表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/152

第百三十八話「認識改変指輪」


 リリーとの会話…いや、一方的な愛の告白という名の狂気の独白が平行線を辿っている中、彼女が突然何かを取り出した。


 小さな指輪だった。


 銀色の、シンプルなデザイン。

 一見すると街の雑貨屋で売っているような、ごく普通の装飾品に見える。


 でも、俺の肌があわだった。


 その指輪から、微かに魔力の波動を感じる。

 いや、微かなんてものじゃない。

 よく見れば、指輪の表面に魔法陣が刻まれている。

 複雑に絡み合った紋様が、不気味な光を放っている。


 明らかに、ただのアクセサリーではない。


「これは何だ?」


 警戒心をマックスにする。


「特別な指輪かな♡」


 その目は、まるで最高のプレゼントを見せびらかす子供のように輝いている。

 いや、子供というより…クリスマスの朝におもちゃを見つけた子供の、あの純粋な喜びに満ちた目だ。


 ただし、そのおもちゃが人の命を奪う凶器だったとしても気にしないような、危険な輝きを湛えている。


「認識改変の指輪っていうかな♡」


 …認識改変?


 その単語を聞いた瞬間、俺の背筋に冷たいものが走った。

 認識改変。

 つまり、人の認識を変える。

 記憶を、感情を、思考そのものを…


 これは本当にやばい。


「どんな効果があるんだ?」


 内心では、もう答えを聞きたくない。

 聞かない方がいい。

 絶対にろくでもない効果に決まっている。


「相手の左手の薬指につけると♡」


 説明こそしてくれるものの、表情は異常に興奮していた。

 頬が紅潮し、呼吸が荒くなっている。

 まるで、長年の夢がついに叶う瞬間を迎えているかのような、危険なまでの高揚感に満ちていた。


「その人は、つけた人から言われたことを本当だと信じるようになるかな♡」


 …は?


 今、何て言った?


 信じるようになる?


 それって、つまり…


 俺の思考が、恐怖で凍りつく。

 

 それは、恐ろしいアイテムだった。

 人の認識を強制的に改変する。

 記憶を書き換え、感情を操作し、思考そのものをコントロールする。

 魔法の中でも、最も禁忌に近い部類だ。


 そんなものを、リリーが持っているとは…


「この指輪かな♡」


 リリーが俺の顔を見上げて、狂気に満ちた笑顔を見せる。

 その笑顔は、天使のように美しくそして、悪魔のように恐ろしい。


「タクヤのために。ずっと探してたかな。

 何年も何年も、魔法の研究を続けて。古い文献を読み漁って。危険な場所にも行って。

 やっと♡ やっと完成させたかな♡」


 リリーの目から、涙が溢れてくる。

 でも、それは悲しみの涙ではなく、達成感と、狂気に満ちた喜びの涙だった。


 彼女の執念が、恐ろしい。

 いや、執念なんて生易しいものじゃない。

 これは、もはや呪いだ。

 一年間、ずっと俺のことだけを考え続けた、歪んだ愛情という名の呪い。


「どこでそんなものを…」


 俺が聞こうとした時、リリーが突然俺の後ろを指差した。


「タクヤ♡

 後ろに魔獣がいるかな」


 …魔獣?


 俺は反射的に振り返った。

 戦闘態勢に入りながら、周囲を警戒する。


 でも…何もいない。

 草木が風に揺れているだけ。

 魔獣の気配など、微塵も感じられない。


 騙された。


 そう気づいた時には、既に遅かった。




 ◇ ◇ ◇




 リリーが素早く俺の左手を掴んでいた。

 その動きは、信じられないほど速かった。

 まるで、何度も何度も練習してきたかのような、完璧な動作。


 そして…

 

