われて、断れる人間がどれだけいる?」
俺は、教員を睨む。
「卑怯なのは、私の方だ。」
「罵るなら、私を罵ればいい。」
その場が、しんと静まり返る。
「ですが、レオニス殿。」
クラリッサが口を開いた。
「婚約者のいる殿方に軽々しくついていくのも、貴族としてどうかと思いますが。
あらぬ噂が立てば、嫁入りにも影響が出ましょう?」
――なるほど。
そう来るか。
「つまり、私がマリア嬢の名誉を傷つけた、と?」
軽く笑ってみせる。
「なら、責任は取らないとな。」
ざわめきが広がる。
「側妃が五人だろうが六人だろうが、私は構わない。」
「だが、いいのか?クラリッサ姫。」
「あなたは王女でありながら側妃になる。
その上で、さらに寵愛される側妃が別にいるとしたら?」
「今の四人は、国益のために選ばれた存在だ。」
「だが、マリア嬢は違う。」
俺は、一呼吸ついて、続けた。
「私が初めて自分で選ぶ側妃になる。」
俺は、クラリッサを見た。
「その意味がわからない姫ではないでしょう?」
「それが、あなたの祖国アステリアでどう見られるかも。」
クラリッサは、黙った。
「それに、あなたが一番わかっているはずだ。」
俺は続ける。
「私とマリア嬢の間に、何もないことを。」
「何せ、アステリアの兵が私をずっとつけまわしていたのだから。」
一瞬の沈黙のあと、
クラリッサは、ふっと笑った。
「……お見通しでしたか、レオニス殿。」
そして、あっさりと認める。
「私は少々、嫉妬深くてな。つい夫の行動を監視してしまう。」
「あなたほどの殿方なら、他の女に取られないか心配で仕方がない。」
「……別に責める気はありませんよ。」
俺は肩をすくめる。
「おかげで、安心して出歩けた。」
クラリッサは、くすりと笑う。
「レオニス殿。どうせ政略結婚なら、見目麗しい男の子供を産みたいと思っていた。」
「あなたは見た目だけじゃない。度胸もあるし、頭も切れる。」
「……ますます、あなたの子が欲しくなった。」
とても、一国の姫の発言とは思えない大胆な発言だった。
「それは光栄ですね。」
軽く笑って返す。
「ですが私は臆病なもので。種馬にされて、用済みで切り捨てられるのは御免ですよ。」
俺は、笑顔で答えた。
その後、マリアも俺も処分は見送られた。
マリアは何度も頭を下げてくる。
だが、
「こちらの事情に巻き込んでしまって、すまなかった。」
そう言って、俺の方から頭を下げると、彼女は慌ててさらに恐縮していた。
帰り道、カイルが口を開いた。
「殿下……すべて承知の上で、昨日の行動を?」
「半分はな。」
軽く答える。
「残り半分は、ただの気まぐれだ。」
カイルはわずかに眉をひそめた。
「ですが……アステリアの兵が、あなたに危害を加える可能性は?」
「ないな。」
即答する。
「今の段階で、あちらにメリットがない。」
少しだけ視線を落とす。
「もし狙われるとしたら――クラリッサ姫との間に子ができた後だろう。」
カイルは、何も言わなかった。
ただ、どこか複雑そうな表情を浮かべていた。




