第百三十九話「歪んだ愛の巣」
最近忙しくて投稿が全然出来ず、申し訳なさでいっぱいです。頑張って書いてますが、やっぱり時間がかかりますね。
この話で九十万字行くので達成感に浸りたいと思います。
わたしの心は、今までにないほど軽やかだった。
いや、軽やかなんて言葉では表現できないかな。
まるで、全身が羽毛のように軽くなって、今にも空に浮かんでいけそうなほどの高揚感。
心臓が激しく打って、血液が沸騰しているかのように熱い。
呼吸をするたびに、幸福感が肺いっぱいに満ちていく。
ついに。
ついに、ついに、ついに。
タクヤを手に入れることができたのだから。
一年。
四百日。
九千六百時間。
五十七万六千分。
その全ての時間を、わたしはこの瞬間のために生きてきた。
朝起きて最初に考えるのはタクヤ。
夜寝る前に最後に考えるのもタクヤ。
食事中も、湯浴みでも、探索中でも、用を足すさえも全ての時間、全ての瞬間、タクヤのことだけを考えてきた。
そして今。
その夢が、現実になった。
森の奥深くに作った小さな家に、タクヤを連れて帰ることができた。
手を繋いで、二人で歩いて、誰にも邪魔されることなく。
まるで、新婚夫婦のように。
いや、わたしたちは新婚夫婦かな。
心は完全に一つになっている。
この家は、わたしがタクヤとの愛の巣として、何ヶ月もかけて準備したものだった。
いや、何ヶ月どころじゃない。
実際には半年ぶりかけて、完璧な家を作り上げた。
木材を一つ一つ丁寧に選んだ。
タクヤが好きそうな、温かみのある色合いの木材。
触り心地も確認して、香りも嗅いで、全部完璧なものを選んだ。
そして、魔法を使って組み上げた。
一本一本、愛情を込めて。
タクヤが快適に過ごせるように、全ての細部にまでこだわった。
内装も、タクヤが好みそうな温かい雰囲気にしてある。
暖炉があって、柔らかいソファがあって、大きなベッドがあって…全てが、二人の愛の生活のために用意されている。
すべては、この日のためだった。
タクヤと、永遠に一緒に過ごすために。
「素敵な家だね、リリー」
タクヤが感心したように言ってくれた。
その言葉を聞いた瞬間、わたしの胸が、爆発しそうになった。
心臓が、限界を超えて激しく打つ。
ドクドクドクドク。
もう、自分の心臓の音しか聞こえない。
呼吸が荒くなって、体温が急上昇する。
顔が熱い。
きっと、真っ赤になっているかな。
タクヤが喜んでくれている。
わたしの努力が、報われている。
この家を作るために費やした全ての時間、全ての苦労が、今この瞬間に意味を持つ。
「タクヤのために作ったかな♡」
嬉しい。
でも、内心ではもっと激しい感情が渦巻いている。
嬉しい、嬉しすぎる、嬉しくて死にそう。
いや、死んじゃダメ。
タクヤと一緒にいなきゃ。
「これからは、ここでずっと一緒に暮らすかな♡」
わたしが、タクヤの腕にしがみつく。
その腕は、たくましくて、温かくて、わたしのもの。
完全に、絶対に、永遠にわたしのもの。
「二人だけで♡
誰にも邪魔されない、わたしたちだけの世界かな♡」
そう。
誰にも邪魔されない。
ルナも、エリカも、クロエも、オルテンシアも、ユリエルも……誰も、ここには来られない。
ここは、わたしとタクヤだけの聖域。
二人だけの楽園。
「ああ、そうだね」
タクヤが優しく微笑んでくれる。
その笑顔…
ああ。
ああああああ。
その笑顔を見た瞬間、わたしは幸せで胸が張り裂けそうになった。
いや、本当に張り裂けるかもしれない。
心臓が破裂するんじゃないかってくらい、激しく打っている。
この人は、わたしのもの。
