第91話 劇場デート
実のところ、宴の歌手の下見というのは口実で、
エレノアとのデートが俺の本当の目的だった。
俺はお忍びで街へ出ることもできるが、
エレノアは自由に街へ繰り出すことなどできない。
そもそも、貴族の令嬢に自由は少ない。
王太子の婚約者であるエレノアなら、なおさらだ。
俺も公務に追われ、なかなか外へ連れ出してやれない。
だから、今回はいい機会だった。
俺はエレノアのために、チケット、花束、そしてプレゼントを用意する。
劇場だけでなく、アルベルトに教えてもらった話題のレストランも予約している。
自然と口元が緩んだ。
「今日はご機嫌ですね。」
アルベルトが言う。
「まあな。」
俺は短く答えた。
実際には、夜が待ち遠しかった。
時間になり、俺はエレノアを迎えに行く。
エレノアはオレンジ色のドレスをまとっていた。
「まるで、妖精のように美しい。」
俺はエレノアの手を取り、キスをする。
そして、
「このドレスにぴったりだ。」
そう言って、ダイヤのネックレスをかけた。
「殿下、これは?」
エレノアは驚いた表情で俺を見る。
「私からの気持ちだよ。」
そう答えると、
「ありがとうございます。殿下。」
エレノアは微笑んだ。
さらに、エレノアの好きなバラの花束を渡す。
「今日は、頑張っている婚約者へのご褒美だから。」
そう言って、俺はエレノアを抱き寄せた。
嬉しそうな表情を見て、俺は満足する。
レストランでも、エレノアは表情をくるくる変える。
「殿下、この料理、とても美しいですわ。」
飾り細工の施された料理を気に入っているようだ。
「そんなに気に入ったのか?
なら、王宮の料理人にもやらせよう。」
俺はそう答える。
エレノアとの食事は、とても楽しかった。
劇場に着くと、観劇に来ていた貴族達が次々と挨拶してくる。
仕方ないこととはいえ、少しは気を利かせてほしいものだ。
ちなみに、朴念仁のカイルも当然のように同行している。
やがて、歌手が歌い始める。
その歌声はハスキーで、人の心に強く響くものだった。
エレノアもうっとりと聞き入っている。
どうやら、気に入ったようだな。
俺は歌を聞きながら、エレノアを見る。
楽しい曲では口元を緩ませ、
悲しい曲では、目に涙を浮かべる。
まったく、よく表情が変わる。
そう思いながらも、俺はいつにも増してエレノアが愛おしかった。
観劇の余韻が残る中、俺はエレノアに尋ねる。
「どうだった?」
エレノアは少し考えてから、
「はい、とっても良かったですわ。殿下。」
と答えた。
「では、これで決まりだな。」
エレノアは頷く。
俺は劇場の支配人を呼び、
王族主催の宴への出演を交渉した。
結果は、予想通り、二つ返事で了承された。




