第89話 格闘家とアサシン
サモネアの町には、外というものがない。
部屋から部屋へは、転送陣で移動するのだそうだ。
さっそく、入ってみよう。
まずは武器屋から。
――ブイイイイイイイン!
「いらっしゃいませー」
「……おお」
ちゃんとした武器屋だ。
最初の部屋は、無人だったから心配していたが。
店内では、魔術師や私たちのような冒険者まで。
いろいろな人々が買い物に来ている。
活気に溢れてるな。
堅苦しいとか言って、ごめんなさい。
「……商品を見てみようか」
ガラスケースに並べられたものを眺めてみる。
名前:ブラッドナイフ
効果:体力を吸収
名前:ハヤブサの剣
効果:二回攻撃
特殊な効果の付いたものが多い。
しかも、どれもが強力な効果のものばかりだ。
やはり、魔法使いのお店だからだろうか。
「……おっ」
ブルーだ。
商品をまじまじと見ている。
「……珍しい」
彼女は、こういうところでは遠慮しがちなのだ。
好きなものを買えばいいのに。
「何? 欲しいものがあるなら、買ってあげるよ」
「いえ、私は……」
彼女は杖のコーナーを見ていたようだ。
タクトやロッドなど、長さや太さ。オーク材やウォールナットのような材質。
とにかく、色んな杖が並んでいる。
「そう言えば、ブルーって杖を装備しないよね。なんで?」
杖には、魔法をコントロールしやすくする効果があるのだが。
「手が塞がるのが、好きではなくて……」
「ふーん」
そういう人も、中にはいるな。
要は精神を集中できればいいので、自分に合ったやり方を見つけるべきだ。
「でも、本当は欲しかったり?」
彼女は首を横に振った。
「魔法書の方を見てきますね」
そう言って、ブルーは別の魔法陣へ。
「まあ、いいか」
次に行くとしよう。
☆
広場にやってきた。
「……ほお」
これまた凄い。
空が青々と広がり、太陽が眩しいほどに輝いているのだ。
当たり前のように聞こえるが、ここは室内。
しかも、天井はたいして高くないはずなのだ。
通りでは、街路樹が植えられており、中央には噴水もある。
もちろん、偽物ではなく実際に触れることもできる。
いったい、どうなってるんだ。
魔術の力って、すげー!
「おーい! みんな注目だ!」
噴水の側。
男が声を張り上げている。
上半身は裸で、下は黒いズボン。
それ以外の目立った装備はない。たぶん、格闘家だと思う。
「オレ『ヴァイケン』の攻撃を、受け止めきれた奴。そいつに素敵な景品をプレゼントしよう。さあ! 腕に覚えのある奴は前に出な!」
「……」
野次馬がざわざわとしているが、誰も前に出ようとしない。
当たり前だ。見るからに、強そうなのだ。
あの筋肉の付き方から言って、並みの鍛え方ではない。
加えて顔が厳つく、口元には切り傷まである。
出て行ったら、ボコボコにされる。
誰だって、そう思うはずだ。
隣のメアリが、私に声をかけた。
「あの人、ランキング五位の人よ」
「……五位!」
高すぎだろ。
いったい、メタスラを何匹狩れば、そんな順位を……。
「どうして、この町に」
「食事会に呼ばれたのは、ミリアだけじゃないわ。同時に複数人を招待してるの」
そうなのか。
やはり、ついて来て良かったかもしれない。
ミリアも格闘家と食事しても、嬉しくはないだろう。
どうせなら、知り合いと楽しくワイワイとやりたいものだ。
「おい! そこの勇者!」
「え? 私?」
「そうだ。暇なら、オレの相手をしていってくれ」
周りの観衆も、私に注目している。
指名されたなら、出ないわけにもいくまい。
「……やれやれ。それじゃあ、私の本気を見せるとしようか。流星でパパパッと」
「話を聞いてた? 攻撃を受けるのよ」
「……」
無理だよ。
あの筋肉だぞ?
そのとき、私を押しのけて、誰かが前に出てきた。
ブラックだ。
我がパーティーの盾職が、満を持して参戦するようだ。
しかし、敵は人間かも怪しい。
筋肉のお化けだぞ。
「……ん……」
「あなた、まさか……」
なんと、彼女は私の身代わりなってくれるというのか。
私のためなら、その身を投げ売ってもいいと。
「……素晴らしい!」
これこそ、仲間だ!
自己犠牲の精神だ!
「あなたの気持ちはよく分かったわ。大丈夫。骨は拾ってあげるからね」
「……ん……ん……」
あっ、違うんだ。
じゃあ、どうして出てきた?
「……ん……」
「あいつを見ろって?」
名前:重石のベルト
効果:移動しないと、全耐性↑↑
良い効果だが、使いにくそうだ。移動しないって……。
これが男の言う『素敵な景品』だろうか。
なんとなく盾職のアクセサリーのように見えるけど。
彼は格闘家だよな? なんであんなものを?