完全に、絶対に、永遠にわたしのもの。
他の誰のものでもない。
わたしだけのもの。
わたしは我慢できずに、タクヤに飛びついた。
がばっ。
勢いよく抱きつく。
小さなわたしの体が、タクヤの大きな体に包まれる。
その温もりが、わたしの全身を包み込んでいく。
「タクヤ、大好きかな♡
大好きかな♡ 大好きかな♡ 大好きかな♡」
何度も何度も繰り返す。
一回じゃ足りない。百回でも、千回でも、万回でも足りない。
言葉にしないと、この溢れる感情を抑えきれない。胸の中で渦巻く、この狂おしいほどの愛情を。
「大好きかな♡ 愛してるかな♡ 狂おしいほど愛してるかな♡
タクヤなしでは…生きていけないかな♡
タクヤが全てかな♡ タクヤが世界♡」
タクヤが、わたしの頭を優しく撫でてくれる。
その手…その優しい、大きな、温かい手…
その感触だけで、わたしの全身に電流が走る。
ビリビリビリビリ。
まるで、雷に打たれたかのような衝撃。
でも、痛くない。
むしろ、気持ちいい。
あまりにも気持ちよすぎて、意識が飛びそうになる。
「俺も大好きだよ、リリー」
……!
その言葉を聞いた瞬間。
わたしの理性が、完全に吹き飛びそうになった。
大好き。
タクヤが、わたしのことを、大好きだと。
言ってくれた。
本当に、本当に言ってくれた。
「あ♡ あぁ♡ ああああ♡」
わたしの口から、意味不明な声が漏れる。
もう、言葉にならない。
感情が、言語化できない。
ただ、幸福感が全身を駆け巡っている。
タクヤの唇が欲しい。
今すぐ欲しい。
待てない。
もう一秒も待てない。
わたしは顔を上げて、タクヤを見つめた。
その瞳…優しくて、温かくて、そして今、わたしだけを見ている瞳。
そして、そっと唇を重ねる。
柔らかい。
温かい。
甘い。
これが、タクヤの唇。
一年間、夢見続けてきた、タクヤの唇。
想像以上だった。
いや、想像なんて遥かに超えている。
こんなに柔らかくて、こんなに温かくて、こんなに甘いなんて。
「んん♡」
わたしの口から、甘い声が漏れる。
自分でも驚くほど、色っぽい声。
でも、止められない。タクヤの唇が、わたしを狂わせる。
わたしは、もっと深く求めた。
舌を伸ばして、タクヤの唇を舐める。
そして、口の中に侵入する。
タクヤの舌と絡み合う。ぬるぬると、ねっとりと、激しく。
タクヤも応えてくれる。
その事実が…
その、タクヤも求めてくれているという事実が…
わたしを更に興奮させた。
「んっ♡ ちゅっ♡ れろ♡」
卑猥な音が、部屋に響く。
わたしとタクヤの、愛の音。
唾液が混ざり合う音。
舌が絡み合う音。
全部、全部、愛おしい。
わたしの手が、タクヤの頭を抱きしめる。
離さない。
絶対に離さない。
このまま、永遠にキスをし続けたい。
でも、人間には呼吸が必要で…
息が続かなくなって、ようやく唇を離す。
ぷはっ。
銀色に光の糸が、わたしとタクヤの唇を繋いでいる。
その光景が、あまりにも扇情的で。
「はぁ♡ はぁ♡ タクヤ♡」
わたしの顔は、熱くなっていた。
きっと、真っ赤になっている。
いや、真っ赤どころじゃない。
全身が火照って、汗が滲んでいる。
呼吸が荒くて、心臓が爆発しそう。
タクヤも、少し息を荒くしている。
その様子を見てわたしの中の、何かが疼いた。
もっと。
もっと欲しい。
キスだけじゃ足りない。
タクヤを、完全にわたしのものにしたい。
体も、心も、魂も、全部。
既成事実を作りたい。
子供を作りたい。
そうすれば、タクヤは絶対にわたしから離れられなくなる。
今すぐ、この場で。
わたしの手が、タクヤの服に伸びる…
