第99話 王太子妃の補佐官 前編
俺は、王太后の元へ向かった。
そこには、王妃、そして見知らぬ婦人がいた。
「レオニス、参りました、王太后陛下。」
挨拶をすると、王太后はため息をついた。
「まだ、怒っておるようじゃな。」
「当然です。私のエレノアを傷つけたのですから。」
俺ははっきりと答えた。
「まあよい。今日は、そなたに提案があるのじゃ。
指摘した通り、今のエレノアでは到底、王太子妃は務まらぬ。」
俺は王太后を睨む。
「レオニス、そう睨むな。務まらぬのであれば、補えばよい。
そこで――」
「私は、惻妃を持つつもりはありません。」
王太后が言い切る前に、俺は遮った。
「レオニス、落ち着け。そうではない。」
王太后は呆れたように息を吐く。
「エレノアを補佐する女官をつけよと言っておるのじゃ。
足りぬ部分はその者が補えばよいし、王太子妃としての教育係にもなる。」
――なるほど。
ようやく意図を理解する。
「では、お祖母様はエレノアをお認めくださるのですね。」
「認めるも認めぬも、お前は頑固じゃから仕方あるまい。
それに、王妃にも諭されたのじゃ。」
俺は王妃へと視線を向ける。
「私が王妃として、しっかりと役割を果たしていれば、
王太后様や王太子がこのように揉めることはありませんでした。
誠に申し訳ないことをしてしまいました。」
王妃は静かに頭を下げた。
「それでな、そのエレノアにつける補佐官に、この者を紹介したいと思って呼んだのじゃ。
この者は、お前の母、アンネローゼに仕えておった者でな。
今回は特別に、結婚式くらいまでは支えてくれるそうじゃ。
正式な補佐官は追々決めるとして、どうじゃ?」
王太后の言葉に、俺はその女性を見る。
茶髪に赤茶色の瞳。
品のある、美しい女性だった。
――どこか、懐かしい。
不思議な感覚が胸に残る。
「お祖母様、お気持ちはありがたいのですが……。」
俺は事情を説明する。
エレノアの身辺には、細心の注意を払っている。
侍女や女官は、信頼できる者だけに絞っている。
俺に色目を使うような輩はすべて排除した。
さらに、エレノアの私生活を漏らした者は、粛清の対象とした。
その結果、エレノアに仕える者は極端に限られている。
王太后の推薦とはいえ、簡単に受け入れるわけにはいかなかった。
「まったく、お前はエレノアのことになると……。」
王太后は苦笑する。
「王太子、この者であれば大丈夫です。
王太后様だけでなく、私も保証いたします。」
王妃がそう言った。
――ここまで言われては、断れない。
「……わかりました。お願いいたしましょう。」




