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第百三十九話「歪んだ愛の巣」

最近忙しくて投稿が全然出来ず、申し訳なさでいっぱいです。頑張って書いてますが、やっぱり時間がかかりますね。

この話で九十万字行くので達成感に浸りたいと思います。


 わたしの心は、今までにないほど軽やかだった。

 いや、軽やかなんて言葉では表現できないかな。

 まるで、全身が羽毛のように軽くなって、今にも空に浮かんでいけそうなほどの高揚感。

 心臓が激しく打って、血液が沸騰しているかのように熱い。

 呼吸をするたびに、幸福感が肺いっぱいに満ちていく。


 ついに。


 ついに、ついに、ついに。


 タクヤを手に入れることができたのだから。


 一年。

 四百日。

 九千六百時間。

 五十七万六千分。


 その全ての時間を、わたしはこの瞬間のために生きてきた。

 朝起きて最初に考えるのはタクヤ。

 夜寝る前に最後に考えるのもタクヤ。

 食事中も、湯浴みでも、探索中でも、用を足すさえも全ての時間、全ての瞬間、タクヤのことだけを考えてきた。


 そして今。

 その夢が、現実になった。


 森の奥深くに作った小さな家に、タクヤを連れて帰ることができた。

 手を繋いで、二人で歩いて、誰にも邪魔されることなく。

 まるで、新婚夫婦のように。

 いや、わたしたちは新婚夫婦かな。

 心は完全に一つになっている。


 この家は、わたしがタクヤとの愛の巣として、何ヶ月もかけて準備したものだった。

 いや、何ヶ月どころじゃない。

 実際には半年ぶりかけて、完璧な家を作り上げた。


 木材を一つ一つ丁寧に選んだ。

 タクヤが好きそうな、温かみのある色合いの木材。

 触り心地も確認して、香りも嗅いで、全部完璧なものを選んだ。

 そして、魔法を使って組み上げた。

 一本一本、愛情を込めて。

 タクヤが快適に過ごせるように、全ての細部にまでこだわった。


 内装も、タクヤが好みそうな温かい雰囲気にしてある。

 暖炉があって、柔らかいソファがあって、大きなベッドがあって…全てが、二人の愛の生活のために用意されている。


 すべては、この日のためだった。

 タクヤと、永遠に一緒に過ごすために。


「素敵な家だね、リリー」


 タクヤが感心したように言ってくれた。


 その言葉を聞いた瞬間、わたしの胸が、爆発しそうになった。

 心臓が、限界を超えて激しく打つ。


 ドクドクドクドク。

 もう、自分の心臓の音しか聞こえない。

 呼吸が荒くなって、体温が急上昇する。

 顔が熱い。

 きっと、真っ赤になっているかな。


 タクヤが喜んでくれている。


 わたしの努力が、報われている。

 この家を作るために費やした全ての時間、全ての苦労が、今この瞬間に意味を持つ。


「タクヤのために作ったかな♡」


 嬉しい。

 でも、内心ではもっと激しい感情が渦巻いている。

 嬉しい、嬉しすぎる、嬉しくて死にそう。

 いや、死んじゃダメ。

 タクヤと一緒にいなきゃ。


「これからは、ここでずっと一緒に暮らすかな♡」


 わたしが、タクヤの腕にしがみつく。

 その腕は、たくましくて、温かくて、わたしのもの。

 完全に、絶対に、永遠にわたしのもの。


「二人だけで♡

 誰にも邪魔されない、わたしたちだけの世界かな♡」


 そう。

 誰にも邪魔されない。


 ルナも、エリカも、クロエも、オルテンシアも、ユリエルも……誰も、ここには来られない。

 ここは、わたしとタクヤだけの聖域。

 二人だけの楽園エデン


「ああ、そうだね」


 タクヤが優しく微笑んでくれる。

 その笑顔…


 ああ。


 ああああああ。


 その笑顔を見た瞬間、わたしは幸せで胸が張り裂けそうになった。

 いや、本当に張り裂けるかもしれない。

 心臓が破裂するんじゃないかってくらい、激しく打っている。


 この人は、わたしのもの。

 完全に、絶対に、永遠にわたしのもの。

 他の誰のものでもない。


 わたしだけのもの。


 わたしは我慢できずに、タクヤに飛びついた。


 がばっ。


 勢いよく抱きつく。

 小さなわたしの体が、タクヤの大きな体に包まれる。

 その温もりが、わたしの全身を包み込んでいく。


「タクヤ、大好きかな♡

 大好きかな♡ 大好きかな♡ 大好きかな♡」


 何度も何度も繰り返す。

 一回じゃ足りない。百回でも、千回でも、万回でも足りない。

 言葉にしないと、この溢れる感情を抑えきれない。胸の中で渦巻く、この狂おしいほどの愛情を。


「大好きかな♡ 愛してるかな♡ 狂おしいほど愛してるかな♡

 タクヤなしでは…生きていけないかな♡

 タクヤが全てかな♡ タクヤが世界♡」


 タクヤが、わたしの頭を優しく撫でてくれる。


 その手…その優しい、大きな、温かい手…

 その感触だけで、わたしの全身に電流が走る。

 ビリビリビリビリ。

 まるで、雷に打たれたかのような衝撃。

 でも、痛くない。

 むしろ、気持ちいい。

 あまりにも気持ちよすぎて、意識が飛びそうになる。


「俺も大好きだよ、リリー」


 ……!


