第19話 完璧な正妃
毎週土曜日21時更新です
今日は、6月企画第一弾。雨が降ったので、更新します。
その夜、俺は夢を見た。
夢というより、これはレオニスの記憶。
ある社交界の場のようだった。
そこで、レオニスとエレノアは賓客をもてなしていた。
レオニスに向けて、熱い視線を向ける令嬢達。
それに対し、レオニスに相手をするように促す、エレノア。
レオニスは不機嫌に、エレノアに
「エレノア、君は私が他の令嬢と親しくしても気にならないのか?」
と尋ねるレオニス。
「私は殿下を独り占めしようと思うほど、嫉妬深くはありませんわ。
それに殿下こそ、ご自身の立場を考えて行動なさいませ。」
と完全な笑顔で答えるエレノア。
その瞬間、俺は目が覚めた。
レオニスの複雑な心情が伝わってくる。
その気持ちは、俺にも理解できるものだった。
そう、エレノアは淑女として完璧。
おそらく、それは常に王太子妃としてどうあるべきかと考えての行動なのだろう。
エレノアは、王太子妃として完璧であることに一生懸命なのだ。
エレノアはレオニスの気持ちがわかっていない。
完璧なエレノアの唯一の欠点。
それは、男心がわからないところだな。
レオニスもまた、そんなエレノアの気持ちがわからなかった。
だから、二人はすれ違ってしまったんだ。
だが、俺はそうはならない。
わかり合いたいからこそ、話し合わないといけないんだ。
次の日、俺はクラウゼル侯爵邸へ赴いた。
邸宅では、エレノアが出迎えてくれた。
「殿下、ようこそおいでくださいました。父は今、あいにくの留守ですわ。」
「わかっている。私は、今日エレノアに会いに来たんだ。」
「えっ、はい。」
とエレノアは頬を赤くした。
普段はこんなに素直な反応をするのに、正妃のスイッチとでもいうべきだろうか。
いったんスイッチが入ると、たちまち、完璧な正妃になってしまう。
「では、裏庭でお茶を用意しますね。」
そう言って、お茶を用意してくれた。
クラウゼル侯爵邸の裏庭には、見事な洋庭だった。
季節の花々が咲き誇っている。
「ここは、本当にいつ来ても美しいな。」
「ありがとうございます、殿下。」
「まあ、この花々でも、君の美しさには叶わないが……」
「まあ、殿下ったら、一体何を。」
エレノアは表情がくるくる変わって、とても愛おしく思えた。
「エレノア、私は、君の本心が知りたい。」
俺は、ティーカップの紅茶を一口つけ、それから続けた。
「エレノア、私の側妃をもつことについて、どう思っている?」
エレノアは、先ほどの表情とは打って変わって、静かに微笑みながら答えた。
「どうって? 平気ですわ、殿下。」
「正妃として、きっと皆様と仲良くして見せます。
決して、殿下を煩わせるようなこと致しませんわ。」
その微笑みは美しかった。
でも、その笑みに何も感じられない。
「エレノア、私はそういう事を聞いているのではない。
君は、本心からそう思っているのか?」
エレノアは一瞬ぴくりとびくついた。
でも、それはすぐに収まり、
「ええ、本心ですわ。嫉妬で取り乱したり、夫を独り占めしようなど愚かではございません。」
また、正妃として、完璧な答えだった。
でも、俺の心は乱れ、ざわつく。
「そうか、君は心が広いのだな。
私は、君が他に夫を持つとしたら、いや、君が他の男に触れられるだけで、私は心穏やかではいられない。私はきっと、器量の狭い男なのだろう?」
「殿下? 何を仰っているのですか。私が、殿下以外の方と。
そんなことは絶対にありえませんわ。」
「それはわかっている。」
「どうなさったのです? 殿下?」
心配そうに見つめてくる、エレノア。
「でも、エレノア、君は私が他の女性を娶っても、嫉妬一つしないじゃないか?」
「それは当然ですわ。王侯貴族の正妃の嗜みですし、第一に、王侯貴族の男性は側室をもつことは常識です。ましてや、王族の方となれば、国の威信に関わってきます。」
エレノアは言った。
「流石に、一気に5人とは驚きましたが、覚悟はしておりました。
でも、即位すれば、側妃はもっと増えるでしょう。」
エレノアは、凛としていたが、今にも泣きそうな顔をしている。
ある意味、正妃としての覚悟は感じられるが、本心ではない。
俺は、確信していた。
「エレノア、君は強情だな。
そんな泣きそうな顔をして、何故、本心を打ち明けてくれない?
私は、君の本心が知りたい。それに私は、前に言ったが妻は君一人でいい。」
「殿下、私を困らせないでください。
第一、国王になられる殿下の妻が正妃だけなんてありえません。
いえ、今はそういう気持ちだったとしても、いつかは心変わりします。
父だって、結婚当初は母一人と誓ったそうですが、月日が流れれば、側室を3人娶りました。」
「私は、そういう意味では、殿下に何も期待しておりません。」
「それに、側妃も娶らないなど、殿下は甲斐性なしと笑われてしまいます。」
エレノアの顔を見ていると、それは嘘だということはすぐに理解できた。
理解できるのに、俺は怒りが込み上げてくるのを抑えられなかった。
「なるほど、私が側妃を持たないとエレノアの恥になるのか?
エレノアはどうして欲しい?どうなりたいのだ?」
「私は、王太子妃、いえ未来の王妃として、正しく殿下をお支えしたいのです。」
その回答はますます、俺を苛立たせた。
「ならば、君は、私の妻ではなく、人々に敬われる完璧な王妃になりたいのだな?」
エレノアは、俺の言葉にたじろいだ。
「いえ、そうではありません。殿下、あなたは王太子ではありませんか?」
「もういい、わかった、エレノア。私は君の願いを叶えよう。」
「望み通り、君を完璧な王妃にしよう。」