でも。
その瞬間。
わたしの脳内に、冷静な声が響いた。
『待って』
『まだ早い』
『焦りすぎたら、タクヤが引いてしまうかもしれない』
わたしは、ハッとして手を止めた。
そうだ。
落ち着け、リリー。
完璧な奥さんを演じなければ。
優しくて、愛らしくて、でも少し恥ずかしがり屋で…そんな、理想の恋人を演じなければ。
そうすれば、タクヤはずっとわたしを愛してくれるはず…
わたしは、深呼吸をして自分を落ち着かせた。
すーはー。
すーはー。
冷静になれ。
焦るな。
完璧な演技をするんだ。
「ご、ごめんなさい、タクヤ♡」
わたしが顔を伏せる。
恥ずかしそうに。
初心な少女のように。
「わたし、つい夢中になってしまったかな♡」
「いや、大丈夫だよ」
ああ…やっぱり。
やっぱりタクヤは優しいかな。
この優しさが、わたしを狂わせる。
もっともっと、タクヤを独占したくなる。
誰にも渡したくない。
この優しさは、わたしだけのもの。
◇ ◇ ◇
わたしは、気分を切り替えることにした。
今は、完璧な恋人を演じる時間。
タクヤに、理想の女性だと思ってもらう時間。
「タクヤ…お腹空いてないかな?
わたし、夕食を作るかな♡」
わたしが、にこやかに笑う。
完璧な笑顔。
何度も鏡の前で練習した、最高の笑顔。
「ああ、そうだね。手伝おうか?」
……!
手伝ってくれる?
タクヤが、わたしと一緒に料理を作ってくれる?
「本当? 嬉しいかな♡」
わたしの声が、興奮で上ずる。
これが、わたしの求めていた結婚生活。
大好きな人と一緒に料理を作る。
一緒にキッチンに立って、一緒に野菜を切って、一緒に味見をして…
普通の恋人同士なら、当たり前の光景。
でも、わたしにとっては、特別すぎる時間。
一年間、夢見続けてきた光景。
わたしたちは、一緒にキッチンに向かった。
タクヤが、わたしの横に立つ。
その距離は、わずか数十センチ。
手を伸ばせば触れられる距離。
その近さだけで、わたしの心臓が激しく打つ。
「リリー、次は何をすればいい?」
その声…優しくて、穏やかで、わたしを信頼してくれている声。
「じゃあ♡ 野菜を切ってくれる?
わたしは肉の下ごしらえをするから♡」
「分かった」
タクヤが、慣れた手つきで野菜を切り始める。
その横顔を見ながら、わたしは幸せに浸っていた。
ああ。
この人は、わたしのもの。
わたしだけのもの。
他の誰のものでもない。
この光景を、他の女が見ることは絶対にない。
ルナも、エリカも、クロエも、オルテンシアも…誰も、この特別な時間を共有することはできない。
これは、わたしだけの特権。
わたしだけが、タクヤと一緒に料理を作れる。
わたしだけが、タクヤの横顔を見ながら幸せを感じられる。
料理を作りながら、わたしはタクヤに何度も話しかけた。
些細なことでも、タクヤと会話できることが嬉しい。
タクヤの声を聞けることが嬉しい。
タクヤが、わたしの言葉に反応してくれることが嬉しい。
「タクヤ…この野菜、上手に切れてるね♡」
「ありがとう。リリーが教えてくれたおかげだよ」
ああ。
ああああ。
タクヤが、わたしを褒めてくれる。
わたしに感謝してくれる。
嬉しい。
嬉しすぎる。
「タクヤ♡ 味見してくれる?♡」
わたしがスプーンに料理をすくって、タクヤの口元に運ぶ。
この行為…恋人同士がする、甘い行為。
「あーん♡」
甘い声に反応してくれて、タクヤが素直に口を開けてくれる。
その姿が…
ああ。
あまりにも可愛くて、わたしは思わず声を上げそうになった。
可愛い。
タクヤが可愛い。
こんなに可愛い人が、わたしのものだなんて。