 薬指に、冷たい感触。

 指輪が、嵌められていく。


「しまった!」


 俺が抵抗しようとする。

 左手を振り払おうとする。

 でも…


 遅い。


 指輪は既に俺の指にぴったりとはまっている。

 まるで最初からそこにあったかのように、俺の指に馴染んでいる。


 簡単には外れそうにない。

 いや、外れないように魔法がかかっているのだろう。


「やったぁ♡ 

 やっと♡ やっとタクヤとつながれたかな♡」


 リリーが小さくガッツポーズをする。

 その仕草は可愛らしいが内容は恐ろしい。


 そして、その瞬間、彼女の理性が完全に吹き飛んだ。


「あぁ♡ あぁぁぁ♡

 タクヤの薬指に♡ わたしの指輪♡」


 リリーが震えながら俺の手を両手で包み込んだ。

 その手は熱く、そして異常なほど力が込められている。

 まるで、絶対に離さないという強い意志が込められているかのように。


「結婚指輪みたいかな♡ わたしたち、もう夫婦♡」


 彼女が俺の左手に頬擦りをする。


 すりすり。


 すりすり。


 その動きは、まるで猫が飼い主に甘えるようだ。

 でも、その目は完全に狂気に染まっている。


「何年待ったと思ってるの♡」


 リリーの目から涙が溢れてくる。

 でも、それは悲しみの涙ではなく、狂気に満ちた喜びの涙だった。

 大粒の涙が、次々と頬を伝って落ちていく。


「一年♡ 一年も待ったかな♡

 毎日毎日♡ タクヤのことだけ考えて♡」

「朝起きて最初に考えるのもタクヤ♡

 夜寝る前に考えるのもタクヤ♡

 食事中も♡ 湯浴みでも♡ 戦闘中でも♡

 ずっとずっと♡ タクヤのこと♡」


 リリーが俺の手に顔を埋める。

 そして、深く、深く息を吸い込む。


「あぁ♡

 タクヤの匂い♡ 指輪越しでも感じるかな♡」


 彼女の狂気が、どんどんエスカレートしていく。

 もはや、誰にも止められない暴走列車のように。


「この瞬間のために♡ 生きてきたかな♡

 タクヤと♡ こうして♡ 結ばれるために♡

 わたしは♡ 生まれてきかな♡」


 彼女の妄想が、もはや運命論にまで達している。


 生まれてきた理由が、俺と結ばれるため?

 それは、もう愛情ではなく呪いだ。


「これでタクヤは完全にわたしのもの♡」


 リリーが俺を見上げて、危険なほどの笑顔を見せる。

 その笑顔は、純粋で、無垢で、絶望的なほど狂っている。


「誰にも渡さないかな♡ 絶対に♡

 たとえ世界中が敵になっても♡ たとえ神様が引き離そうとしても♡

 絶対に♡ 絶対に♡ タクヤはわたしのものかな♡」


 そして、リリーが俺の耳元に口を寄せてきた。

 その息遣いは、熱くて、異常なほど興奮している。

 まるで、長距離走を全力疾走した後のような、荒い呼吸。


「タクヤ♡」


 彼女が甘く、そして狂気に満ちた声で囁く。

 その声は、まるで魔法の呪文のように、俺の耳に、脳に、心に直接響いてくる。


「リリー以外の愛する他の女は忘れるかな♡」


 …え?