 その言葉を聞いた瞬間。

 わたしの理性が、完全に吹き飛びそうになった。


 大好き。


 タクヤが、わたしのことを、大好きだと。

 言ってくれた。

 本当に、本当に言ってくれた。


「あ♡ あぁ♡ ああああ♡」


 わたしの口から、意味不明な声が漏れる。

 もう、言葉にならない。

 感情が、言語化できない。

 ただ、幸福感が全身を駆け巡っている。


 タクヤの唇が欲しい。

 今すぐ欲しい。

 待てない。

 もう一秒も待てない。


 わたしは顔を上げて、タクヤを見つめた。

 その瞳…優しくて、温かくて、そして今、わたしだけを見ている瞳。


 そして、そっと唇を重ねる。


 柔らかい。


 温かい。


 甘い。


 これが、タクヤの唇。

 一年間、夢見続けてきた、タクヤの唇。

 想像以上だった。

 いや、想像なんて遥かに超えている。

 こんなに柔らかくて、こんなに温かくて、こんなに甘いなんて。


「んん♡」


 わたしの口から、甘い声が漏れる。

 自分でも驚くほど、色っぽい声。

 でも、止められない。タクヤの唇が、わたしを狂わせる。


 わたしは、もっと深く求めた。

 舌を伸ばして、タクヤの唇を舐める。

 そして、口の中に侵入する。

 タクヤの舌と絡み合う。ぬるぬると、ねっとりと、激しく。


 タクヤも応えてくれる。


 その事実が…

 その、タクヤも求めてくれているという事実が…


 わたしを更に興奮させた。


「んっ♡ ちゅっ♡ れろ♡」


 卑猥な音が、部屋に響く。


 わたしとタクヤの、愛の音。

 唾液が混ざり合う音。

 舌が絡み合う音。


 全部、全部、愛おしい。


 わたしの手が、タクヤの頭を抱きしめる。

 離さない。

 絶対に離さない。

 このまま、永遠にキスをし続けたい。


 でも、人間には呼吸が必要で…

 息が続かなくなって、ようやく唇を離す。


 ぷはっ。


 銀色に光の糸が、わたしとタクヤの唇を繋いでいる。

 その光景が、あまりにも扇情的で。


「はぁ♡ はぁ♡ タクヤ♡」


 わたしの顔は、熱くなっていた。

 きっと、真っ赤になっている。

 いや、真っ赤どころじゃない。

 全身が火照って、汗が滲んでいる。

 呼吸が荒くて、心臓が爆発しそう。


 タクヤも、少し息を荒くしている。

 その様子を見てわたしの中の、何かが疼いた。


 もっと。

 もっと欲しい。

 キスだけじゃ足りない。


 タクヤを、完全にわたしのものにしたい。


 体も、心も、魂も、全部。

 既成事実を作りたい。


 子供を作りたい。


 そうすれば、タクヤは絶対にわたしから離れられなくなる。

 今すぐ、この場で。


 わたしの手が、タクヤの服に伸びる…


 でも。

 その瞬間。

 わたしの脳内に、冷静な声が響いた。


『待って』

『まだ早い』

『焦りすぎたら、タクヤが引いてしまうかもしれない』


 わたしは、ハッとして手を止めた。

 そうだ。


 落ち着け、リリー。


 完璧な奥さんを演じなければ。

 優しくて、愛らしくて、でも少し恥ずかしがり屋で…そんな、理想の恋人を演じなければ。

 そうすれば、タクヤはずっとわたしを愛してくれるはず…


 わたしは、深呼吸をして自分を落ち着かせた。


 すーはー。


 すーはー。


 冷静になれ。

 焦るな。

 完璧な演技をするんだ。


「ご、ごめんなさい、タクヤ♡」


 わたしが顔を伏せる。

 恥ずかしそうに。

 初心な少女のように。


「わたし、つい夢中になってしまったかな♡」

「いや、大丈夫だよ」


 ああ…やっぱり。

 やっぱりタクヤは優しいかな。


 この優しさが、わたしを狂わせる。

 もっともっと、タクヤを独占したくなる。

 誰にも渡したくない。

 この優しさは、わたしだけのもの。




 ◇ ◇ ◇




 わたしは、気分を切り替えることにした。


 今は、完璧な恋人を演じる時間。

 タクヤに、理想の女性だと思ってもらう時間。


「タクヤ…お腹空いてないかな?

 わたし、夕食を作るかな♡」


 わたしが、にこやかに笑う。

 完璧な笑顔。

 何度も鏡の前で練習した、最高の笑顔。


「ああ、そうだね。手伝おうか?」


 ……!


 手伝ってくれる?

 タクヤが、わたしと一緒に料理を作ってくれる?


「本当? 嬉しいかな♡」


 わたしの声が、興奮で上ずる。


 これが、わたしの求めていた結婚生活。

 大好きな人と一緒に料理を作る。

 一緒にキッチンに立って、一緒に野菜を切って、一緒に味見をして…


 普通の恋人同士なら、当たり前の光景。

 でも、わたしにとっては、特別すぎる時間。


 一年間、夢見続けてきた光景。


 わたしたちは、一緒にキッチンに向かった。

 タクヤが、わたしの横に立つ。

 その距離は、わずか数十センチ。

 手を伸ばせば触れられる距離。

 その近さだけで、わたしの心臓が激しく打つ。


「リリー、次は何をすればいい?」


 その声…優しくて、穏やかで、わたしを信頼してくれている声。


「じゃあ♡ 野菜を切ってくれる?