信じられない。
夢みたい。
でも、これは現実。
タクヤが、料理を味わう。
その表情を、わたしは食い入るように見つめる。
「美味しいね、リリー」
「本当? 良かったかな♡」
わたしは嬉しくて、我慢できなくて…
タクヤにキスをした。
ちゅっ。
軽く唇を重ねるだけのキス。
でも、それだけで幸せで死にそうになる。
本当に、心臓が止まるんじゃないかってくらい、幸せ。
料理が出来上がって、わたしたちはテーブルに向かった。
二人分の料理を並べる。
湯気が立ち上る、温かい料理。
わたしが、タクヤのために作った料理。
「いただきます♡」
二人で声を揃えて言った。
その瞬間…
わたしは、本当の夫婦になったような気がした。
結婚して、同じ家に住んで、一緒に食事をする。
そんな、普通の夫婦の光景。
でも、わたしたちにとっては、普通じゃない。
特別。
世界で一番特別な瞬間。
タクヤが、わたしの作った料理を美味しそうに食べてくれる。
その様子を見て、わたしの心は満たされていく。
ああ、タクヤが喜んでくれている。
わたしの料理を、美味しいと思ってくれている。
「リリー、本当に料理が上手だね」
「タクヤのために…たくさん練習したかな♡」
それは、本当のことだった。
嘘じゃない。
一言も嘘じゃない。
タクヤを手に入れるために、わたしは完璧な奥さんになる準備をしていた。
合間を縫って、完璧な女性になるために。
料理も、掃除も、洗濯も、裁縫も、魔法も…全部、完璧にこなせるように練習した。
料理本を何冊も読んで、レシピを全部暗記して、何度も何度も作って。
失敗しても諦めずに、完璧になるまで練習し続けた。
そうすれば、タクヤはわたしから離れられなくなるかな。
わたしの料理がないと、生きていけなくなる。
わたしの存在が、タクヤにとって必要不可欠になる。
それが、わたしの戦略。
完璧な奥さんになって、タクヤを絶対に逃がさない。
◇ ◇ ◇
食事の後、わたしたちは暖炉の前で寄り添って座った。
パチパチと薪が燃える音が、静かな部屋に響く。
その音が、心地いい。
まるで、わたしたちの愛を祝福しているかのような、優しい音。
タクヤの腕の中で、わたしは至福の時を過ごしていた。
温かい。
安心する。
ここが、わたしの居場所。
タクヤの腕の中こそが、わたしが一番安心できる場所。
「ずっと、こうしていたいな」
その言葉を聞いて、わたしの心臓が、また激しく打ち始める。
「ずっと一緒にいようかな♡」
その声は、真剣だった。
冗談じゃない。
本気。
「永遠に♡」
永遠に。
その言葉が、わたしの心に深く刻まれた。
そう。
わたしたちは、永遠に一緒にいるかな。
誰にも邪魔されることなく。
何にも阻まれることなく。
たとえ世界が終わっても、わたしたちは一緒。
わたしは、タクヤの顔を見上げた。
その顔…優しくて、穏やかで、そして今、暖炉の炎に照らされて、少しオレンジ色に染まっている。
綺麗。
本当に綺麗。
この人は、わたしのもの。
そして、再び唇を重ねる。
今度は、ゆっくりと、優しく。
愛情を込めて、丁寧に。
さっきの激しいキスとは違う、穏やかなキス。
タクヤも、わたしを抱きしめてくれる。
その腕が、わたしの体を包み込んでいく。
その温もりが、わたしの全身に染み込んでいく。
ああ。
このまま溶けてしまいたい。
タクヤと一つになりたい。
完全に、絶対に、永遠に。
キスをしながら、わたしの手がタクヤの体を撫でる。
胸元。
硬くて、たくましい胸。
腹部。
引き締まった、美しい筋肉。
そして、腰へ…
わたしの呼吸が、荒くなっていく。
はぁ、はぁ、はぁ。
