第13話「王の理」
毎週土曜日21時更新します。
ゴールデンウィーク中は、更新頻度上げています。
次回は、5月6日21時更新です。
俺が連れてこられたのは、謁見の間ではなかった。
より閉ざされた、尋問のための部屋だ。
正面には、国王。
その左右には、宰相、騎士団長、そして魔導士団長の姿がある。
……なるほど。
これは、思ったより深刻そうだ。
エレノアを来させなくて、本当に良かった。
こんな時なのに、俺は心からそう思った。
「王太子レオニス・ルミナリア」
国王の声が静かに響く。
「先ほどの件について、説明してもらおう」
「承知しました」
俺は一礼し、一歩前に出た。
周囲の視線が一斉に集まる。
まるで値踏みするようなその視線が、肌を刺す。
「聖女リリア様の力が乱れた原因についてですが――」
俺は、あらましをそのまま語った。
ミアへの対応。
エレノアの行動。
そして、リリアの様子。
余計なことは言わない。
ただ、事実だけを並べる。
「……以上です」
言い終えた瞬間、場がざわめいた。
「殿下、なんということをなさったのです」
最初に口を開いたのは、宰相フレドリック・アストレア。
ルシアンの父であり、息子と同じ銀髪にアメジスト色の瞳を持つ男だ。
国随一の頭脳と称されるその男は、無表情でこちらを見た。
「殿下、前にも申し上げましたが、聖女様は繊細なお方。
なぜ、そのお心を逆撫でするような行いをなさったのです」
「……」
反論しかけた、その時だった。
「……結局のところ」
宰相が、淡々と続ける。
「今回の件は、クラウゼル令嬢の振る舞いが引き金となったことは否定できません」
空気が一気に張り詰める。
「殿下のお話を総合すれば、聖女様のお心を乱した直接の要因は――
クラウゼル令嬢の言動にあります」
「な……っ」
思わず声が漏れる。
「もちろん、悪意があったとは申しません」
宰相は変わらぬ調子で続けた。
「ですが、結果として聖女を乱した以上、その責は免れない。
これは、国家として、看過できる問題ではありません」
「だが」
その言葉を遮ったのは、カイルの父であり、騎士団長ガレス・ヴァルディスだった。
低く、よく通る声。
「殿下の話を聞く限り、殿下の行為も、クラウゼル令嬢の行為も、非難される点は見当たらん」
カイルと同じ黒髪に、シルバーグレイの瞳。
堂々とした体躯は、まさに武人そのものだ。
「……問題は結果だ」
宰相は、苦々しく答える。
「結果として、聖女様は乱れた」
「だからといって、無実の者に責を負わせるのは騎士道に反する」
「騎士道では国は守れません」
二人は一歩も引かない。
「二人ともやめなさい」
その場を制したのは、魔導士団長アルトゥス・レイヴァンだった。
グレイの髪と瞳。整った顔立ちをしていた。
「今は、責任の所在を争っている場合ではありません」
静かだが、場を支配する声だった。
「問題なのは、聖女様が暴走し、闇堕ちしかかったことです」
その一言で、空気が変わる。
「聖女様が闇堕ちすれば、国に災いがもたらされる」
俺は内心、そんな迷信のような話を信じられるかと思った。
だが――
「過去に、同様の事例がありました」
魔導士団長は続ける。
「その際、この国は疫病と災害に見舞われ、国民の半数を失っています」
……半数。
その重さが胸にのしかかる。
「今回は我々の力で抑え込みましたが、聖女の力は本来、神の領域に属するもの。
次に同じことが起きた場合、抑えられる保証はありません」
おそらく、それは事実なのだろう。
「現在は教皇をはじめ、神官たちが祈りによって浄化を試みていますが――
いつ再び暴走してもおかしくない状況です」
そして、魔法師団長は、キッパリと言い放った。
「ゆえに、最優先すべきは聖女様の安定です」
宰相は、勝ち誇った顔をする。
騎士団長は何か言いたげだが、言葉にならないようだった。
魔導士団長の言葉を受けて、国王がゆっくりと俺を見た。
「レオニスよ、聖女がどのような存在か、理解したか」
「……はい」
「聖女とは、国の守護そのものだ」
低く、重く。
「ゆえに、聖女を闇に堕とすことは――国を滅ぼすに等しい」
その言葉は、紛れもない現実だった。
だが――
「……それでも」
俺は顔を上げた。
「私は、今回の件に関して、エレノアに非はないと断言いたします」
空気が凍りつく。
「殿下、王族たるもの、国家を第一に考えるべきです。私情を優先されては困ります。」
宰相は眉間に皺を寄せた。
「私情ではありません、事実です。」
俺は即座に言い返す。
宰相は、冷ややかな目を向ける。
「結果がすべてです」
「原因を無視した結果に意味はありません」
「やめろ、レオニス」
国王の声が響いた。
「お前は、どんな立場にある」
「……王太子です」
「ならば理解しろ」
一切の揺らぎもない声だった。
「一人を見捨てることで、千を失う可能性があるならば――王は迷わず千を選ぶ」
……それが、王か。
「それができぬ者に、王の資格はない」
「……では」
俺は、視線を逸らさなかった。
「婚約者一人守れない男が、国を守れるのでしょうか」
空気が張り詰める。
「レオニス」
国王の怒声が響く。
「私情を捨てろ。国を見ろ」
「それは私情ではありません」
俺は怯まなかった、そして、続けた。
「目の前の理不尽から目を逸らさないことも、王の責務のはずです」
俺が言い放った時だった。
――やめろ
……っ?
頭の奥に、声が響く。
――それ以上は危険だ
誰だ……?
「……っ」
視界が揺れる。
激しい痛みが、頭を貫いた。
「殿下!?」
誰かの声が遠くなる。
立っていられない。
膝が崩れる。
「レオニス!」
国王の声。
だが、もう、、、。
俺の意識はそのまま遠のいていった。