 わたしは肉の下ごしらえをするから♡」

「分かった」


 タクヤが、慣れた手つきで野菜を切り始める。

 その横顔を見ながら、わたしは幸せに浸っていた。


 ああ。


 この人は、わたしのもの。

 わたしだけのもの。

 他の誰のものでもない。


 この光景を、他の女が見ることは絶対にない。

 ルナも、エリカも、クロエも、オルテンシアも…誰も、この特別な時間を共有することはできない。


 これは、わたしだけの特権。

 わたしだけが、タクヤと一緒に料理を作れる。

 わたしだけが、タクヤの横顔を見ながら幸せを感じられる。


 料理を作りながら、わたしはタクヤに何度も話しかけた。

 些細なことでも、タクヤと会話できることが嬉しい。

 タクヤの声を聞けることが嬉しい。

 タクヤが、わたしの言葉に反応してくれることが嬉しい。


「タクヤ…この野菜、上手に切れてるね♡」

「ありがとう。リリーが教えてくれたおかげだよ」


 ああ。


 ああああ。


 タクヤが、わたしを褒めてくれる。

 わたしに感謝してくれる。

 嬉しい。

 嬉しすぎる。


「タクヤ♡ 味見してくれる?♡」


 わたしがスプーンに料理をすくって、タクヤの口元に運ぶ。

 この行為…恋人同士がする、甘い行為。


「あーん♡」


 甘い声に反応してくれて、タクヤが素直に口を開けてくれる。


 その姿が…


 ああ。


 あまりにも可愛くて、わたしは思わず声を上げそうになった。

 可愛い。

 タクヤが可愛い。

 こんなに可愛い人が、わたしのものだなんて。

 信じられない。

 夢みたい。

 でも、これは現実。


 タクヤが、料理を味わう。

 その表情を、わたしは食い入るように見つめる。


「美味しいね、リリー」

「本当? 良かったかな♡」


 わたしは嬉しくて、我慢できなくて…

 タクヤにキスをした。


 ちゅっ。


 軽く唇を重ねるだけのキス。

 でも、それだけで幸せで死にそうになる。

 本当に、心臓が止まるんじゃないかってくらい、幸せ。


 料理が出来上がって、わたしたちはテーブルに向かった。

 二人分の料理を並べる。

 湯気が立ち上る、温かい料理。

 わたしが、タクヤのために作った料理。


「いただきます♡」


 二人で声を揃えて言った。

 その瞬間…


 わたしは、本当の夫婦になったような気がした。

 結婚して、同じ家に住んで、一緒に食事をする。

 そんな、普通の夫婦の光景。


 でも、わたしたちにとっては、普通じゃない。

 特別。

 世界で一番特別な瞬間。


 タクヤが、わたしの作った料理を美味しそうに食べてくれる。

 その様子を見て、わたしの心は満たされていく。

 ああ、タクヤが喜んでくれている。

 わたしの料理を、美味しいと思ってくれている。


「リリー、本当に料理が上手だね」

「タクヤのために…たくさん練習したかな♡」


 それは、本当のことだった。


 嘘じゃない。

 一言も嘘じゃない。

 タクヤを手に入れるために、わたしは完璧な奥さんになる準備をしていた。

 合間を縫って、完璧な女性になるために。


 料理も、掃除も、洗濯も、裁縫も、魔法も…全部、完璧にこなせるように練習した。

 料理本を何冊も読んで、レシピを全部暗記して、何度も何度も作って。

 失敗しても諦めずに、完璧になるまで練習し続けた。


 そうすれば、タクヤはわたしから離れられなくなるかな。

 わたしの料理がないと、生きていけなくなる。

 わたしの存在が、タクヤにとって必要不可欠になる。


