第98話 規格外令嬢は怒っている
俺は、ほとほと困り果てていた。
セレナに心から詫びているのだが、なぜかうまくいかない。
さらに周囲はセレナに同情的で、完全にセレナの味方だった。
「レオニス、昨日のセレナに対する暴言、なんですか?
あれはグランディア伯爵家への侮辱ですか?
父上も怒っていました。」
アルベルトの言葉に、俺はため息をつく。
グランディア伯爵は重鎮だ。
怒らせておくわけにはいかない。
何かとやりにくくなる。
「セレナに謝罪しているんだが、受け入れてもらえなくてな。」
「まあ、それは仕方ないでしょう。誠心誠意、謝ってくださいね。」
アルベルトはあっさりと言った。
俺はもう一度、セレナに声をかける。
「セレナ、本当にすまなかった。」
セレナは俺を睨みつける。
「殿下は、本当に悪いと思っているんですか?」
「もちろん、悪いと思っている。あの時はカッとなって、つい本音が……。」
――しまった。
また口を滑らせた。
「本音?
じゃあ、殿下は私のことを、規格外で絶対無理な女だと、心からそう思っているんですね。」
「いや、そうではなくて。私にとって、セレナがそういう対象ではないだけで。」
セレナの目が、さらに鋭くなる。
「殿下、昨日もそうですけど、どこから目線で言っているんですか?
私は、殿下に言い寄ったことも、殿下のことを好きになったことも一度もありません。
殿下に言い寄ってくる女狐達とは違います。
なんで、殿下に上から目線で侮辱されないといけないの?」
――言葉が出ない。
そのやり取りを見ていたリリアとルシアンも、
「レオニス、サイテー。」
「全くだな。」
と、白い目を向けてくる。
さらにレオンハルトまで口を出した。
「お前、あいつのこと何だと思ってんだよ。
あれでも女だぜ。配慮しろよ、配慮。」
そして、とどめは――
「殿下が悪いですわ。
セレナは私の大切な友人。きちんと許しを得てくださいね。」
エレノアだった。
ここまで言われては、もう逃げ場はない。
俺は三度目の正直とばかりに、改めてセレナに向き直る。
「セレナ、本当にすまなかった。
セレナを侮辱したり、蔑むつもりはなかった。信じてほしい。」
俺は、深く頭を下げる。
「それにセレナ。
お前は私と近すぎて、もう身内のような感覚なんだ。
だから、遠慮のない物言いをしてしまう。
親愛の証だと思って、許してもらえないだろうか?」
セレナの顔をうかがう。
しばしの沈黙の後――
「ずるい男ね、あんた、やっぱり。
そんな顔されたら、許すしかないじゃない。
あんた、絶対に自分がイケメンだって確信しているんでしょ?」
どうやら、機嫌は直ったらしい。
「否定しないんだ、このナルシスト王子。」
セレナは茶目っ気たっぷりに言った。
「何でもいい。許してくれるのだな?」
セレナは舌を出す。
だが、さっきまでのよそよそしさは、もうどこにもなかった。
その数日後。
俺は、王太后からの呼び出しを受けた。
正直、会いたくはない。
だが、無視するわけにもいかない。
俺は重い足取りで、王太后の元へ向かった。