 その言葉が俺の頭に響いた瞬間、何かが変わった。

 脳の中で、何かが書き換えられていく感覚。

 まるで、記憶の中の大切な部分が、霧に包まれていくような…


 俺の記憶の中から、ルナ、エリカ、クロエ、オルテンシア、ユリエルの存在が薄れていく。


 ルナの母性。


 エリカの元気さ。


 クロエの謙虚さ。


 オルテンシアのバカさ。


 ユリエルのメス。


 全てが、まるで古い写真が色褪せていくように、ゆっくりと、しかし確実に消えていく。


「あれ…?」


 頭の中が、混乱している。

 確か、大切な人たちがいたような気がする。

 とても大切な、愛する人たちが。


 でも…

 誰だったか思い出せない。

 名前が出てこない。顔も思い出せない。

 どんな人だったのか、全く分からない。


「そして、リリーだけがタクヤの女で♡」


 その時、彼女は俺の胸に手を当てて、心臓の鼓動を確認していた。

 まるで、俺の心臓が自分のものになったことを確かめるかのように。


「タクヤは、リリー以外愛せないかな♡」


 その言葉が、俺の心に染み込んでいく。

 まるで、インクが紙に染み込むように、ゆっくりと、しかし確実に。


 俺の心の中で、何かが書き換えられていく。

 今まで大切にしていた記憶が、感情が、愛情が全てが、どんどん遠ざかっていく。


 そして、代わりに…


「リリー…?」


 俺が目の前の少女を見る。

 桃髪。

 青い瞳。

 小さな体。

 可愛らしい顔立ち。


 なぜか、この子がとても気になる。

 いや、気になるというより…心が、引かれている。

 まるで磁石に引き寄せられる鉄のように、抗えない力で。


「可愛い…」


 思わず呟いてしまった。

 その言葉は、心の底から湧き上がってきた。

 嘘偽りのない、純粋な感想。


 その言葉を聞いた瞬間、リリーの身体が、激しく震えた。


「あ♡ あぁぁぁ♡

 タクヤが♡ わたしのこと♡ 可愛いって♡」


 彼女の声が、歓喜で震えている。

 リリーが俺の胸に顔を埋めて、嗚咽を漏らす。

 その体は小刻みに震え、涙が俺の服を濡らしていく。


「待ってたかな♡ この言葉♡ 何年も何年も♡

 一年♡ 一年間♡ ずっと♡

 タクヤの口から♡ この言葉を聞くために♡」

「生きてきたかな♡」


 彼女の狂気が、さらに加速する。

 もはや、ブレーキの壊れた車のように、誰にも止められない。


「嬉しいかな♡ 嬉しすぎて♡ 死にそうかな♡

 いや、死んじゃダメかな♡

 タクヤと一緒にいなきゃかな♡

 生きるかな♡ タクヤのために♡ 生きるかな♡」


 俺は、リリーを見詰めていた。

 この桃髪の少女が、なぜこんなに魅力的に見えるのだろう。

 不思議だ。

 さっきまでは、ただの危険なヤンデレ少女にしか見えなかったのに。


 でも、今は違う。

 彼女の青い瞳は、まるで宝石のように美しい。

 小さくて愛らしい唇は、キスをしたくなるほど魅力的だ。


 華奢な体つきは、守ってあげたくなる。

 すべてが、完璧に美しく見える。


「リリー…君は…」


 俺が言葉を探す。

 この気持ちは、一体何なのだろう。

 胸が熱い。

 心臓が早鐘を打っている。


「俺にとって…」

「言って♡ 言って♡」


 リリーが俺を見上げて、期待に満ちた目で迫る。

 その目は、狂気に満ちているのに…なぜか、美しく見える。

 まるで、純粋な愛情だけが込められているかのように。


「タクヤの気持ち♡ 聞かせるかな♡

 早く♡ 早く♡」


 彼女の体が、期待で震えている。


「君は…大切な人だ…」


 その言葉は、心の底から湧き上がってきた。

 嘘じゃない。

 本当に、心から思っている。


 その瞬間…リリーの表情が、歓喜に歪んだ。


「あぁぁぁぁ♡♡♡」


 彼女が絶叫に近い喜びの声を上げる。

 その声は、もはや人間のものとは思えないほどの狂気に満ちていた。