 それが、わたしの戦略。


 完璧な奥さんになって、タクヤを絶対に逃がさない。




 ◇ ◇ ◇




 食事の後、わたしたちは暖炉の前で寄り添って座った。


 パチパチと薪が燃える音が、静かな部屋に響く。

 その音が、心地いい。

 まるで、わたしたちの愛を祝福しているかのような、優しい音。


 タクヤの腕の中で、わたしは至福の時を過ごしていた。


 温かい。

 安心する。

 ここが、わたしの居場所。

 タクヤの腕の中こそが、わたしが一番安心できる場所。


「ずっと、こうしていたいな」


 その言葉を聞いて、わたしの心臓が、また激しく打ち始める。


「ずっと一緒にいようかな♡」


 その声は、真剣だった。

 冗談じゃない。

 本気。


「永遠に♡」


 永遠に。

 その言葉が、わたしの心に深く刻まれた。

 そう。

 わたしたちは、永遠に一緒にいるかな。


 誰にも邪魔されることなく。

 何にも阻まれることなく。

 たとえ世界が終わっても、わたしたちは一緒。


 わたしは、タクヤの顔を見上げた。

 その顔…優しくて、穏やかで、そして今、暖炉の炎に照らされて、少しオレンジ色に染まっている。

 綺麗。

 本当に綺麗。


 この人は、わたしのもの。


 そして、再び唇を重ねる。

 今度は、ゆっくりと、優しく。

 愛情を込めて、丁寧に。

 さっきの激しいキスとは違う、穏やかなキス。


 タクヤも、わたしを抱きしめてくれる。

 その腕が、わたしの体を包み込んでいく。

 その温もりが、わたしの全身に染み込んでいく。


 ああ。

 このまま溶けてしまいたい。


 タクヤと一つになりたい。

 完全に、絶対に、永遠に。


 キスをしながら、わたしの手がタクヤの体を撫でる。


 胸元。

 硬くて、たくましい胸。


 腹部。

 引き締まった、美しい筋肉。


 そして、腰へ…

 わたしの呼吸が、荒くなっていく。


 はぁ、はぁ、はぁ。


 もう、理性が保てない。

 タクヤも、わたしの体に触れてくれる。


 背中を撫でて、腰に手を回して…

 その感触が、わたしを更に高揚させた


 もっと。

 もっと触れて。

 もっと、わたしを感じて。


「タクヤ♡」


 わたしが、切なげに呟く。

 その声は、甘くて、色っぽくて、自分でも驚くほど扇情的だった。


「リリー……」


 タクヤも、わたしの名前を呼んでくれる。

 その声…少し、掠れている。


 ああ。


 タクヤも、興奮しているんだ。

 わたしに、欲情しているんだ。

 その事実が、わたしを更に狂わせる。


 もう我慢できない。

 今すぐ、タクヤと一つになりたい。

 子供が欲しい。

 タクヤの子供が欲しい。


 そうすれば、完全にタクヤを繋ぎ止められる。


 絶対に逃げられなくなる。

 他の女のところに、行けなくなる。

 わたしの手が、タクヤのシャツのボタンに伸びる。


 一つ。


 カチャ。


 二つ。


 カチャ。


 ボタンを外していく。

 その下から、タクヤの肌が見えてくる。

 綺麗な肌。

 触りたい。

 舐めたい。


 タクヤも、わたしの服に手をかけてくれる。


 ああ。


 これから。

 これから、わたしたちは…


 でも、その瞬間。

 わたしの頭に、また冷静な声が響いた。


『待って』

『まだ早い』

『焦ったら、全てを失うかもしれない』

『完璧な奥さんを演じなければ』


 ハッとして手を止めた。


 そうだ。

 まだ、タクヤと結ばれるのは早い。

 もっと、タクヤに愛してもらわなければ。

