第100話 王太子妃の補佐官 中編
「ローズ・チェルシーと申します。
殿下、よろしくお願いいたします。」
その女性は、静かに頭を下げた。
「チェルシー夫人と呼ぶがよかろう。」
王太后が言う。
「こちらこそ、よろしく頼む。
エレノアのことを支えてやってほしい、チェルシー夫人。」
俺はそう応じた。
「ところで、エレノアと言えば、あれでは王太子妃として誰も認めん。」
王太后はため息をつく。
――またそこに戻るのか。
俺は王太后を睨む。
「ですが、王太后様、ご心配には及びませんわ。
エレノア様を、誰もが認める王太子妃にする方法がございます。」
チェルシー夫人が、柔らかく微笑む。
「その方法には殿下のご協力が不可欠ですが、
すでに寵愛されているのであれば、それほど難しくはないでしょう。」
意味深な言い方だった。
「王太子、分からぬのですか?」
王妃がこちらを見る。
そして――
「エレノア様との間にお子を作ればよいのです。」
チェルシー夫人が、あっさりと言い切った。
――ぶっ。
思わず、口にしていた茶を吹きそうになる。
「そうじゃの、それが一番手っ取り早い。」
王太后まで即座に同意した。
何なんだ、この流れは。
「王子であれば申し分ありませんが、姫であっても構いません。
王太子の初めてのお子を授ける栄誉を与えれば、
誰もがエレノア嬢を王太子妃として称賛するでしょう。」
王妃はにこやかに続ける。
「しかし、私達はまだ、結婚前の男女で……。」
思わず、どもる。
「何じゃ。
お前、何のために同じ宮に住まわせておると思っておる。
エレノアとは、もう深い仲なのじゃろう?」
王太后がじろりと俺を見る。
「その様子では、殿下はまだ、エレノア様に手をつけていないご様子ですね。
それだけ寵愛されているのに、なぜですか?」
チェルシー夫人がため息混じりに言った。
「まさか、好きな女には手を出せないタイプなのか?
情けない奴じゃ。少しはレオンハルトを見習うがいい。」
王太后は呆れたように言う。
散々な言われようだ。
どの世界でも、おばさま方のパワーはすさましいものがある。
「私はエレノアの気持ちを尊重しているのです。」
やっとの思いで言い返す。
「あやつはお前の申し出を拒否するのか。全く不敬な奴じゃ。」
と王太后。
「本当に。
王太子から申し出があれば、喜んでその身を捧げるのが、
王太子妃、妻としての責務ではありませんか?」
王妃が上品に続ける。
――言葉は柔らかいが、言っていることはえげつない。
「では、私が今宵、エレノア様を説得し、
殿下のお相手を務めるよう申し上げましょう。
殿下はただ、黙って励んでいただければよろしいのです。」
チェルシー夫人が微笑む。
「それはやめてくれ。
私はエレノアと結婚するまで手は出さないと約束したのだ。」
俺は慌てて止めた。
「王太子はエレノア嬢を抱きたくはないのですか?」
王妃が穏やかに問う。
「それは、私も男ですから……。」
小さく答えるしかなかった。
「では決まりじゃの。
もう我慢する必要はない。誰か、おらぬか。」
王太后が本気で使いを呼ぼうとする。
「やめてください、お祖母様。
私はそんなお膳立てをしていただかなくても、自分で何とかします。」
必死に制止する。
「それに私は、エレノアとすぐに子供を作るつもりはありません。
しばらくは独り占めしたいのです。」
思わず本音が漏れた。
「それはまた、問題発言じゃの。
王族の繁栄こそが責務というのに。」
王太后が呆れる。
「ええ、本当に。」
三人は顔を見合わせ、くすりと笑った。
――どうやら、からかわれていたらしい。
本当に、おばさま方には敵わない。
俺は苦笑した