もう、理性が保てない。
タクヤも、わたしの体に触れてくれる。
背中を撫でて、腰に手を回して…
その感触が、わたしを更に高揚させた
もっと。
もっと触れて。
もっと、わたしを感じて。
「タクヤ♡」
わたしが、切なげに呟く。
その声は、甘くて、色っぽくて、自分でも驚くほど扇情的だった。
「リリー……」
タクヤも、わたしの名前を呼んでくれる。
その声…少し、掠れている。
ああ。
タクヤも、興奮しているんだ。
わたしに、欲情しているんだ。
その事実が、わたしを更に狂わせる。
もう我慢できない。
今すぐ、タクヤと一つになりたい。
子供が欲しい。
タクヤの子供が欲しい。
そうすれば、完全にタクヤを繋ぎ止められる。
絶対に逃げられなくなる。
他の女のところに、行けなくなる。
わたしの手が、タクヤのシャツのボタンに伸びる。
一つ。
カチャ。
二つ。
カチャ。
ボタンを外していく。
その下から、タクヤの肌が見えてくる。
綺麗な肌。
触りたい。
舐めたい。
タクヤも、わたしの服に手をかけてくれる。
ああ。
これから。
これから、わたしたちは…
でも、その瞬間。
わたしの頭に、また冷静な声が響いた。
『待って』
『まだ早い』
『焦ったら、全てを失うかもしれない』
『完璧な奥さんを演じなければ』
ハッとして手を止めた。
そうだ。
まだ、タクヤと結ばれるのは早い。
もっと、タクヤに愛してもらわなければ。
もっと、完璧な恋人だと思ってもらわなければ。
そうすれば、タクヤは絶対にわたしから離れなくなる。
焦るな。
焦ったら、全てが台無しになる。
わたしは、深呼吸をして自分を落ち着かせた。
「タクヤ♡ ごめんなさい♡ わたし、まだ心の準備が♡」
わたしが、恥ずかしそうに顔を伏せる。
頬を赤らめて、上目遣いで、初心な少女のように。
完璧な演技だった。
何度も鏡の前で練習した、完璧な表情。
「いや、大丈夫だよ、リリー。急ぐ必要はないから」
タクヤが、優しく答えてくれる。
ああ、やっぱり。
やっぱりタクヤは優しいかな。
この優しさが、わたしを更に狂わせる。
もっと、もっと愛したくなる。
もっと、もっと独占したくなる。
「ありがとう、タクヤ♡ 大好きかな♡」
わたしは、タクヤに抱きついた。
ぎゅっ。
力いっぱい、抱きしめる。
「俺も大好きだよ、リリー」
タクヤが、わたしを抱きしめてくれる。
その温もりの中で、わたしは静かに誓った。
いつか、いつか、必ずタクヤと結ばれる。
そして、子供を作る。
タクヤを、完全にわたしのものにする。
でも、今は我慢するかな。
完璧な奥さんを演じて、タクヤにもっと愛してもらう。
そうすれば、タクヤは絶対にわたしから離れられなくなるから。
◇ ◇ ◇
夜が更けていく中で、わたしたちは寄り添って眠りについた。
ベッドの中。
柔らかい毛布の下。
タクヤの腕の中。
ここが、わたしの居場所。
ここが、わたしが一番安心できる場所。
タクヤの腕が、わたしの体を抱きしめている。
その温もりが、わたしを包み込んでいる。
心臓の音が聞こえる。
ドクン、ドクン、という規則的な音。
その音を聞いていると、安心する。
タクヤは、生きている。
わたしの隣で、呼吸をしている。
わたしと一緒に、この時間を共有している。
わたしは、幸せを噛み締めていた。
一年間、夢見続けてきた光景。
タクヤと一緒にベッドで眠る。
こんなに近くで、こんなに温かくて、こんなに幸せな時間。
でも、頭の奥では、別のことを考えていた。
タクヤの元奥さんたちのこと。
ルナ。
エリカ。
クロエ。
オルテンシア。
ユリエル。