 もっと、完璧な恋人だと思ってもらわなければ。


 そうすれば、タクヤは絶対にわたしから離れなくなる。


 焦るな。

 焦ったら、全てが台無しになる。

 わたしは、深呼吸をして自分を落ち着かせた。


「タクヤ♡ ごめんなさい♡ わたし、まだ心の準備が♡」


 わたしが、恥ずかしそうに顔を伏せる。

 頬を赤らめて、上目遣いで、初心な少女のように。

 完璧な演技だった。

 何度も鏡の前で練習した、完璧な表情。


「いや、大丈夫だよ、リリー。急ぐ必要はないから」


 タクヤが、優しく答えてくれる。


 ああ、やっぱり。

 やっぱりタクヤは優しいかな。


 この優しさが、わたしを更に狂わせる。

 もっと、もっと愛したくなる。

 もっと、もっと独占したくなる。


「ありがとう、タクヤ♡ 大好きかな♡」


 わたしは、タクヤに抱きついた。


 ぎゅっ。


 力いっぱい、抱きしめる。


「俺も大好きだよ、リリー」


 タクヤが、わたしを抱きしめてくれる。


 その温もりの中で、わたしは静かに誓った。

 いつか、いつか、必ずタクヤと結ばれる。

 そして、子供を作る。

 タクヤを、完全にわたしのものにする。


 でも、今は我慢するかな。

 完璧な奥さんを演じて、タクヤにもっと愛してもらう。

 そうすれば、タクヤは絶対にわたしから離れられなくなるから。




 ◇ ◇ ◇




 夜が更けていく中で、わたしたちは寄り添って眠りについた。

 ベッドの中。

 柔らかい毛布の下。

 タクヤの腕の中。


 ここが、わたしの居場所。

 ここが、わたしが一番安心できる場所。


 タクヤの腕が、わたしの体を抱きしめている。

 その温もりが、わたしを包み込んでいる。

 心臓の音が聞こえる。

 ドクン、ドクン、という規則的な音。

 その音を聞いていると、安心する。


 タクヤは、生きている。

 わたしの隣で、呼吸をしている。

 わたしと一緒に、この時間を共有している。

 わたしは、幸せを噛み締めていた。


 一年間、夢見続けてきた光景。

 タクヤと一緒にベッドで眠る。

 こんなに近くで、こんなに温かくて、こんなに幸せな時間。


 でも、頭の奥では、別のことを考えていた。


 タクヤの元奥さんたちのこと。


 ルナ。

 エリカ。

 クロエ。

 オルテンシア。

 ユリエル。


 指輪の効果で、タクヤの記憶からは消えている。

 今のタクヤは、彼女たちのことを全く覚えていない。

 まるで、最初から存在しなかったかのように。


 でも、彼女たちは、実際に存在している。

 今も、どこかで生きている。

 そして、いつかタクヤを取り戻そうとするかもしれない。


 ユリエル以外の全員の顔を思い浮かべながら、わたしは静かに微笑んだ。


 ルナ。

 銀髪の、綺麗な女。

 タクヤの最初の奥さん。

 彼女が一番危険かな。

 だって、一番早くタクヤとの子供を使っているから。


 エリカ。

 強くて、勇敢な女。

 タクヤを守ろうとする。

 しかもタクヤと長く過ごしたらしい。

 でも、タクヤを守るのは、わたしの役目かな。


 クロエ。

 鈍くて、弱々しい女。

 タクヤを癒してくれる存在。

 それが気に入らない。

 タクヤを癒せるのは、わたしだけでいい。


 オルテンシア。

 頭が悪くて、プライドが高い女。

 タクヤに甘えまくる。

 それが、一番許せない。

 タクヤに甘えていいのは、わたしでなければならないのに。


 ユリエル。

 あのレオナルドが話していたから、結婚しているのだろう。