「大切…大切って♡ タクヤが♡

 わたしのこと♡ 大切な人って♡」


 リリーが俺に飛びついてくる。

 その勢いは凄まじく、俺の体が少しよろめくほどだ。


「もっと♡ もっと言うかな♡

 もっともっと♡ 褒めるかな♡

 わたしのこと♡ もっと♡」


 彼女の要求が、どんどんエスカレートしていく。


「俺は…君のことが…」


 俺の心の中で、リリーへの愛情が湧き上がってくる。

 この感情は、一体何なのだろう。

 でも、不思議と違和感がない。

 むしろ、自然に感じる。

 まるで、最初からそこにあったかのように。


「好き…なのかもしれない…」


 その言葉が、自分の口から出たことに、俺自身が驚いている。

 でも、嘘じゃない。

 本当に、そう思っている。


 その言葉を聞いた瞬間、リリーが、完全に理性を失った。


「きゃああああ♡♡♡」


 彼女が奇声を上げて、俺に抱きつく。

 その力は異常に強く、まるで俺を押し潰そうとしているかのようだ。


「好き♡ 好きって♡ タクヤがわたしのこと♡

 言ってくれた。本当に…本当に言ってくれたかな♡」


 リリーの目から、大量の涙が流れ出る。

 その涙は、喜びと狂気が混ざり合った、危険な輝きを放っていた。


「一年♡ 一年待った♡ この言葉♡

 四百日♡ 九千六百時間♡ 五十七万六千分♡

 全部♡ 全部この瞬間のため♡」


 彼女、分単位まで計算してたのか。


 リリーの体が震えている。

 興奮で、まともに立っていられないようだった。

 膝が笑い、呼吸が荒くなっている。


「タクヤ♡ タクヤ♡ タクヤ♡」


 その声は、完全に狂気に染まっている。

 もはや、正常な精神状態とは程遠い。


「嬉しいかな♡ 嬉しすぎるかな♡

 わたし♡ 今♡ 世界で一番幸せかな♡」


 レオナルドは、この状況を見て完全に混乱していた。

 彼の顔は青ざめ、目は信じられないものを見るかのように見開かれている。


「師匠、何を言ってるんですか!」


 その声は、焦りと恐怖で震えていた。


「奥さんたちのことは!?

 ルナさん! エリカさん! クロエさん

 全員、師匠のことを愛してるんですよ!」

「奥さん…?」


 奥さん?

 誰のことだ?


「何のことだ?」


 その言葉に、レオナルドの顔が絶望に染まった。


「師匠…本気で…

 忘れてしまったんですか…」

「師匠、思い出してください!」


 レオナルドが必死に訴える。

 その目には、涙が浮かんでいた。


「ルナさんは、師匠の最初の奥さんです!

 エリカさんは、師匠を誰よりも愛しています!

 クロエさんは、師匠のために頑張って明るくなろうとしています!

 オルテンシアさんは、師匠を尊敬し、追いつこうとしています!

 ユリエルさんは、師匠に全てを捧げています!」


 でも、その名前を聞いても、俺には何も響かない。

 まるで、知らない人の名前を聞かされているかのようだ。

 誰のことを言っているのか、全く分からない。


「思い出せない…

 そんな人たち、知らない…」


 その言葉を聞いた瞬間、レオナルドが膝をついた。


「そんな…

 本当に…完全に…」


 ミスティも、この状況に困惑していた。

 ハルカのトラウマで弱気になっていた彼女だが、この異常事態にメスガキモードが少しだけ戻ってきている。


 アリシアは、終始困惑していた。


 俺がリリーを見詰める目が、明らかにおかしい。

 まるで、恋人を見るような。

 いや、恋人以上の、執着に近い目だった。


「タクヤ…」


 その声は、恐怖と悲しみで震えていた。


「私のことは…覚えていますか…?」

「ああ、もちろん」

「君は仲間だろ」


 ——仲間。

 その単語を聞いた瞬間、アリシアの顔から血の気が引いた。


「仲間…ただの…仲間ですか…?

 キスは…私たちのキスは…

 毎日…あんなに…」


 キス?

