第109話 聖女の婚約⑤
ルシアンは、次の日、学院でリリアの姿を見つけるなり、得意げな顔で言った。
「リリア、喜べ。父上がお認めになったぞ。」
だが、リリアは冷めた目で返す。
「だから?」
その反応に、レオンハルトが慌てて口を挟んだ。
「お前、もう少し嬉しそうな顔しろよ。
ルシアン、お前のために頑張ったんだぞ。」
リリアは呆れたようにため息をつく。
「意味わからない。
第一、私、ルシアンと結婚したいなんて言ってない。」
そう言って、ぷいっとそっぽを向いたまま立ち去ってしまった。
その様子を見ていたアルベルトが、呆れたように肩を竦める。
「そりゃそうでしょう。
聖女様が望んでいたのは、偽装婚約なんですから。」
ルシアンは、その場で完全に固まっていた。
レオンハルトは頭を抱える。
「何でこうなるんだよ。」
「あなた達、全く周りが見えていませんでしたからね。」
アルベルトは苦笑する。
「じゃあ、どうすればいいんだよ。」
レオンハルトは真剣に悩み始めた。
「そりゃあ、わかりませんね。
でも、女性関係と言ったらレオニスでしょう。」
アルベルトは軽い調子で言う。
「それもそうだな。よし、レオニスのところ行くぞ。」
レオンハルトも即同意した。
「レオニス、今、エレノアとイチャイチャ中なのに。
きっと怒るよ。」
セレナはそう呟きながらも、面白そうにレオンハルト達の後を追っていった。
――そして、その頃。
セレナの予想通り、俺はエレノアと二人きりの時間を満喫していた。
しかも、邪魔が入らないように、カイルに見張りまでさせている。
「エレノア、ようやく二人きりになれた。
私は何かと忙しくて、君が恋しくてたまらなかった。」
「殿下……。」
エレノアは、頬を赤く染める。
「もう、エレノアが恋しすぎて、充電しないとな。」
そう言って、俺はエレノアを抱きしめた。
せっかく久しぶりに、エレノアとゆっくり過ごせると思ったのに――
バタバタと騒がしい足音が近づいてくる。
「おい、カイル!レオニスいるか?」
レオンハルトの声が響いた。
カイルは必死に止めている。
「殿下は、今、殿下はお取り込み中でして。
“絶対に、いかなる場合も誰も通すな”とご命令を受けております。」
「そんなの知るかよ。
どうせエレノアとイチャついてるだけだろ。」
レオンハルトは全く悪びれない。
「そんなもん、家でいくらでもできる。
今はそれどころじゃないんだよ。」
「カイル、あなた見張りなんてさせられてるのですか?
護衛騎士の使い方、絶対間違ってますよ。
あなたも大変ですね。」
アルベルトの同情混じりの声まで聞こえてくる。
「カイル様、無駄な抵抗はやめてどきなさい。
レオニスとエレノアがイチャついてるところ、突撃しましょ。」
セレナの楽しそうな声まで混ざっていた。
「殿下、離れてください。」
完全に甘い空気は吹き飛び、エレノアはすっかり正気に戻っている。
俺は、不機嫌を隠しもせず低い声で言った。
「お前達……貴重なエレノアとの時間を邪魔するとは。」
そして、
「何か用か?」
殺意を込めて言い放った。




