第111話 社交の季節
リリアとルシアンの婚約は、驚くほどあっさりと国王や王太后にも認められた。
アストレア侯爵家は名門貴族の一つ。
反対する理由も特にない。
一方で、サビーネの婚姻問題は難航していた。
グランディア伯爵の意向で、アルベルトも候補の一人として挙がったのだが、
女性関係を危惧した第二妃が反対したのだ。
アルベルト本人は、
「天の助けです。」
と大喜びしていた。
そして、
当然のように、俺にも惻妃問題が降りかかってくる。
今、俺とレオンハルトは、国王や大臣、重鎮達に呼び出されていた。
「殿下、以前お話した惻妃候補の件ですが……。」
宰相が切り出す。
「何で俺まで呼び出されるんだよ。」
レオンハルトは露骨に嫌そうな顔をした。
「お前も侯爵になったとはいえ、陛下の血を引いているんだ。
少しは殿下を手助けしてやりなさい。」
財務大臣が呆れたように言う。
するとレオンハルトは即座に、
「だから、お前、それでもヴィオレッタの父親か?」
と悪態をついた。
俺もまた、クラウゼル侯爵から、
「殿下、どうか娘のことは気になさらず、国益をお考えください。」
と言われ、複雑な気持ちになる。
「ところで、殿下もレオンハルト様も、何故そこまで側室を持つことを嫌がるのですか?」
宮内省長官が不思議そうに尋ねた。
レオンハルトは、迷いなく答える。
「親父の女癖が悪くて、母上も俺も苦労したからだ。
俺は嫁にそんな思いをさせたくない。」
「私も全く同感だ、レオンハルト。」
俺も頷いた。
宮内省長官や大臣達は、何とも言えない顔をしている。
すると国王が不機嫌そうに口を開いた。
「その“女癖の悪い父親”というのは、余のことか?」
「じゃがな、そのおかげでお前達は生まれたんじゃ。」
流石に、それには俺もレオンハルトも何も言い返せなかった。
どうやら国王も半ば諦めたらしく、最近では惻妃について強く迫ることはなくなっていた。
「とりあえず、こちらのサロンと舞踏会には参加してください。」
宰相が書類を差し出す。
「殿下達がしっかり意思表示をすれば、向こうも諦めるでしょう。」
そうして、俺達は社交の場へ向かうことになった。
通常、貴族達のサロンや舞踏会は、男女の出会いの場でもある。
「きゃー、レオニス殿下だわ!
きっと惻妃を選びに来たのよ。」
「あちらはレオンハルト様よ!
まさか、レオンハルト様まで……?」
令嬢達の歓声が飛び交う。
「レオニス、レオンハルト。
相変わらず、あなた達はモテますね。」
俺達に気づいたアルベルトが近寄ってきた。
「アルベルト、お前、何でここにいるんだ?」
レオンハルトが怪訝そうに聞く。
「だって今、社交の季節で学院も休みじゃないですか。
父上が“早く身を固めろ”とうるさくて、仕方なく来たんですよ。」
アルベルトは心底うんざりした顔をしていた。
「レオニス達は、惻妃選びですか?」
「逆だ。
惻妃を断るために来た。」
レオンハルトは堂々と言い切る。
確かにその通りなのだが、俺は苦笑した。
するとアルベルトは、早速別の方向へ視線を向ける。
「あちらのご令嬢、中々美人ですね。
少し声をかけてきます。」
そう言って、さっさと立ち去っていった。
「あいつ、本当に女好きだな。」
レオンハルトは呆れたように呟いた。