指輪の効果で、タクヤの記憶からは消えている。
今のタクヤは、彼女たちのことを全く覚えていない。
まるで、最初から存在しなかったかのように。
でも、彼女たちは、実際に存在している。
今も、どこかで生きている。
そして、いつかタクヤを取り戻そうとするかもしれない。
ユリエル以外の全員の顔を思い浮かべながら、わたしは静かに微笑んだ。
ルナ。
銀髪の、綺麗な女。
タクヤの最初の奥さん。
彼女が一番危険かな。
だって、一番早くタクヤとの子供を使っているから。
エリカ。
強くて、勇敢な女。
タクヤを守ろうとする。
しかもタクヤと長く過ごしたらしい。
でも、タクヤを守るのは、わたしの役目かな。
クロエ。
鈍くて、弱々しい女。
タクヤを癒してくれる存在。
それが気に入らない。
タクヤを癒せるのは、わたしだけでいい。
オルテンシア。
頭が悪くて、プライドが高い女。
タクヤに甘えまくる。
それが、一番許せない。
タクヤに甘えていいのは、わたしでなければならないのに。
ユリエル。
あのレオナルドが話していたから、結婚しているのだろう。
会ったことはないが、きっとこいつもタクヤを愛している。
わたしが一番愛しているというのに。
全員、邪魔。
全員、消えてほしい。
いつか、この魔法が解けてしまうかもしれない。
認識改変の指輪の効果は、永遠じゃないかもしれない。
いつか、タクヤが元の記憶を取り戻すかもしれない。
そうなった時…
タクヤが、また彼女たちのところに戻ってしまうかもしれない。
それは、絶対に許せないかな。
絶対に、絶対に、許せない。
だったら…
いっそのこと、全員殺してしまえばいいかな。
そう。
殺せばいい。
一人ずつ、丁寧に。
確実に。
そうすれば、タクヤは完全にわたしのものになる。
戻る場所も、戻る理由もなくなる。
彼女たちという選択肢が、完全に消える。
わたしは、その計画について真剣に考え始めていた。
まず、誰から始めるか。
一番危険なのは、エリカかな。
彼女が一番タクヤとの絆が深い。
だから、最優先で消すべき。
でも、エリカは強い。
簡単には殺せない。
慎重に計画を立てなければ。
次は、ルナかな。
タクヤの子供を産んでいる。
その事実が、わたしには耐えられない。
だから、早く消したい。
クロエ、オルテンシア、ユリエルは、その後でいいかな。
彼女たちも邪魔だけど、優先順位は低い。
どうやって近づくか。
どうやって油断させるか。
どうやって始末するか。
魔法を使えば、簡単にできるかな。
わたしは、魔法の天才。
十歳で、既に大魔法使いクラスの実力を持っている。
攻撃魔法も、防御魔法も、補助魔法も…全部、完璧に使える。
毒を使うのもいいかな。
無味無臭の、強力な毒。
一滴飲めば、数時間で死ぬ。
苦しみながら、悶えて。
あるいは、事故を装うのもいいかな。
崖から落ちたことにするとか、魔獣に襲われたことにするとか。
そうすれば、殺人だとは疑われない。
でも、証拠を残さないようにしなければ。
タクヤに疑われないように、完璧に計画を立てなければ。
もし、タクヤにバレたら…
もし、わたしが彼女たちを殺したことがバレたら…
タクヤは、わたしを嫌いになるかもしれない。
それだけは、絶対に避けなければならない。
だから、完璧に。
絶対に、証拠を残さないように。
わたしは、認識改変の指輪を見つめた。
月明かりに照らされて、指輪が鈍く光っている。
この指輪、この、わたしの夢を叶えてくれた魔法の指輪。
これがなければ、タクヤを手に入れることはできなかった。
あの怪しい商人に作り方を教えてもらった時は、本当に効果があるのか半信半疑だった。