 会ったことはないが、きっとこいつもタクヤを愛している。

 わたしが一番愛しているというのに。


 全員、邪魔。

 全員、消えてほしい。


 いつか、この魔法が解けてしまうかもしれない。

 認識改変の指輪の効果は、永遠じゃないかもしれない。

 いつか、タクヤが元の記憶を取り戻すかもしれない。


 そうなった時…

 タクヤが、また彼女たちのところに戻ってしまうかもしれない。


 それは、絶対に許せないかな。

 絶対に、絶対に、許せない。


 だったら…

 いっそのこと、全員殺してしまえばいいかな。


 そう。


 殺せばいい。


 一人ずつ、丁寧に。

 確実に。


 そうすれば、タクヤは完全にわたしのものになる。

 戻る場所も、戻る理由もなくなる。

 彼女たちという選択肢が、完全に消える。


 わたしは、その計画について真剣に考え始めていた。

 まず、誰から始めるか。


 一番危険なのは、エリカかな。

 彼女が一番タクヤとの絆が深い。

 だから、最優先で消すべき。


 でも、エリカは強い。

 簡単には殺せない。

 慎重に計画を立てなければ。


 次は、ルナかな。

 タクヤの子供を産んでいる。

 その事実が、わたしには耐えられない。

 だから、早く消したい。


 クロエ、オルテンシア、ユリエルは、その後でいいかな。

 彼女たちも邪魔だけど、優先順位は低い。


 どうやって近づくか。

 どうやって油断させるか。

 どうやって始末するか。


 魔法を使えば、簡単にできるかな。


 わたしは、魔法の天才。

 十歳で、既に大魔法使いクラスの実力を持っている。

 攻撃魔法も、防御魔法も、補助魔法も…全部、完璧に使える。


 毒を使うのもいいかな。

 無味無臭の、強力な毒。

 一滴飲めば、数時間で死ぬ。

 苦しみながら、悶えて。


 あるいは、事故を装うのもいいかな。

 崖から落ちたことにするとか、魔獣に襲われたことにするとか。

 そうすれば、殺人だとは疑われない。


 でも、証拠を残さないようにしなければ。


 タクヤに疑われないように、完璧に計画を立てなければ。

 もし、タクヤにバレたら…

 もし、わたしが彼女たちを殺したことがバレたら…


 タクヤは、わたしを嫌いになるかもしれない。


 それだけは、絶対に避けなければならない。

 だから、完璧に。

 絶対に、証拠を残さないように。


 わたしは、認識改変の指輪を見つめた。

 月明かりに照らされて、指輪が鈍く光っている。

 この指輪、この、わたしの夢を叶えてくれた魔法の指輪。


 これがなければ、タクヤを手に入れることはできなかった。


 あの怪しい商人に作り方を教えてもらった時は、本当に効果があるのか半信半疑だった。

 高額な金貨を払って材料を買い、それでも効果がなかったらどうしようって、不安だった。


 でも、こんなに完璧に働くなんて。


 タクヤは、本当にわたしのことを愛してくれている。

 指輪の効果だと分かっていても、それでも嬉しいかな。

 だって、タクヤの口から「大好きだ」って言葉を聞けるのだから。


 たとえ偽りの愛でも、わたしにとっては真実。

 タクヤが愛してくれている。

 その事実だけで、わたしは幸せ。


 わたしは、タクヤの寝顔を見つめた。

 穏やかに眠っている。

 すやすやと、規則的な呼吸。

 わたしを信じて、無防備な姿を見せてくれている。


 ああ。

 可愛い。

 本当に、可愛いかな。


 この寝顔を、他の女には絶対に見せたくない。

