第95話 歌って踊る王太子、再び 後編
俺は、意を決して情けない男になりきって歌うことにした。
歌詞の内容を考えると、エレノアというよりも梨香子の方がしっくりくる。
そんなことを思いながら、曲が流れ出す。
ノリのいい旋律に、情けない男心を描いた歌詞が重なる。
「きゃー、殿下、素敵!」
黄色い声援が飛び交う。
エレノアの方を見ると、彼女もまんざらではない様子だった。
間奏に入ると、アルベルトのバイオリンがまるでギターのように駆け抜ける。
さすがに自信があると言っていただけのことはある。
ルシアンの舞台演出も、安定の魔術制御で幻想的だ。
さらに左右では、リリアとセレナが振り付けを指導し、会場を盛り上げている。
セレナは、プロデューサーとしての才能もあるのかもしれない。
「流石、ルシアンですな。あの舞台演出。あれを完璧にこなすのは容易ではありません。」
宰相が誇らしげに言う。
その隣で、
「何を言っている。うちの息子のバイオリンも見事だ。それにセレナのプロデュースあってこそだろう。」
とグランディア伯爵が張り合う。
「お前達、何を言っておるのじゃ。レオニスの華があるからこそ、全てが映えるのだ。」
と国王。
俺たちの知らないところで、完全に“子供自慢大会”が始まっていた。
演奏は大成功のまま、いよいよラストへ向かう。
――だが、問題があった。
俺の弾き語りは、バラードしかない。
ホスト時代の持ち曲だ。
盛り上げるような曲ではない。
「セレナ、私の弾き語りはバラードしかないぞ。」
俺は小声で告げる。
「別にいいんじゃない?
しっとりと切なく、色っぽく歌えば。
余韻を残して終わるのも悪くないからさ。」
セレナはあっさり言った。
再び拍手と歓声が上がる中、俺は前へ出る。
会場に一礼し、ピアノの前に座る。
指を鍵盤に置き、音を紡ぐ。
甘く、切ない旋律。
その瞬間、会場の空気が一変した。
静寂の中に、俺の歌声だけが響く。
誰もが息を呑み、聴き入っている。
歌い終え、観客席を見ると――
多くの婦人が、ハンカチを目元に当てていた。
俺が下がると、入れ替わるようにセレナが前へ出る。
「あれ〜、皆さん、最後しんみりしちゃいましたね。
本当、殿下は空気読めないんだから。」
軽口で場を和ませる。
「今回はいかがでしたか?
キュン4しませんでしたか?
私と聖女リリアはチャリティー活動をしています。
殿下はお忙しいので難しいかもしれませんが、
私たちは活動を続けていきますので、ぜひお声がけください。
メンバーも募集していますので、よろしくお願いします!」
どこかのアイドルグループのリーダーのような挨拶で、締めくくった。
その後の会談では、俺たちは大絶賛を受けた。
騎士団長が言う。
「流石ですな、殿下。
これでまたご婦人方の心を鷲掴みしましたな。
側室の話も、まだまだ増えそうですぞ。」
頭の痛い話だ。
王太后は、
「お前達、よくやってくれました。褒美を取らせましょう。」
と満足そうに言った。
「やったー。じゃあ、活動費とか経費がかかるので、現金がいいです。」
セレナが即答する。
「セレナ、あなたは本当に素直ですね。いいでしょう。」
王太后はにこやかに頷いた。
そして、国王が口を開く。
「リリアよ、お前の褒美は王族入りすることじゃ。」
その言葉に、場の空気が凍りついた。
「まさか、親父、聖女を惻妃にするつもりじゃねーよな。」
レオンハルトが睨みつける。
「違いますよ、レオンハルト。
聖女をあなたの妹にすると言っているのです。
聖女を、私と陛下の養女として正式に迎えます。」
王妃が静かに説明する。
「うむ。王女としての立場の方が、活動にも都合が良いだろう。
それに、縁談の面でも有利になる。」
王太后が補足する。
こうして――
リリアは正式に、国王の養女となることが決まった。