高額な金貨を払って材料を買い、それでも効果がなかったらどうしようって、不安だった。
でも、こんなに完璧に働くなんて。
タクヤは、本当にわたしのことを愛してくれている。
指輪の効果だと分かっていても、それでも嬉しいかな。
だって、タクヤの口から「大好きだ」って言葉を聞けるのだから。
たとえ偽りの愛でも、わたしにとっては真実。
タクヤが愛してくれている。
その事実だけで、わたしは幸せ。
わたしは、タクヤの寝顔を見つめた。
穏やかに眠っている。
すやすやと、規則的な呼吸。
わたしを信じて、無防備な姿を見せてくれている。
ああ。
可愛い。
本当に、可愛いかな。
この寝顔を、他の女には絶対に見せたくない。
この穏やかな表情を見られるのは、わたしだけの特権。
わたしだけが、タクヤの全てを知っている。
この人は、わたしのもの。
わたしだけのもの。
誰にも渡さない。
絶対に。
わたしは、タクヤの首筋にそっと唇を寄せた。
温かい。
タクヤの体温を、直接感じる。
そして、軽くキスをする。
ちゅっ。
タクヤが、少しだけ体を動かす。
でも、起きない。
まだ、深い眠りの中。
わたしは、少し強めに吸った。
ちゅーっ。
小さな赤い跡が、タクヤの首筋に残る。
マーキング。
わたしのものだという証。
キスマーク。
他の女が、タクヤに近づこうとしても…
この跡を見れば、タクヤにはもう相手がいることが分かる。
わたしという、愛する人がいることが分かる。
わたしは、満足して微笑んだ。
もっと、たくさんつけようかな。
首筋だけじゃなく、胸にも、腕にも、背中にも。
タクヤの体中に、わたしの痕跡を残したい。
わたしのものだという証を、全身に刻みたい。
でも、今日はここまでにしておこう。
あまりやりすぎると、タクヤが起きてしまうかもしれない。
明日も、明後日も、これからずっと…
時間はたくさんある。
焦る必要はない。
ゆっくりと、確実に、タクヤをわたしのものにしていけばいい。
わたしは、タクヤの胸に顔を埋めた。
心臓の音が、はっきりと聞こえる。
ドクン、ドクン、ドクン。
この音が、わたしを安心させる。
タクヤは、生きている。
わたしの隣で、呼吸をしている。
それだけで、わたしは幸せ。
明日も、明後日も、ずっとこの幸せが続きますように。
そんな願いを込めて、わたしは静かに祈った。
神様、もしいるなら聞いてください。
わたしとタクヤを、永遠に結びつけてください。
誰にも、何にも、引き裂かれないように。
タクヤが、ずっとわたしを愛してくれますように。
わたしが、ずっとタクヤを愛し続けられますように。
そして、邪魔者が、全員消えますように。
ルナも、エリカも、クロエも、オルテンシアも、ユリエルも。
全員、わたしたちの前から消えますように。
事故で死ぬか、病気で死ぬか、何でもいい。
とにかく、この世界からいなくなってくれれば。
そうすれば、わたしとタクヤは、本当に二人だけの世界で生きていける。
誰にも邪魔されずに。
何にも阻まれずに。
永遠に、ずっと。
わたしは、タクヤの温もりを感じながら、そんな残酷な祈りを捧げていた。
この歪んだ愛こそが、わたしの生きる意味だった。
タクヤを愛すること。
タクヤを独占すること。
タクヤを、誰にも渡さないこと。
それが、わたしの全て。
わたしの存在理由。
わたしの生きる目的。
認識改変の指輪によって作られた、偽りの愛だとしても…
わたしにとっては、真実かな。
タクヤの愛を感じられる限り、わたしは幸せでいられる。
たとえそれが、魔法によって作られた幻想だとしても。