「……ん……」
「欲しいわけね」
なんだ。景品目当てか。
この娘は現金なところがあるからな。
ブルーにも見習わせてあげたい。
ヴァイケンとブラックは、向かい合って立った。
「ルールは分かったな?」
「……ん……」
まずは軽い小手調べ。
男はブラックに、蹴りの一撃をお見舞いする。
彼女の顔を蹴り抜くつもりのようだが……。
盾で、がっちりとガード!
「ふん……」
続いて足を振り上げ、踵落としを繰り出した。
脳天を目がけた頭上からの蹴り技。
盾では受けにくい攻撃だが。
「……ん……」
これも難なくガード! 手慣れたものである。
今度は後ろにさがり。
「はああっ!」
飛び蹴りをしかけるが、これも防御。
盾を引きながら、上手に衝撃を押し殺している。
ヴァイケンは、笑みをこぼした。
「……勇者の仲間か。予想以上だな」
まあ、ドラゴンとも真っ向から戦っているので。
我がパーティー『エレメンタルクラウン』の盾を甘く見ない方がいい。
「だったら、最後は本気だ」
そう言うと、男は両足でステップを踏み出した。
「この一撃が、おまえに受けられるかな」
相手の自信を持った攻撃。
それは感じからして、スキルのようだが。
「……行くぜ! 必殺!」
彼の利き腕が緑色の光を帯びた。
それを後ろに引くと、
「≪ストームブロウ≫!」
≪ストームブロウ≫
難度 ★★★★★★
属性 風
使用回数 15/15
成功率 100%
説明 嵐のような一撃。相手の能力アップを消し飛ばすことができる。
竜巻のごとき一撃が、ブラックに……。
――ガッシャーン!
「……ごぼほっ」
当たる直前、男の方が吹き飛ばされた。
「……ん……」
見ると、ブラックがハンマーを持っている。
どうやら、無防備だった顔面へカウンターをぶち込んだようだ。
「あの。ブラック……」
ルールでは、あなたが殴っちゃいけないんじゃ……。
「……ん……」
「何? 痛そうだから、受けたくなかった?」
「……ん……」
そうか。それなら、仕方がない……のか?
「……」
起き上がってこない。
かなり、油断してたんだろう。
「すみません。ヴァイケンさん。失礼します」
私とブラックは、その場から退散した。
☆
「ステラちゃん。見てみて。『マギードール』」
とても頭が大きく、目玉も負けないぐらい大きい。
魔法使いの格好をしていて、手には杖を持っている。
ピンクは『可愛いでしょう~』と言いたげだが、別にかわいくない。
夜に見ると、ちょっと不気味かもしれない。
「こうやって、お腹を押すとね」
「『マギー! マギー!』」
「って、鳴くんだよ」
「そう」
まるで、モンスターのような声だったけど。
「ところで、これなんなの? 他のお店にも置いてあったけど」
「魔術師協会のマスコットなんだって」
「へえ」
町中の至るところに配置してあった。
間違えて、踏みつけそうになったぐらいだ。
もう、顔なじみである。
マギーくん。男の子らしい。
なんでも会長がデザインしたものらしく、彼女のお気に入りなんだとか。
ふーむ。会長のセンスって……。
ピンクはいくつも持ってるけど、これ買ってきたんだろうか。
「あそこの人が配ってるんだよ」
「へえ……って、え?」
何あの人?
頭に、ガスマスクみたいなものを被ってるんだけど。
「シュコー! シュコー!」
シュコシュコ言ってるんだけど。
あの人、何者?
メアリが答えてくれた。
「あれは……ランキング4位の『キョウ』ね」
「4位!」
今度は4位だと!?
いったい、どれだけのメタスラを狩ったんだ。
「いや……」
動きやすそうな黒い装束を着ている。
おそらく、あれはアサシンだろう。
たしか、敵を暗殺するのが得意な闇の職業だったか。
勇者とは対極に位置すると言っていい。
「シュコー! シュコー!」
どう見ても、ヤバい雰囲気を放っている。
関わり合いにならない方が、いいだろう。
そう思っていると、グリーンがやってきた。
「やっほー」
――バシッ!
アサシンの背中を叩いた。
子供でも逃げ出すような姿なのに。
「……シュコッ」
しかも、痛そう。
手加減なしの痛恨の一撃を浴びせている。
「……あのバカ」
なんてことを。殺されてしまうぞ。
相手はアサシンなんだぞ。
「ねーねー。何してるのー?」
「シュコー!」
「そっかー。バイトしてるんだー」
「シュコー!」
「アサシンはお金かかるんだー。大変だねー」
会話が成立している。
どういうことだ?
シュコシュコ言ってるだけだろ?
「趣味は何ー?」
「シュコー」
「アイテム作りー。面白そうー」
しかも、会話が弾んでないか。
アサシンも楽しそうに見えるぞ。
「キョウ。今度、遊びに行こうー」
「シュコー!」
「グリーンでいいよー」
「シュコー」
「決まりだねー」
なんか、一緒に遊ぶようだ。
ものの十分ほどで、もう友人関係に。
グリーンさん、すげー!




