第108話 聖女の婚約④
「はあ〜……。」
リリアは深いため息をついていた。
「何ため息ついてるのよ。幸せ逃げるよ。」
いつものように、セレナが軽口を叩く。
「リリア、ルシアンのことを考えているのですか?」
エレノアが優しく尋ねた。
リリアはエレノアを見る。
「そうなの。
もう暴走しちゃって、私の気持ち置き去りなんだから。」
頬を膨らませる。
「私、ルシアンと結婚したいなんて、一言も言ってないのに。」
そう言って、むくれた。
ヴィオレッタが不思議そうに聞く。
「リリア、ルシアンのこと嫌いなの?」
リリアは少し考えてから答えた。
「そんな風に見たことなかった。
だって、私、ずっとレオニスしか見てなかったもん。」
今は、リリア、セレナ、エレノア、ヴィオレッタのいつものお茶会だ。
「まあ、“光の王太子”と比べたら、ルシアンも可哀想だよね。
あいつ、ずるい男だから。」
セレナは肩を竦める。
ヴィオレッタも小さく頷いた。
エレノアは、どこか複雑そうに苦笑している。
「ねえ、ところでリリア。
前から聞きたかったんだけど、あんた、レオニスのどこが好きだったの?」
セレナは興味津々で聞いた。
「えっ?だって、かっこいいじゃん。」
リリアは即答する。
「何それ、見た目ってこと?」
セレナは茶目っ気たっぷりに笑う。
「違うわよ。
言うことも、することもかっこいいじゃない。」
「スマートだし。
私は、華のある男がタイプなの。」
リリアは言い切った。
「まあ、あの男と比べたら、全ての男が地味に見えるわ。」
セレナは呆れたように笑う。
「でも、ルシアンも悪くないと思うけどね。
ズレてるけど、あんたに真剣だし。」
「見た目もそこそこいいし、何だかんだ言って、天才魔術師様じゃん。」
ヴィオレッタも賛同する。
「私も、充分ありだと思いますわ。」
リリアは顔を赤くしながら、ぷいっとそっぽを向いた。
だが、その様子は、まんざらでもなさそうだった。
エレノアは、そんなリリアを静かに見守っていた。
一方その頃――
事件は起きていた。
いつまで経っても帰ってこないルシアンを迎えに、
宰相がヴァンデル侯爵家を訪れたのだ。
「ルシアン、いつまで他家に迷惑をかけているんだ。帰ってこい。」
「嫌です。帰りません。父上が認めてくださるまでは。」
宰相は深くため息をついた。
「ルシアン、そんなに聖女様が良いのか?」
ルシアンは真っ直ぐ父を見た。
「はい。」
迷いなく答える。
「私は、リリアを一目見た時から惹かれていました。」
「リリアを諦めるくらいなら、死んだ方がましです。」
ルシアンは、そう叫んだ。
そこまで本気なのか。
宰相は額を押さえながら、再びため息を吐く。
「……わかった。
聖女様へ婚約の申し入れをしよう。」
ついに折れた。
「父上……では、認めてくださるのですね!」
ルシアンの顔が一気に明るくなる。
「だが、聖女様が何と言うかは分からんからな。」
「はい!断られても、絶対に諦めません。」
ルシアンは力強く言い切った。
「やったな、ルシアン。」
レオンハルトは笑みを浮かべる。
「レオンハルト、ありがとうございます。
あなたのおかげです。」
そう言って、ルシアンとレオンハルトは固く手を取り合った。
――だが、その二人の頭からは完全に抜け落ちていた。
そもそもの発端が、リリアの“偽装婚約計画”だったことを。