たとえそれが、本物の愛じゃないとしても。
わたしには、関係ないかな。
タクヤが、「大好きだ」って言ってくれる。
タクヤが、わたしを抱きしめてくれる。
タクヤが、わたしにキスをしてくれる。
それだけで、わたしは満たされる。
それだけで、わたしは幸せ。
そして、この状態を永遠に続けるために…
わたしは、何でもするつもりだった。
誰を殺しても、何を犠牲にしても。
たとえ、自分の魂を魔神に売り渡すことになっても。
タクヤは、わたしのものかな。
完全に、絶対に、永遠に。
誰にも渡さない。
たとえ世界が終わっても、タクヤだけは守る。
たとえ神様が引き裂こうとしても、タクヤを手放さない。
これが、わたしの愛。
歪んでいて、狂っていて、常軌を逸している愛。
でも、これがわたしの全て。
わたしの心を支配する、唯一の感情。
タクヤへの、狂おしいほどの愛。
わたしは、タクヤの腕の中で、静かに微笑んだ。
明日は、どんな幸せが待っているかな。
タクヤと一緒に朝食を作って、一緒に散歩をして、一緒に夕食を食べて、一緒に眠る。
そんな、普通の日常。
でも、わたしにとっては、特別な毎日。
夢のような毎日。
これが、ずっと続けばいいのに。
永遠に、ずっと。
◇ ◇ ◇
朝日が、カーテンの隙間から差し込み、その光が、わたしの顔を照らす。
わたしは、ゆっくりと目を開けた。
最初に見えたのは、タクヤの寝顔。
まだ、眠っている。
穏やかな表情で、すやすやと。
ああ。
朝、目を覚まして最初に見るのが、タクヤの顔。
こんなに幸せなことがあるかな。
これが、わたしの求めていた生活。
大好きな人と一緒に眠って、一緒に目覚める。
普通の夫婦なら、当たり前の光景。
でも、わたしにとっては、特別すぎる瞬間。
わたしは、タクヤの顔をじっと見つめた。
何時間でも、見ていられる。
飽きない。
この顔を見ているだけで、幸せ。
でも、そろそろ、朝食の準備をしなければ。
完璧な奥さんを演じるためには、タクヤが起きる前に朝食を作って、タクヤが目覚めた時に「おはよう」って笑顔で迎えなければ。
わたしは、そっとベッドから抜け出した。
タクヤを起こさないように、静かに。
キッチンに向かって、朝食の準備を始める。
パンを焼いて、コカリスの卵を焼いて、サラダを作って、コーヒーを淹れる。
全部、タクヤが好きなもの。
タクヤの好みは、全部覚えている。
何が好きで、何が嫌いで、どんな味付けが好きで。
全部、全部、頭に入っている。
完璧な奥さんになるために、調べ上げた。
朝食が出来上がった頃、タクヤが起きてきた。
「おはよう、リリー」
タクヤが、眠そうな目で言った。
その姿が、あまりにも可愛くて…
「おはよう、タクヤ♡
朝食、できてるかな♡
一緒に食べるかな♡」
「ありがとう、リリー」
タクヤが、嬉しそうに微笑んでくれた。
その笑顔を見て、わたしの心臓が激しく打つ。
朝から、こんなに幸せでいいのかな。
これが、これからずっと続くなんて。
信じられないほど、幸せ。
わたしたちは、テーブルについた。
二人で、向かい合って座る。
朝日が差し込む、明るいダイニング。
温かい朝食。
愛する人との時間。
全てが、完璧。
「いただきます♡」
そして、食事を始める。
タクヤが、わたしの作った朝食を美味しそうに食べてくれる。
その様子を見ながら、わたしは静かに誓った。
この幸せを、絶対に手放さない。
タクヤを、絶対に逃がさない。
誰にも、何にも、邪魔はさせない。
たとえ、そのために誰かを殺すことになっても…
わたしは、躊躇しないかな。
タクヤは、わたしのもの。
永遠に。




