第105話 王室の婚姻問題
それからすぐに、国王は退出し、場は解散となった。
クラリッサやセドリックも、大臣と共に立ち去っていく。
俺もその場を後にしようとしたが、宰相達に呼び止められた。
「殿下、お待ちください。」
宰相が声をかける。
「何か用か?」
「殿下がエレノア嬢を寵愛されていることは、皆知っております。
ですが、それでも殿下との縁談を望まれる声が後を絶たないのです。」
宰相は、ため息混じりに続けた。
「差し詰め陛下にお願いしているのですが、陛下は最近では、
“あやつに直接言え。わしはもう、そのことであやつと口論するのは疲れた”
と仰り、取り合ってくださらなくてな。」
「陛下は賢明だな。」
俺は、くすりと笑う。
「ええ、そうでしょうとも。
ですが、おかげで宰相である私のところに話が来て困っております。」
宰相は本気で頭を抱えていた。
「殿下はおもてになりますからな。
最近では、殿下でなければ嫌だとご令嬢がごねて、親の方が困っているとも聞きますぞ。」
騎士団長は豪快に笑った。
「私は惻妃を持つ気は全くない。
だいたい、惻妃、惻妃と簡単に言うが、惻妃を一人娶るだけでも莫大な金がいる。
結果、国庫を圧迫することになれば、国が傾くとも限らない。」
俺は、キッパリと言い切った。
「殿下のお考えもごもっともです。
陛下と同じ感覚で、殿下まで惻妃を持たれてはたまりませんからな。」
宰相は再びため息をつく。
「私も娘婿のレオンハルトにも言っているのだ。
殿下の負担を少しは分担してやれとな。」
財務大臣も口を開く。
「だが、あやつは
“それがヴィオレッタの親父の言うことか”
と頑として聞き入れん。」
簡単に想像できるやり取りに、思わず苦笑する。
「私の一族の娘も、殿下の惻妃になりたいと望んでおりましたが、
アルベルトとセレナに反対され、尻込みしている状況なのです。」
グランディア伯爵も苦笑した。
「せっかく殿下の惻妃になれても、
次期当主であるアルベルトの後ろ盾がなければ成り立ちませんからな。」
「私達も、殿下に無理に惻妃を取れとは言いますまい。
世継ぎ問題は、その時に考えるとしても――」
宰相は、真剣な表情になる。
「我々でも、無碍に突っぱねることができない相手がいるのです。」
「その者達を、殿下ご自身で説得してください。」
その申し出を、俺は断ることができなかった。
こうして俺は、新たな惻妃候補達と見合いをすることになる。
宰相から渡された候補者の一覧には、主に軍関係者の名が多かった。
確かに、今の王室と軍の関係は深いとは言えない。
国王の第四妃の父親は、軍官僚の頂点とも言える存在だが、子は生まれていない。
さらに、オルレアン侯は将軍の娘を妻にしているが、
あの男には常に謀反の噂が付きまとっている。
いざとなれば、軍事力を背景に反乱を起こしかねない。
だからこそ、宰相の言う通り、無碍にはできなかった。
一覧の中には、“東の国境の守りの要”とも呼ばれる、
スウィフト将軍の娘の名前もある。
スウィフト将軍は数々の武功を挙げ、伯爵位を授かった男だ。
新興貴族とはいえ、決して軽視できる相手ではない。
故に、宰相も俺に直接話を持ってきたのだろう。
しかも、問題を抱えている王族の婚姻は、俺だけではなかった。
まずは、国王の養女となり、王女となったリリア。
聖女を国外へ出すわけにはいかない以上、
国内の有力貴族へ嫁ぐ可能性が高い。
だが、リリア自身は政略結婚に戸惑いを隠せないようだった。
そして、もう一人。
国王と第二妃との間に生まれた娘、サビーネ姫。
まだ十歳だが、王族として婚姻が決まっていないのは、むしろ遅いくらいだ。
だが、国王はこの姫を溺愛しており、嫁に出したがらないらしい。
――全く。
王族というのも、楽ではない。
俺は、今回はどう切り抜けるべきか、頭を悩ませていた。




