第94話 歌って踊る王太子、再び 中編
カイルとレオンハルトが戻ってきた。
二人の後ろには、数名のメンバーが続いている。
「悪い、これだけしか集められなかった。」
レオンハルトは言う。
「十分だ。ありがとう、レオンハルト。」
俺は礼を言った。
「俺は親父達の方、何とかしとくから。」
そう言い残し、レオンハルトは立ち去る。
本当に頼りになる奴だ、そう思った。
その頃、会場ではざわめきが広がっていた。
「えっ、殿下が歌われるの?
あのルミナリア祭で披露した、あの噂の――。」
期待と興奮が混ざり合っている。
だが、問題があった。
ルミナリア祭でやった曲だけでは、時間が足りない。
どう補うか――。
「そこは任せて。」
セレナが胸を叩く。
話によると、リリアと二人でチャリティー活動のために練習している曲が二つあるらしい。
まだ完成とは言えないが、やるという。
俺の方にも、ホスト時代に弾き語りで使っていた曲がある。
何とか形にはなる。
――と思った矢先。
「この曲、歌って。」
セレナが楽譜を突きつけてきた。
見ると、日本で有名な曲だった。
だが、内容は失恋した男の気持ちをコミカルに描いたもの。
王太子が歌うには、あまりにも軽い。
「でも、私は聞きたい。
これつけて、エレノアの方見て歌うんだよ。」
セレナは悪びれもなく言う。
……状況的に、断れる空気ではなかった。
やがて、時間となる。
セレナとリリアは、短いスカートに猫耳、猫の手をつけて舞台へ向かう。
――これは、もう登場した時点で勝ちだな。
俺は苦笑した。
「レオニス、しっかり会場は温めてくるから。」
そう言い残し、二人は舞台へ出る。
「なんだ、その格好は!」
グランディア伯爵の怒鳴り声が響く。
「似合ってるんだからいいでしょ、うるさい。
じゃあ、うるさいお父様は放っておいていくよ。」
セレナの一言で、音楽が流れ出す。
ノリの良い曲に合わせ、猫耳の二人が歌い、踊る。
「はい、陛下もここはこうやって。」
セレナは観客を巻き込み、場を完全に支配していた。
ルミナリア祭より、明らかにパワーアップしている。
見ると、国王も大臣も、王太后までもがノリノリだった。
アルベルトの風魔法によって、二人は空中を自在に舞う。
演出も申し分ない。
二人は二曲を歌い切り、会場は最高潮に達していた。
そこでセレナが口を開く。
「ねえ、いつも殿下って、完全無敵のイケメンじゃない?
カッコ悪くて情けないところ、見たくない?」
本来なら不敬だ。
だが、この場は完全にセレナのペースだった。
――覚悟を決める。
俺は犬耳をつけ、舞台へと出た。
「殿下、可愛いー!」
会場は一気に沸きに沸いた。




