第102話 同じ感性
その夜、俺はテラスに出て、エレノアと星を見ていた。
「殿下、綺麗ですね。」
エレノアが静かに言う。
「本当に綺麗だ。でも、残念だが、君の美しさには叶わない。」
俺はエレノアを見つめた。
「殿下。」
エレノアは顔を真っ赤にして俯く。
その様子が、たまらなく愛おしい。
「エレノア、君はチェルシー夫人のこと、どう思う?
やっていけそうか?」
王太后や王妃からの信頼は厚い。
だが、それ以上に大事なのはエレノアとの相性だ。
もし気に入らないようであれば、王太后の推薦であっても返すつもりでいた。
「殿下、大丈夫ですわ。私は王太后様の期待に答えられるように頑張りますわ。」
そう言って、エレノアは微笑む。
「エレノア、君はもうすでに頑張っている。だから、それ以上がんばる必要はない。」
俺は、エレノアが心配だった。
エレノアは生真面目で、心優しい。
自分に厳しく、常に他人を思いやっている。
だが、その分、自分の心に負荷をかけやすい。
だからこそ、少しでもその負担を軽くしたいと思う。
――だが。
王太子という立場が、それを許さない。
エレノアを、この王宮という名の檻に閉じ込めてしまっている。
その事実が、どうしようもなく苦しかった。
「殿下、大丈夫ですわ。
それに私、チェルシー夫人に何か懐かしいものを感じますの。」
エレノアが言う。
俺は思わず目を見開いた。
「エレノアもか?実は私もなんだ。」
エレノアも驚いた表情を見せる。
「私達は、きっと感性が同じなんだな。」
そう言って、俺はエレノアにキスをした。
それから、数日後。
王室主催の宴で劇団が来なかった件について、俺は王室の秘密組織“影”に調査を命じていた。
影は、国王もしくは王太子直属の部隊。
決して表に出ることはない。
表の組織――検察省や法務省では、揉み消される可能性がある。
だからこそ、影を使った。
俺は、クラリッサに宣言した通り、この件をうやむやにするつもりはない。
やがて、影の一人が調査結果を持ってきた。
――エレノアと俺が劇団に了承をもらった翌日。
「王宮では伝統を重んじるため、そちらは使用しないことになった」
という連絡が、宮内省の官僚の名で劇団へ届いていた。
劇団員達は、王室御用達に慣れると張り切っていただけに、落胆は大きかったという。
だが――
その官僚は、当日休暇中だったことが判明する。
では、誰が名を騙ったのか。
影の調査により、巧妙に隠されていたが、一人の侍女に辿り着いた。
その侍女は、クラリッサがアステリアから連れてきた者。
そして、宮内省関係者との恋仲が噂されていた。
――なるほど。
利用されたか。
「クラリッサめ……今回は逃がしはしない。」
俺は、静かに呟いた。




