第14話 レオニスの記憶
毎週土曜日21時公開です。
意識が、ゆっくりと沈んでいく。
意識が沈んでいく。
暗闇の中で、ゆっくりと何かが浮かび上がる。
それは、記憶。
俺のものではない。
だが確かに、この身体に刻みこまれた記憶だった。
最初に見えたのは、ひとりの女性の姿だった。
「母上。」
無邪気な笑顔でその女性に駆け寄る、幼い俺、いや、レオニス。
優しく微笑む、気品ある女性。レオニスの母だ。
王妃であった母は、穏やかで、誰よりも優しい人だった。
だが、その穏やかな日々は長くは続かなかった。
母の実家が、政局争いに敗れたのだ。
それから、母とレオニスの人生は変わった。
味方だった者たちは離れ、敵だった者たちは牙を剥く。
母は王妃の座を追われ、王城から姿を消した。
追放されたのだ。
その言葉の重みを、当時のレオニスはまだ完全には理解していなかった。
ただ、それ以来、母と会うことはなかった。
そして、理解した。
自分の立場も、決して安全ではないということ。
王宮という場所は、血縁すら守ってはくれない。
やがて、王妃の政敵の惻妃が、王妃に格上げされた。
王城は何事もなかったかのように動き続ける。
まるで、母の存在など最初からなかったかのように。
そして、その王妃の子、レオンハルト。
レオニスと同じ年の弟。
周囲は、レオニスを無視して、「次期国王誕生。」と喜び称えた。
だが、そんなことも長くは続かなかった。
レオンハルトの運命もまた、過酷だった。
ある日、レオンハルトの魔法適性が明らかになった。
レオンハルトの魔法属性は、闇。
この国で、最も不吉とされるものだった。
レオンハルトは、魔王の再来と言われ、忌み嫌われた。
そんなレオンハルトを国王は、離宮に幽閉。
それ以来、レオンハルトを見かけることもなくなった。
レオンハルトの母である王妃は、その事実を受け止めきれなかった。
日に日に言動は乱れ、やがて心を壊していった。
それでも、決定が覆ることはなかった。
国のため。
その一言で、すべてが切り捨てられた。
そして、レオンハルトが幽閉されたのち、皮肉にもレオニスは正式に王太子となった。
王太子となってからも、レオニスの心は休まる暇がなかった。
ただ、唯一心を許せるのは、エレノアだった。
言葉はきつい。
だが、嘘はなく、その裏には優しさと暖かさがあった。
嘘のないエレノアに、エレノアの言葉に、レオニスはどれだけ癒されたことだろう。
だからこそ、彼女は特別だった。
レオニスは守りたかった。
だが、その思いも叶わなかった。
ある日、国王に呼び出された。
そこで国王に言われたのは、聖女リリアとの婚約だった。
エレノアとの婚約を解消し、聖女を王太子妃として迎え入れろ。
エレノアは後ほど、側妃とすればいい。
レオニスは、初めて父に反抗した。
「父上、私の婚約者は、妻はエレノアだけです。」
国王は睨んだ。
だが、意外にも、
「よかろう、お前の意思を尊重しよう。」
と認めた。
「ありがとうございます、父上。」
「ただし……。」
と国王は続けた。
「聖女の力を安定させる必要がある。そのため、何事においても聖女を優先するように。その秩序を乱すものは、誰であろうと排除する。」
それは、脅しに近かった。
その瞬間、脳裏に浮かんだのは、エレノアの姿。
あの性格だ。
リリアに媚びることなど、絶対にしない。
むしろ、正面からぶつかるだろう。
そして、その結果は、想像するまでもない。
エレノアが排除される。
そのことだけは絶対に避けなくてはならない。
ならば、どうする?
答えは一つだった。
リリアが、レオニスに対し、特別な感情を持っていたことをレオニスは知っていた。
レオニス自身は、リリアに対しては、聖女以外に特別な感情はなかった。
でも、リリアの力が、精神が安定するまでは仕方ない。
リリアの精神を安定させるまでは、リリアを尊重し、エレノアとは距離をおこう。
エレノアを傷つけるだろうか?
だが、エレノアを守るためには、それしかない。
レオニスは、答えた。
「父上、わかりました。聖女の心の安定を第一に考え、行動します。」




