第106話 聖女の婚約①
「ねえ、アルベルト。私達婚約しない?」
唐突なリリアの申し出に、アルベルトは驚愕を隠せなかった。
「何をいきなり言っているんですか?聖女様。」
明らかに狼狽えている。
「うそー、ここから、まさかのお兄様ルート。」
セレナは興奮を隠せない。
「何考えているんだ、聖女は。」
レオンハルトは呆れていた。
ここは学院。
今は授業の合間の休み時間なのだ。
リリアの突然の申し出に、周囲の視線が一斉に集まる。
当然、それは俺やエレノアも同じだった。
「だって、グランディア伯爵家からの申し出あったわよ。」
リリアは悪びれもなく言う。
「それはですね、父上が勝手に申し出ただけで、私の意思ではございません。」
アルベルトはキッパリと言い切った。
「でも、お兄様、いい加減に婚約しろってお父様に常日頃から言われているよね。
第一、結婚しないと爵位継げないじゃん。」
セレナが口を挟む。
「だから、別に本気で結婚するわけじゃないんだって。」
リリアは軽い調子で続けた。
「それは、どういうことですか?」
アルベルトは食いつく。
「周りがうるさいから、とりあえず婚約しちゃえば、これ以上騒がれないでしょ。
それに、後で適当な理由つけて解消すればいいし。」
リリアの提案に、アルベルトは「なるほど」と頷いていた。
どうやらまとまりそうだな。
俺がそう思った時だった。
「ちょっと待て。それで、何故、アルベルトなんだ?」
ルシアンが割って入る。
「ちょっと待った、きたー。」
セレナは、一世代前に流行したカップリング番組の司会のような口ぶりでニヤけていた。
「別に他意はないけど。
ただ、もう、お見合いだの舞踏会だの鬱陶しくて。」
リリアはうんざりした顔をする。
「第一、そんなことするために王女になったんじゃないのに、本来したいことができないんだもん。」
とっとと婚約すれば、静かになるかなと思って。」
「それは理解する。私も最近では父上がうるさいからな。」
ルシアンは深く頷いた。
「だが、なんでアルベルトなんだ。」
それでも、そこだけは納得できないらしい。
「申し出があった中で、一番、私と利害が一致しそうなのがアルベルトだったからよ。
それに、セレナもいるから心強いし。」
リリアの言葉に、セレナは「任せなさい」と言わんばかりに胸を叩いた。
「待て。それでは、別にアルベルトでなくてもいいのだな?」
「?????」
リリアは不思議そうに首を傾げる。
「ルシアン、何が言いたいの?」
「私と婚約しようと言っているのだ。」
ルシアンは、顔を赤くしながら言った。
教室が、一瞬静まり返る。
「だいいち、アルベルトみたいな女好きと婚約したって、悪評判が立つばかりで、いいことなんて全くない。」
「すでにレオニスみたいな女好きと婚約してたから、もう今更って感じがするわ。」
セレナが呆れたように言う。
「そうですよ。それにルシアン。
あなたもいつもなんだかんだ言って、私と一緒に遊んでいますよね。
そう大して変わりません。」
アルベルトも同意した。
「なあ、これどうなるんだ?」
「さあ、どうなるのでしょう?」
レオンハルトとエレノアは興味津々だ。
リリアは、そんなルシアンを見て、キッパリと言った。
「でも、あんた。アステリア侯爵家から申し出なかったわよ。」
「なんだと。」
ルシアンの顔色が変わる。
「では、今から父上を説得してくる。だから、待っていろ、リリア。」
そう言って、ルシアンは勢いよく教室を飛び出していった。
「偽装婚約なのに、何あんなにムキになってるんでしょ。」
アルベルトは呆れたように呟いた。