 この穏やかな表情を見られるのは、わたしだけの特権。


 わたしだけが、タクヤの全てを知っている。

 この人は、わたしのもの。

 わたしだけのもの。


 誰にも渡さない。

 絶対に。


 わたしは、タクヤの首筋にそっと唇を寄せた。

 温かい。

 タクヤの体温を、直接感じる。


 そして、軽くキスをする。


 ちゅっ。


 タクヤが、少しだけ体を動かす。

 でも、起きない。

 まだ、深い眠りの中。


 わたしは、少し強めに吸った。


 ちゅーっ。


 小さな赤い跡が、タクヤの首筋に残る。

 マーキング。

 わたしのものだという証。


 キスマーク。

 他の女が、タクヤに近づこうとしても…

 この跡を見れば、タクヤにはもう相手がいることが分かる。

 わたしという、愛する人がいることが分かる。


 わたしは、満足して微笑んだ。


 もっと、たくさんつけようかな。

 首筋だけじゃなく、胸にも、腕にも、背中にも。

 タクヤの体中に、わたしの痕跡を残したい。

 わたしのものだという証を、全身に刻みたい。


 でも、今日はここまでにしておこう。

 あまりやりすぎると、タクヤが起きてしまうかもしれない。


 明日も、明後日も、これからずっと…

 時間はたくさんある。

 焦る必要はない。

 ゆっくりと、確実に、タクヤをわたしのものにしていけばいい。


 わたしは、タクヤの胸に顔を埋めた。

 心臓の音が、はっきりと聞こえる。


 ドクン、ドクン、ドクン。


 この音が、わたしを安心させる。

 タクヤは、生きている。

 わたしの隣で、呼吸をしている。


 それだけで、わたしは幸せ。

 明日も、明後日も、ずっとこの幸せが続きますように。


 そんな願いを込めて、わたしは静かに祈った。


 神様、もしいるなら聞いてください。

 わたしとタクヤを、永遠に結びつけてください。

 誰にも、何にも、引き裂かれないように。

 タクヤが、ずっとわたしを愛してくれますように。

 わたしが、ずっとタクヤを愛し続けられますように。


 そして、邪魔者が、全員消えますように。

 ルナも、エリカも、クロエも、オルテンシアも、ユリエルも。

 全員、わたしたちの前から消えますように。

 事故で死ぬか、病気で死ぬか、何でもいい。

 とにかく、この世界からいなくなってくれれば。


 そうすれば、わたしとタクヤは、本当に二人だけの世界で生きていける。

 誰にも邪魔されずに。

 何にも阻まれずに。

 永遠に、ずっと。


 わたしは、タクヤの温もりを感じながら、そんな残酷な祈りを捧げていた。

 この歪んだ愛こそが、わたしの生きる意味だった。

 タクヤを愛すること。

 タクヤを独占すること。

 タクヤを、誰にも渡さないこと。


 それが、わたしの全て。


 わたしの存在理由。

 わたしの生きる目的。


 認識改変の指輪によって作られた、偽りの愛だとしても…

 わたしにとっては、真実かな。

 タクヤの愛を感じられる限り、わたしは幸せでいられる。


 たとえそれが、魔法によって作られた幻想だとしても。

 たとえそれが、本物の愛じゃないとしても。


 わたしには、関係ないかな。


 タクヤが、「大好きだ」って言ってくれる。

 タクヤが、わたしを抱きしめてくれる。

 タクヤが、わたしにキスをしてくれる。


 それだけで、わたしは満たされる。

 それだけで、わたしは幸せ。

 そして、この状態を永遠に続けるために…

 わたしは、何でもするつもりだった。


 誰を殺しても、何を犠牲にしても。