 俺は、アリシアとキスをしたことがあるのだろうか。

 記憶を探るが、何も思い出せない。

 そんな記憶は、どこにもない。


「そんな記憶はないけど」


 その瞬間、またもやアリシアの顔から、完全に血の気が引いた。


「そんな…」


 その体は、まるで糸の切れた人形のように、力なく崩れ落ちていく。


「あれだけ…毎日…キスをして…

 魔力補給を…

 あなたを…愛して…♡」


 アリシアの目から、大粒の涙が溢れ出る。

 その涙は、まるで堰を切ったかのように、次々と頬を伝って落ちていく。


「忘れられた…

 全部…全部…

 無駄だったんですか…」


 彼女の声が、悲しみで震えている。

 アリシアが俯いて、嗚咽を漏らし始める。

 その肩が、小刻みに震えていた。


「そうかな♡」


 リリーがアリシアを見下ろして、勝ち誇ったように笑う。

 その笑顔は、純粋な悪意に満ちていた。


「タクヤが覚えてるのは、わたしだけかな♡

 他の女のことなんて♡ 最初からいなかったも同然かな♡」


 リリーが俺の腕にしがみついてくる。

 その力は異常に強く、まるで俺を離すまいとしているかのようだ。


「ねえ、タクヤ♡」


 彼女が俺を見上げて、危険なほど甘い笑顔を見せる。

 その笑顔は、天使のように可愛らしく…

 そして、悪魔のように恐ろしい。


「わたしのこと♡ もっと好きになるかな♡

 もっともっと♡ 愛すかな♡

 わたしだけを♡ 見るかな♡」


 不思議なことに、その言葉に従いたくなる。

 まるで、それが当然のことであるかのように。

 俺のリリーへの愛情が、さらに深くなっていく。


「リリー」


 その瞬間、リリーの体がびくっと反応する。


「君は…本当に可愛い…」

「あぁぁぁ♡♡♡」


 リリーが再び絶叫する。

 その声は、もはや狂気そのものだった。


「可愛いって♡ また言ってくれたかな♡

 二回目♡ 二回目♡」


 彼女が俺の胸に顔を埋める。

 その顔は、幸福感で蕩けている。


「もっと♡ もっと褒めるかな♡

 わたし♡ タクヤに褒められたいかな♡

 いくらでも♡ 何回でも♡」

「君の髪は綺麗だ」


 俺が彼女の桃髪を撫でる。

 その髪は、絹のように滑らかで、美しい。


「君の目も美しい」


 彼女の青い瞳を見詰める。

 その瞳は、まるで宝石のように輝いている。


「君のすべてが愛おしい」


 その言葉を聞くたびに、リリーの興奮が加速していく。


「あぁぁぁ♡ あぁぁぁ♡ あぁぁぁ♡

 タクヤ♡ タクヤ♡ タクヤ♡」


 リリーが俺の名前を連呼しながら、俺にしがみつく。

 その体は、激しく震えている。


「わたし♡ 幸せすぎて死にそうかな♡

 いや、死んだらタクヤと一緒にいられないかな♡」

「だから、生きる♡ タクヤのために♡

 百年でも♡ 千年でも♡ 生きる♡」


 リリーの妄想が、もはや寿命すら超越している。


 百年?

 千年?

 お前は不老不死になるつもりか?


