第110話 聖女の婚約⑥
俺は、レオンハルトから事情を聞かされていた。
「だから、どうにかしてくれ、レオニス。」
レオンハルトが頭を下げる勢いで言う。
「そうですよ。女性問題と言えば、レオニス、あなたでしょう?」
アルベルトまで便乗した。
ルシアンは何も言わず、ただ、すがるような目で俺を見ている。
「どうにかしろと言われても、どうにもならん。」
俺は冷たく言い放った。
正直、人の恋路など心底どうでもいい。
「エレノアとイチャイチャしているところ邪魔されて、すねてるのよ。
大人気ない。」
セレナが呆れたように言う。
……まあ、否定はできない。
俺はそっぽを向いた。
そんな俺の袖を、エレノアがそっと引っ張る。
「殿下、ルシアンが気の毒ですわ。
それに、私が思うに、リリアも素直になれないだけだと思います。」
エレノアは優しく言った。
「エレノア、それは本当か?」
普段はエレノアを毛嫌いしているくせに、ルシアンはすぐに食いつく。
エレノアは小さく頷いた。
「ええ、私にはそう見えました。」
その言葉に、ルシアンの表情がぱっと明るくなる。
「そうか。流石、エレノアだな。
ありがとう、勇気が湧いてきた。」
調子のいい奴だな。
俺は苦笑する。
「で、レオニス、どうするんです?」
アルベルトが面白そうに聞いてきた。
「そんなもの、ルシアンがリリアに告白するしかないだろ。」
俺は当然のように答える。
だが、ルシアンは不安そうに俯いた。
「だが、私はレオニスみたいに、かっこいいことも華やかなことも言えない。」
「別に、かっこよくなくてもいいんじゃないか?」
俺は肩を竦める。
「お前の気持ちを正直にぶつけてみろ。
そうすれば、きっとお前の気持ちは届く。」
セレナは、そんな俺を見て感心したように言った。
「流石、“光の王太子”。いいこと言う。」
「やっぱり、女性問題に関してはレオニスに聞くのが一番ですね。」
「だな。」
アルベルトとレオンハルトも揃って頷く。
どうやら、ルシアンも覚悟を決めたようだった。
そして、俺達はリリアを探した。
リリアは、音楽室で一人静かに佇んでいた。
ルシアンは、意を決したようにリリアへ歩み寄る。
俺は、
「無粋な真似はやめろ。」
と止めた。
だが――
「俺達には見守る義務があるんだよ。」
「そうですよ。ダメだった時、誰がルシアンの骨を拾うんですか。」
「そうよ。こんな面白いこと、見逃せないじゃない。」
レオンハルト、アルベルト、セレナは全く聞く耳を持たない。
そして極めつけは、
「殿下、私も見守りたいです。」
エレノアまでそんなことを言い出した。
結局、俺も巻き込まれる羽目になる。
ちなみに、カイルには邪魔が入らないよう、しっかり見張りを頼んでおいた。
そして――
ルシアンが覚悟を決めたように叫ぶ。
「リリア、私と結婚してください!」
「うわー、いきなり結婚って、それはないよね。」
「本当に何考えているんでしょうね、ルシアン。」
セレナとアルベルトは呆れている。
だが、ルシアンは止まらなかった。
「もし、リリアが結婚してくれなかったら、私はここから飛び降りて死ぬ!」
リリアは顔色を変える。
「ちょ、ちょっと待って、待ちなさい、ルシアン!」
「ありゃあ、告白じゃなくて脅迫だな。」
レオンハルトは苦笑した。
そして、ついにリリアが叫ぶ。
「わかったから!わかったから、ルシアン!
だから、もうやめて!」
「本当か、リリア!」
ルシアンは嬉しそうに身を乗り出した。
――だが、その勢いで身体がふわりと宙へ浮く。
せっかく恋が実ったというのに、誰もが「あっ」と息を呑んだ。
だが、ルシアンは風魔法で宙に浮いていた。
それを見たリリアは、
「ルシアン、騙したわね!」
顔を真っ赤にして怒鳴る。
こうして――
リリアとルシアンの婚約が決まった。




