第107話 聖女の婚約②
「ねえ、リリア、どうするの?ルシアン、本気だったわよ。」
セレナはニヤニヤしながら言った。
「そうですね。あの様子では、婚約したとしても破棄するのは難しいでしょうね。」
アルベルトも完全に面白がっている。
そして、
「聖女様、大変ありがたいお話ですが、ルシアンとの友情を守るため、辞退させていただきます。」
と、真顔で告げた。
「まあいいわ。アルベルトはサビーネ姫と結婚したいのね。
そう言っておくわ。」
リリアは、さらりと言う。
「それはどういうことですか?」
アルベルトは露骨に狼狽えた。
「グランディア伯爵は、どうしても王族と婚姻を結びたいみたいなの。
年齢的に、私とアルベルトがちょうど釣り合うから、最初は私に話が来たのね。」
「でも、私は養女でしょう?
だから、本命はサビーネ姫なんだと思うわ。」
セレナは、ぱっと顔を輝かせた。
「きゃー、おめでとう。十歳の婚約者。
お兄様、若いお嫁さんが来て良かったわね。」
「ちょっと待ってください。
私は王女様なんて畏れ多くて、結婚なんてできません。」
アルベルトは頭を抱える。
「それは、王太后なり陛下に言うのね。」
リリアは楽しそうに笑った。
「確かに、王太子との縁組を諦めさせたから、お兄様に王女を娶らせることにしたのね。」
セレナも納得したように頷く。
「アルベルト、王室側から正式に申し出があれば、断れないわね。
それこそ、首と胴体が離れてしまいますわ。」
エレノアまで、かなり面白がっていた。
「レオニス、あなたの妹なんですよ。何とかしてください。」
アルベルトは俺に助けを求める。
俺は少し考えてから答えた。
「そうだな。サビーネとグランディア家の縁談もありだし、リリアとアステリア家の縁談も悪くない話だな。」
「レオニス、あなた、私と結婚して妹が不幸せになってもいいんですか。」
アルベルトは、真剣な顔で俺を見る。
「なあ、レオニス。ルシアンはともかく、アルベルトは反対だ。
政略結婚は避けられないとはいえ、サビーネが可哀想だ。」
レオンハルトが珍しく真面目に反対した。
「お前らしいな。だが、レオンハルト。」
俺は小さく息を吐く。
「陛下と第二妃様の希望は、サビーネをできるだけ近くへ嫁がせることなんだ。
だが、サビーネと年齢の合う中央貴族の子息には、すでに婚約者がいる者が多い。」
「今、中央にいる貴族で、身分的にも年齢的にも釣り合いが取れるのは、アルベルトしかいない。」
俺は現実を告げた。
「それに、サビーネの年齢を考えても、すぐに結婚という話にはならないだろう。
別にいいんじゃないか?」
だが、アルベルトは即座に否定する。
「何勝手に話をまとめているんですか?
ちっとも良くありませんよ。」
「結婚は先送りにできても、王女の婚約者になれば、ある程度行動が制限されます。」
「今みたいに気軽に花園へ行ったり、花を愛でたりもできなくなるんですよ。
そんなの、私には耐えられません。」
キッパリと言い切った。
レオンハルトは吹き出す。
「じゃあ、お前、それを国王なり王太后なりに直接言うんだな。
きっと面白いことになるぜ。」
不敵に笑っている。
その頃――
ルシアンは宰相に、リリアと婚約したい旨を申し出ていた。
だが、
「ルシアン、なんと畏れ多いことを言うのだ。」
と真っ向から反対され、まさかの家出をしていた。
ルシアンの暴走は、まだまだ続く。