「ねえ、タクヤ♡」


 リリーが俺の顔を両手で挟む。

 その手は小さく、柔らかく、そして熱い。


「わたしのこと…愛してるって言うかな♡」


 まるで、それが当然のことであるかのように思えてしまう。


「愛してる」


 その言葉には、嘘はなかった。

 本当に、心の底からそう思っている。


 リリーの表情が、完全にとろけた。


「あぁぁぁぁぁぁ♡♡♡♡♡」


 彼女が、もはや言葉にならない叫びを上げる。

 その声は、歓喜と狂気が混ざり合った、危険な音色だった。


「タクヤが♡ 愛してるって♡

 言ってくれたかな♡

 本当に…本当に♡」


 リリーの目から、大量の涙が流れ出る。

 その涙は、喜びの涙だが同時に、狂気の涙でもあった。


「嬉しいかな♡ 嬉しすぎるかな♡

 何年待ったと思ってるかな♡

 何日…何時間…何分…何秒♡」


 彼女が俺の胸に顔を埋める。


「あぁ♡

 タクヤの匂い♡

 体温♡

 心臓の音♡」


 リリーは俺の身体のすべてを確認するように、手を這わせていた。

 その手つきは、明らかに恋人以上のものを求めている。

 いや、恋人というより所有者が所有物を確認するような、執着に満ちた動きだ。


「タクヤ♡」


 リリーが俺を見つめて、舌なめずりをした。

 その目は、完全に欲望に支配されている。

 理性のタガが、完全に外れている。


「今すぐにでも…ここで…あなたを♡

 わたしのものにしたいかな♡

 体も♡ 心も♡ 魂も♡

 全部♡ 全部わたしのもの♡」


 リリーの手が、俺の服に伸びてくる。

 その手つきは、もはや遠慮がない。


 でも、彼女は突然、自分を制御した。


「だ、だめ♡

 まだダメかな♡」


 リリーが自分の頬を叩いて、理性を保とうとする。


 ぺちぺち。


 でも、その頬は真っ赤に染まっていて、興奮が抑えきれていないのが分かる。


「タクヤとの初めては♡ もっと特別な場所で♡

 ちゃんとしたベッドで♡

 花びらを散らして♡

 キャンドルを灯して♡

 ロマンティックに♡」


 彼女の自制心と欲望が、激しく葛藤していた。

 俺を今すぐ襲いたい気持ちと、完璧な初夜を演出したい気持ちが、激しく戦っている。


「でも、我慢できないかな♡

 せめて…せめて匂いだけでも♡」


 彼女が俺の首を深く吸い込む。


 すーはー。

 すーはー。


 その行為は、まるで俺の匂いに酔いしれているかのようだった。


「あぁ♡ タクヤの匂い…最高♡

 もっと、もっと吸いたいかな♡

 一生、吸っていたいかな♡」


 突然、リリーが俺の首筋を舐め始めた。


 ぺろぺろ。


「んん♡ タクヤの味♡

 美味しい…もっと♡

 塩味…タクヤの汗の味♡」


 彼女の理性は、完全に崩壊寸前だった。

 というか、もう崩壊してる。


 俺は、リリーを抱きしめていた。

 この愛らしい恋人を、大切に守ってあげたい。

 なぜ、こんなに素晴らしい子を愛することを躊躇していたのだろう。


 不思議だ。


 彼女の一挙一動が愛らしく、守ってあげたい気持ちで胸がいっぱいになる。


「リリー、大好きだ」


 その言葉は、心の底から湧き上がってきた。


 その言葉を聞くたびに、リリーは天国にいるような表情を見せる。


「わたしも…わたしもタクヤが大好きかな♡

 愛してるかな♡ 狂おしいほど愛してるかな♡」

「というか♡ もう愛してるなんてレベルじゃないかな♡

 タクヤがわたしの全てかな♡ タクヤなしでは…生きていけないかな♡

 呼吸するのも…心臓が動くのも…全部タクヤのためかな♡」


 リリーの執着が、どんどん深くなっていく。

 もはや、愛情というより依存だ。

 いや、依存を超えた、何か別の概念。


 でもそれが愛おしい。


「もし…タクヤが死んだら♡

 わたしも一緒に死ぬかな♡」

「生きてる意味ないかな♡

 タクヤのいない世界なんて♡

 深界と同じかな♡」


 そして、彼女は笑顔になる。

 でも、その笑顔は恐ろしい…いや、可愛らしい。


「でも…大丈夫かな♡」

「タクヤは死なせないかな。

 絶対に…絶対に…

 もう誰にも殺させない」

「もし誰かがタクヤを傷つけようとしたら」


 リリーの目が、殺意に染まる。

 その目は、もはや人間のものではなかった。

 捕食者が獲物を狙う目…いや、それ以上に冷酷で、残忍な目だ。


「その人…殺すかな。

 ゆっくりゆっくり…苦しめて…殺すかな」

「指を一本ずつ…折って。

 爪を一枚ずつ…剥いで。

 皮膚を一枚ずつ…剥いで」


 リリーが、楽しそうに拷問方法を語る。

 その口調は、まるで料理のレシピを語るかのように軽い。


「そして…最後に…

 心臓を握り潰すかな」


 彼女の笑顔が、さらに深くなる。


「それが…愛の証明かな♡」


 ミスティが、突然メスガキモードを全開にした。

 ハルカのトラウマで封印されていたメスガキが、この異常事態に完全に反応したのだろう。


「ちょっと待ちなさいよ」


 彼女が偉そうに割り込んでくる。

 その態度は、いつものミスティに戻っている。

 いや、普段以上に挑発的だ。


「あんた、何をしたのよ!」


 ミスティがリリーを睨む。

 その目には、怒りと警戒が混ざり合っていた。


「さっきまで、あいつは普通だったじゃないの!?

 なのに今、完全にイカれてるじゃん」

「何のことかわからないかな♡」


 リリーがとぼける。

 でも、その表情には勝ち誇った笑みが浮かんでいた。

 まるで、全てが計画通りだと言わんばかりの笑顔。


「タクヤは、最初からわたしを愛してたかな♡」

「嘘つかないでよ。

 あたいには分かるのよ、天才だからね!

 あんた、魔法を使ったでしょ!」


 確かに、ミスティは魔法に関して天才的な感覚を持っている。

 彼女なら、認識改変の魔法を見抜くことができるだろう。


「その指輪…認識改変の魔法が込められてる。

 しかも、め〜っちゃ高度なやつをね。

 あたいじゃなかったら、見つけられなかったわね」

「あら♡ バレちゃったかな♡」


 無邪気に笑うその笑顔から悪びれる様子が全くと言っていいほど感じられなかった。


「でも…もう遅いかな♡

 タクヤは…完全にわたしのものかな」


 リリーが俺の腕にしがみつく。


「誰にも渡さないかな…絶対に♡」

「あんたさぁ…それ、犯罪よ。

 人の心を勝手に操るなんてね〜」


 そんな罪とかないだろ。

 

