第112話 エレノアの帰省
「レオニス、てめー。」
レオンハルトは、心底呆れたように怒っていた。
「何で怒っているんだ?レオンハルト。」
俺は肩を竦める。
「お前のせいで、俺がどんだけフォローしたと思ってるんだよ。」
レオンハルトは俺を睨みつけた。
「お前、意外と女に優しいんだな。
そんなだと、女につけ込まれるぞ。」
俺は淡々と忠告する。
「だからって俺は、あんな笑顔でひでえこと言えねぇ。」
レオンハルトは軽蔑したような目を向けてきた。
先程のサロンでのことだ。
案の定、娘を売り込みたい貴族や、俺やレオンハルト狙いの令嬢達が次々と近づいてきた。
レオンハルトは乱暴な言い方をしながらも、何だかんだ相手をしていた。
一方、俺は必要最低限しか話さない。
家名、爵位、軍との関係性。
それだけを確認しながら、淡々と対応していた。
「だからってお前、
“あなたの身分では、私が側妃に迎えても何の利もないので、時間の無駄ですね。”
とか、
“あなたの父上は軍官僚の上位。ですので、多少話をする価値はありそうですね。”
とか、笑顔で言いやがって。」
レオンハルトは信じられないものを見る目をしている。
「女相手によくそんな酷いこと言えるな。」
確かに、その度にレオンハルトが慌てて場を取り繕っていた。
「私は早くこんな茶番を終わらせて、エレノアとのんびりしたいからな。」
俺は平然と答える。
「側妃を持つ気はないと知らしめたい。
だから評判など気にしない。」
そう言うと、レオンハルトは深いため息を吐いた。
宮へ戻ると、俺は真っ先にエレノアの元へ向かった。
「エレノア、ただいま。
君は相変わらず美しいな。」
そう言って、俺はエレノアを抱き上げる。
「殿下、下ろしてください。」
エレノアは慌てて身をよじるが、俺は離さない。
「嫌だ。
だって、しばらく君はここにいないんだから。」
そう言って、さらに抱き寄せた。
エレノア達、妃教育を受けている令嬢達は、しばらく実家へ帰省することになっている。
エレノアも、王太子妃となれば、もう気軽に実家へ帰ることは難しくなる。
今でさえ忙しく、会える時間は限られているというのに。
「エレノアは平気なのか?
私と離れて。」
俺は不安そうにエレノアを見る。
エレノアは少し寂しそうに微笑んだ。
「殿下、私も寂しいです。」
その言葉だけで、胸が満たされる。
「私もとても寂しい。
実家へ帰ることを許したのは失敗だったと、今更ながら後悔している。」
俺は本音を漏らした。
「殿下……。」
こんなにも愛おしいエレノアがいて、惻妃など持つ気になるはずがない。
クラウゼル侯爵家の迎えが来るまで、俺はずっとエレノアのそばにいた。
「エレノア、絶対に怪我をしたりしてはいけないよ。」
俺は真剣に言う。
「私は、君が傷つくことだけは決して許さない。」
そう言って、そっと口づけた。
エレノアはそのまま馬車へ乗り込み、クラウゼル侯爵家へ向かっていく。
俺は、その姿が見えなくなるまで見送っていた。
その様子を見たチェルシー夫人が、くすりと笑う。
「たった十日ほどですが、そんなに恋しいのですか?」
俺は深く項垂れた。
「私は……エレノアが十日も離れるなど、耐えられる気がしない。」