 たとえ、自分の魂を魔神に売り渡すことになっても。


 タクヤは、わたしのものかな。

 完全に、絶対に、永遠に。

 誰にも渡さない。


 たとえ世界が終わっても、タクヤだけは守る。

 たとえ神様が引き裂こうとしても、タクヤを手放さない。


 これが、わたしの愛。

 歪んでいて、狂っていて、常軌を逸している愛。


 でも、これがわたしの全て。

 わたしの心を支配する、唯一の感情。

 タクヤへの、狂おしいほどの愛。


 わたしは、タクヤの腕の中で、静かに微笑んだ。

 明日は、どんな幸せが待っているかな。

 タクヤと一緒に朝食を作って、一緒に散歩をして、一緒に夕食を食べて、一緒に眠る。


 そんな、普通の日常。

 でも、わたしにとっては、特別な毎日。

 夢のような毎日。


 これが、ずっと続けばいいのに。

 永遠に、ずっと。




 ◇ ◇ ◇




 朝日が、カーテンの隙間から差し込み、その光が、わたしの顔を照らす。


 わたしは、ゆっくりと目を開けた。


 最初に見えたのは、タクヤの寝顔。

 まだ、眠っている。

 穏やかな表情で、すやすやと。


 ああ。


 朝、目を覚まして最初に見るのが、タクヤの顔。

 こんなに幸せなことがあるかな。


 これが、わたしの求めていた生活。

 大好きな人と一緒に眠って、一緒に目覚める。

 普通の夫婦なら、当たり前の光景。


 でも、わたしにとっては、特別すぎる瞬間。

 わたしは、タクヤの顔をじっと見つめた。

 何時間でも、見ていられる。

 飽きない。

 この顔を見ているだけで、幸せ。


 でも、そろそろ、朝食の準備をしなければ。

 完璧な奥さんを演じるためには、タクヤが起きる前に朝食を作って、タクヤが目覚めた時に「おはよう」って笑顔で迎えなければ。


 わたしは、そっとベッドから抜け出した。

 タクヤを起こさないように、静かに。


 キッチンに向かって、朝食の準備を始める。


 パンを焼いて、コカリスの卵を焼いて、サラダを作って、コーヒーを淹れる。

 全部、タクヤが好きなもの。

 タクヤの好みは、全部覚えている。

 何が好きで、何が嫌いで、どんな味付けが好きで。


 全部、全部、頭に入っている。

 完璧な奥さんになるために、調べ上げた。


 朝食が出来上がった頃、タクヤが起きてきた。


「おはよう、リリー」


 タクヤが、眠そうな目で言った。


 その姿が、あまりにも可愛くて…


「おはよう、タクヤ♡

 朝食、できてるかな♡

 一緒に食べるかな♡」

「ありがとう、リリー」


 タクヤが、嬉しそうに微笑んでくれた。


 その笑顔を見て、わたしの心臓が激しく打つ。

 朝から、こんなに幸せでいいのかな。

 これが、これからずっと続くなんて。

 信じられないほど、幸せ。


 わたしたちは、テーブルについた。

 二人で、向かい合って座る。


 朝日が差し込む、明るいダイニング。

 温かい朝食。

 愛する人との時間。


 全てが、完璧。


「いただきます♡」


 そして、食事を始める。

 タクヤが、わたしの作った朝食を美味しそうに食べてくれる。


 その様子を見ながら、わたしは静かに誓った。

 この幸せを、絶対に手放さない。

 タクヤを、絶対に逃がさない。

 誰にも、何にも、邪魔はさせない。


 たとえ、そのために誰かを殺すことになっても…

 わたしは、躊躇しないかな。


 タクヤは、わたしのもの。

 永遠に。


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