「犯罪?」


 リリーが首を傾げる。

 その仕草は可愛らしい。


「愛に…犯罪も合法もないかな♡

 タクヤを手に入れるためなら♡

 何をしてもいいかな♡」


 ミスティは対話にならないと思い、諦めモードになった。

 ただ、瞳だけは消えない炎が燃え盛っていた。


「師匠、目を覚ましてください!」


 レオナルドが慌てたように叫んでいた。

 その声は、焦りと恐怖で震えていた。


「何を言ってるんだ?」


 この弟子は、一体何を興奮しているのだろう。

 

 美女でもいたのだろうか?

 銅像の熱量がすごいのはわかってるが、いくらなんでもここでいうのは違うだろ。


「愛する人といちゃついて、何が悪いんだ」

「師匠、奥さんたちのことを忘れたんですか?」


 レオナルドの必死に訴えにも、俺には何を言っているかちんぷんかんぷんだ。


「ルナさん、エリカさん、クロエさん、オルテンシアさん、ユリエルさん!

 全員、師匠のことを愛してるんですよ!

 師匠も、みんなのことを愛してたじゃないですか!」


 その名前を聞いても、俺には何も響かない。

 誰のことを言っているのか、全く分からない。

 まるで、架空の人物の名前を聞かされているかのようだ。


「奥さん?

