第97話 君じゃないとダメだ
俺は、強引にエレノアを会場から連れ出した。
そして、エレノアを見つめる。
「エレノア、気にすることはない。君は君らしくあればいい。」
そう告げる。
「殿下、ですが、王太后陛下の言うことが正しい。
セレナであれば、この状況をうまく打開できたでしょうし、
リリアは聖女として成長した。
皆が成長する中で、私だけが変わらないのです。」
「私だけが、王太子妃として何もなせていないのです。」
エレノアの目から、涙が溢れた。
俺はその涙を拭いながら、小さくため息をつく。
「すまない、エレノア。君をこんな気持ちにさせて。」
「殿下が謝ることはございませんわ。
私こそ、殿下に煩わせてしまい、申し訳ありません。」
俺はエレノアを抱きしめる。
「私は思うのだ。もし私が王太子でなければ、君をこんな気持ちにさせずに済んだだろう。
君も穏やかな暮らしができたはずだ。」
「それでも私は、エレノアじゃないとダメなんだ。
手放すことができない。私はなんて強欲なんだろう。」
抱きしめる腕に、自然と力がこもる。
失いたくない――その思いだけがあった。
「おまけに私は、君がどんな立場にいるのか理解していなかった。
正直、以前、エレノアが“正しい王太子妃になるのが目標”だと言った時。
私に惻妃を勧めてきた時、私は面白くなかった。
君が私に関心がないと思い、寂しく思った。
君が冷たい人のように思えてならなかった。」
「殿下……。」
エレノアが、俺を見つめる。
「だが、違うとわかった。
王族に嫁ぐということは、想像以上に辛いことだな。
私はそれを理解できていなかった。」
「惻妃を持つかどうかは、私が決めること。
それを私は、子供じみた考えで、君に止めてほしいと願っていた。すまない、エレノア。」
「こんな私でも、そばにいてほしい。」
エレノアは、小さな声で呟いた。
「殿下、こんな私が、お側にいてもよろしいのですか?」
「君がいい。エレノアじゃないとダメだ。
私は君がいないと、夢を見ることすらできない。」
俺は、エレノアにキスをした。
次の日。
朝から、カイルの機嫌が悪かった。
無口な男だが、怒っていることだけははっきりと分かる。
「カイル、何かあったのか?」
俺は問いかける。
しばらく沈黙した後、カイルは口を開いた。
「殿下は、ご自分の婚約者を傷つけられることには敏感なのに、
他人の婚約者を侮辱することには、抵抗はないのですね。」
俺は一瞬、言葉を失った。
――セレナのことか。
「すまん、カイル。あの時は、つい言い過ぎてしまった。」
俺は素直に謝罪する。
「殿下がエレノア様のことになると、周りが見えなくなることは理解しています。
ですが、セレナにはきちんと謝ってください。」
カイルはそう言った。
俺はセレナに謝ろうと声をかける。
「殿下、何かご用でしょうか?
私は規格外で手に負えない女で、殿下にとっては絶対にありえない女でございましょう。」
――完全に怒っていた。




