第91話 人形を拘束
オバケスロット、ミスト博士に続く、三体目の魔族が現れた。
その名も、『カースメイカー』。
会長を呪いでブタに変えた不届き者である。
「カースススッ!」
そして、その姿は人形。
協会のマスコットキャラ『マギー人形』そのものであった。
人形……。
そう聞くと、違和感を覚えてしまうのだが。
最初が、スロットマシン。次が、幼女らしき博士。
今更、人形が動いたところで、たいして驚きはしない。
「……ゴホッ」
副会長は不意を突かれて、右腕に傷を負ってしまった。
なんとか立ち上がり、人形を見下ろした。
「おまえが『カースメイカー』か。よくも会長を……」
「会長? ああ……」
人形は、会長を指さすと、見下すように言った。
「あそこにいる脂肪のことか?」
ブタが鳴きだした。
「ブヒヒヒッ! ブヒヒヒッ!」
「こら。会長。暴れちゃダメですよ」
メイドさんが、暴れる会長を、なんとか抑えつけている。
「会長を侮辱するな。あの方は、正義の心を持った優秀な方なのだ」
「……ふっ」
「何がおかしいっ!」
「哀れなものだな。魔術師協会とあろうものが、あんな肉の塊を庇い立てするとは」
副会長は、怒りに拳を震わせる。
そうして、左手を上に突き出した。
「ウィザード部隊よ! 前に出ろ!」
ローブを着た8人の男たちが現れ、人形を取り囲んだ。
「魔族め! 会長の屋敷に乗り込んでおいて、唯で済むとは思うなよ」
「……」
「この8人は、精鋭中の精鋭。多くの魔物と戦ってきた退魔のスペシャリスト。おまえなど、すぐに消し炭に変えてやる」
「……はははっ。面白い」
副会長が合図を出すと、8人が一斉に手をかざした。
「死ね! ≪セイントファイア≫!」
聖なる炎の魔法だ。
不死者、闇の魔物などに、絶大な効果を与える。
それを8人同時に撃ちだしたのだ。
その破壊力はオーバーキルと言っていい。
「……」
人形は無言で杖を振り上げると、静かに呪文を唱えた。
「……リフレクション!」
ブイイイイン! 人形の周りに、バリアが出現。
青色のバリア。それは相手の魔法を全て反射させてしまう。
バシン! 聖なる炎は跳ね返り、術者自身に襲い掛かる。
「ぐわああああっ!」
ウィザード部隊は、炎によって焼かれていく。
さらに、追撃とばかりに、人形が呪文を唱えた。
「≪アディショナル≫!」
≪アディショナル≫
難度 ★★★★★
属性 闇
使用回数 15/15
成功率 100%
説明 ダメージを与えた相手に、状態異常を付加する。相手の耐性を無視できる。
「……が……は」
彼らの肌に、黒いシミが浮き上がってきた。
あれは、毒だろうか。
炎に加えて、毒のダメージ。
下手すれば、命を落としかねない。
「もう終わりか?」
人形は、さらに魔法で追撃をかけようとしている。
「……ステラ。私が、彼らを回復するわ。あなたは……」
「……分かってる」
それに、もう仲間が、奴の元へ向かっている。
「シャドーエ……」
「……ん……」
魔法が発動する前に、ブラックが盾で殴りつけた。
続けて、もう一度、突進をしかける。
「シャドー」
「……ん……」
「……なんだこいつは」
今のうちだ。
私は『神速』を使用し、敵に接近する。
「邪魔なヤツだ……ふん!」
「……ん……」
彼は包丁で、ブラックにかすり傷を与えると、
「アディショナル!」
魔法により、麻痺を付加させた。
「どけっ!」
すかさず、彼女を遠くへ蹴り飛ばす。
「……よし」
いいぞ。あなたは、ちゃんと仕事をした。
次は私が……。
人形は杖を振り上げた。
「……リフレクション!」
ブイイイイイン! 人形はバリアに囲まれた。
赤いバリアは、物理を反射させる。
「……バカめ」
私はまだ攻撃してないぞ。
背後にいるブルーが、呪文を唱える。
「ウォーターカッター」
「……なにっ!」
スパンッ!
ブルーの魔法が、人形の右足を切り落とした。
「……ぐおおっ」
敵の体がぐらついた!
その隙に、私がグリーンに指示を送る。
「……影縫い!」
敵の影を撃ち抜く。
「……ぐ……あ」
このスキルの前では、敵は身動きが取れない。
魔法さえも、使用不可能になるのである。
「……やった」
これで、人形を拘束完了である。
☆
魔物というのは、何をしでかすか分かったものではない。
今までの戦いから得た教訓である。
そこで今回は、きっちり拘束しておくことにした。
ただ単純に倒すだけでは、心もとない。
どこぞの吸血鬼のように、復活させてしまう危険もあるからだ。
「さあ、会長を元に戻してもらいましょうか!」
人形は私の言葉を無視し、質問で返した。
「……おまえが、勇者ステラか?」
「そうだけど、だから、何?」
「……なるほどな……はあ……」
先ほどから気になっているのだが、こいつの息が荒い。
足からも緑色の血液を垂れ流しているのだ。
血液? 人形なのに?
「……もしかして、痛いのかな」
メアリが頭を叩いてきた。
「ステラ。あんたまさかっ!」
「違うよ。同情とかじゃなくて、なんで人形なのに痛いのかなって……」
だって、気になるだろう。
魔物が、すごく痛がってるのだ。
「目の付けどころが良いな」
人形は感嘆の声をあげた。
「痛みは、不要なものではない。脳からの危険信号なんだ。つまり、この痛みによって、遠くにいても、ダメージの程度が分かる。逃げるかどうかの判断もできるというわけだ」
「へえ」
要するに、あえて付けてるってことか?
本当は、消すこともできるのに。
「なんの話してるの?」
「人形の痛みについて」
「……そう」
いや、こんな話はどうでもよくて。
会長を元に戻してもらわないと。
「会長なら、私が致死ダメージを受ければ、自然と戻る」
「そうなの?」
親切な魔族だ。
では、こいつをすぐに痛めつけてやろう。
「だが、もちろん、そんなことはさせん」
「何言ってんの? 拘束されてるでしょ?」
「ああ。これか。すぐに解ける」
「……は?」
影縫いだぞ。
以前には、同じ魔族であるオバケスロットも拘束できたのだ。
こいつに効かない道理はないはずだが。
「あんなスロットの玩具と一緒にするな」
「玩具って……」
「今、見せてやる」
そう言うと、魔族はムムムっと力を入れた。
すると―ー。
「……ス、ステラ!」
「なに?」
「影を見て。影!」
だあっ! なんだと!
こいつの影が……なんと笑ってるではないか!
ニコニコと。面白おかしく。
さらに私に向かって、手まで振ってる。
ついには、変なポーズまで。
「ちょっ、どういうこと?」
「……ふっ。影を動かす。魔族なら、当然の技能だ」
「でも、オバスロは?」
「三下魔族と私を比べるんじゃないっ!」
オバスロさん、ディスられまくってるよ。
でも、まずい。
このままじゃ、拘束が解かれて……。
「……ふん」
魔族は、あっさりと動き出すと。
頭上まで杖を振り上げた。
「エクスプロージョン!」
すると――。
ドカーン!
人形の体が、弾けて吹き飛んでしまった。