 今、目の前にいるじゃないか」


 俺はリリーを指差した。

 彼女こそが、俺の唯一の愛する人だ。

 他に誰がいるというのか。


「そうかな♡」


 リリーがレオナルドを見て、冷たく笑う。

 その笑顔には、純粋な悪意が込められていた。


「タクヤはわたしだけのもの…

 他の女のことなんて忘れて当然かな♡

 というか♡ 最初から存在しなかったも同然♡」


 リリーが俺の腕にさらにしがみついてくる。


「わたしたちは愛し合ってるんだから…邪魔しちゃダメかな。

 邪魔する人は…排除するかな♡」


 その言葉には、明確な殺意が込められていた。


 アリシアは、完全に絶望していた。

 彼女の顔は青ざめ、目は虚ろになっている。

 まるで、魂が抜けてしまったかのようだ。


「タクヤ…」


 その声は、か細く、震えていた。


「私たちの…キスは…

 魔力補給は…

 全部…忘れたんですか…」


 彼女の声が震えている。

 その震えは、悲しみと絶望で満ちていた。


「毎日…毎日…

 あなたにキスをして…

 あなたも…嬉しそうにしてくれて…」

「それが…全部…」


「ごめん、覚えてないんだ」


 申し訳ないが、そんな記憶は本当にない。


 というか、毎日キスされて嬉しいわけがないだろ。


 その言葉に、アリシアは完全に崩れ落ちた。


 がくっ。


 彼女が地面に座り込む。

 まるで、糸の切れた人形のように。


「そんな…

 私…毎日…あなたにキスをして…

 あなたから魔力を…補給して…」

「あなたを…愛して…」


 アリシアの目から、大量の涙が流れ出る。

 その涙は、まるで堰を切ったかのように、次々と頬を伝って落ちていく。


「それが…全部…

 無駄だったんですか…」

「いや…♡」


 リリーがアリシアを見下ろして、冷たく笑う。

 その笑顔は、勝者が敗者を見下ろすかのような、残酷な優越感に満ちていた。


「タクヤは、そんなことしてないかな。

 だって、タクヤが愛してるのはわたしだけ…

 他の女とキスなんてあるわけないかな」


 リリーが俺の顔を両手で挟む。


「ねえ、タクヤ♡

 タクヤがキスしたいのはわたしだけかな♡」

「ああ、君だけだ」


 その言葉に、嘘はなかった。

 本当に、心からそう思っている。


「きゃああああ♡♡♡

 言ってくれたかな♡ わたしだけって♡

 他の女じゃなくて♡ わたしだけ♡」


 彼女が俺の胸に飛び込んでくる。

 その勢いは凄まじく、俺の体がよろめくほどだ。


「タクヤ♡」


 リリーが俺の手を引く。

 その手は小さく、柔らかく、そして熱い。


 でも、その前に彼女は振り返って、仲間たちを睨んだ。

 その目は、明らかに殺意に満ちていた。

 まるで、邪魔者を排除しようとしているかのような、冷たく、残忍な目だ。


「邪魔する人は♡ 排除しないといけないかな♡」


 リリーの周囲に、魔力が集まり始める。

 危険だ。

 本気で殺す気だ。


 でも、俺にはそれが見えない。

 リリーの美しさと愛らしさしか目に入らなかった。


「早く帰って…わたしを愛するかな♡」


 リリーが俺の耳元で囁く。

 その息遣いが熱くて、俺の心を刺激する。


「二人だけになったら♡

 いっぱいいっぱい愛し合おうかな♡

 体も♡ 心も♡ 全部♡

 わたしに…捧げてほしいかな♡」


 彼女の猛烈なアピールには、さすがに心が躍ってしまう。

 据え膳食わぬは男の恥という言葉ある。

 受け入れなければ俺は後悔するだろう。


「ああ、そうしよう」


 この愛らしい恋人と、二人だけの特別な時間を過ごしたい。

 それが、今の俺の最大の願いだった。


「リリー♡」


 その名前を呼ぶだけで、リリーの身体が震えるのが可愛らしい。


「早く、二人だけになろう」

「そうかな♡」


 リリーが嬉しそうだが、その目には狂気に満ちた欲望が宿っていた。


「わたしたちだけの愛の巣で♡

 いっぱい愛し合おうかな♡

 そして…ずっとずっと♡ 一緒にいるかな♡

 朝も♡ 昼も♡ 夜も♡」


「二十四時間♡ 四百日♡ ずっと一緒♡」


 リリーが俺の手を引いて歩き始めた。

 俺たちは、愛し合う恋人として、どこか静かな場所に向かおう。



 ◇ ◇ ◇




 リリーが選んだのは、少し離れた森の中だった。

 人目につかない、完全にプライベートな空間。

 木々に囲まれた、誰にも邪魔されない場所。

 そこにある小さな小屋。


「ここなら…誰にも邪魔されないかな♡」


 リリーが俺を見上げて、危険なほど甘い笑顔を見せる。


「タクヤ…やっと二人きりかな♡」


 彼女の自制心が、完全に限界に達しているのが分かった。

 長年の願いがついに叶い、欲望が爆発寸前だった。


 


 ◇ ◇ ◇




 一方、拓也たちから離れた場所で、レオナルドとミスティ、アリシアは作戦会議を開いていた。

 というより、絶望的な状況を確認し合っていた。


「どうすればいいんでしょう…」


 レオナルドが頭を抱え、青ざめている。


「師匠が…完全におかしくなってしまった…」

「認識改変の魔法をかけられた魔具ね」


 ハルカのトラウマで弱気になっていた彼女だが、この危機にメスガキモードが完全に戻ってきていた。


「かなり高度な魔法だよ〜。

 簡単には解除できないと思うけどなぁ〜。

 指輪を外せば解除できるかもしれないけど♡」

「でも、師匠が抵抗しますよね…」

「師匠は、今完全にリリーを愛しています。

 僕たちが指輪を外そうとしたら、師匠は俺たちを敵だと認識するはずですよ」

「でも、何とかしなければなりません…」


 彼女の目には、まだ涙が残っている。

 でも、その目には諦めない意志が宿っていた。


「このままでは、タクヤが…

 あの子に…完全に奪われてしまいます…」


 三人は、拓也を救う方法を必死に考えていた。

 でも、認識改変の魔法は非常に複雑で、解除するには特別な知識が必要だった。


「それに…あの子、完全に理性が飛んでるじゃないの。

 今頃、あいつを襲ってるかもしれないねぇ〜」


 レオナルドとアリシアの顔が、さらに青ざめた。

 リリーの危険な欲望を考えると、拓也の身に何が起こっているか想像したくない。


「急がないと…」


 アリシアが立ち上がるが、その体は震えているが、決意に満ちていた。


「タクヤが…取り返しのつかないことに…」


 心を奪われた拓也を取り返そうと、覚えられている「仲間」が今、団結した。

 最強なメンツでも、リリーの狂気に勝てるかどうかはどうでも良かった。

 ただ、今は拓也を取り返そうだけ…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