第88話 サモネアの町
「……全員、連れて行けない……だと!」
みんなで楽しく食事ができると思ってたのに。
ローザ様。どういうことなの?
「仕方ないよ。女神だって、なんでもできるわけじゃないんだから」
「いや、できるよ。ローザ様だよ。私たちの女神だよ」
「ステラちゃん。無茶苦茶だよ」
レッドが、椅子に座った。
「じゃあ、今回は、あたしがパスするよ」
「え? 来ないの? 食事会だよ」
相手は会長。偉い人だ。
きっと、豪勢な料理を用意しているに違いない。
「旨い飯は食いたいけど、食事会だろ? 堅苦しい空気がするぜ」
私もテーブルマナーとか言われるのはイヤだけど。
「わー。ご飯だー。楽しみー」
この娘が行くんだよ。
何をしても、大丈夫だと思うよ。
「……ん……」
「ブラックは来てくれるの?」
「……ん……」
あとは、ピンクは連れて行かないといけない。
ミリアの世話をさせないとならないから。
「じゃあ、以上で」
「あの。私は……」
「ブルーは参加します。強制です」
魔法使いの巣窟みたいなところなのだ。
ブルーがいてくれた方が、私が助かる。
今回のメンバー……。
メインメンバー:ステラ ブルー グリーン ブラック ピンク (ミリア)
控え :レッド
こんな組み合わせになった。
というか、レッドだけ抜き。
まあ、戦いに行くわけではないし、メンバーはなんでもいいけど。
というわけで、私たちはギルドの裏手までやってきた。
賢者様にも軽く挨拶しておき、奥の部屋に向かう。
「……さて」
部屋の中央には、魔法陣が描かれている。
直径約2メートルほどの円陣であり、その線は図太くて黒い。
その隣には装置がある。
鉄の箱。こちらは一メートルほどだろうか。
そして、そこから数色の配線が伸びている。
これがごちゃごちゃとしていて、非常にうっとおしい。
「……うーん」
以前にも、使用した『転送陣』なのだが。
まずは起動させて、目的地の設定をする必要がある。
「ブルー。お願い」
「はい」
ブルーは鉄の箱に付いたダイヤルを回し、いくつかのボタンを押していく。
カチャカチャっと。
彼女は簡単そうにやっているが、実はこれがけっこう難しい。
普通の人だと、ちんぷんかんぷんだろう。
私は先生に教わったので、やればできるけど。それでも面倒なことに変わりはない。
装置が揺れ始めると、魔方陣がうっすらと光り出した。
「……終わりました」
さすが、ブルーだ。
目的地を選ぼう。
「……えっと……登録地点は」
一つ目は、コダールの村。
私たちが最初に転送陣で飛んだところだ。
二つ目は、転職の神殿。
先日にも、たずねたところだ。
そして、三つ目。サモネア。
今回のために、賢者様に登録してもらった地点だ。
「魔法使いの町なんだっけ?」
「はい。人口の九割が魔術で生計を立てているそうです」
なんだか、堅苦しそうな町だ。
全員が眼鏡をかけて、インテリを気取ってるのかな。
「早く行こうよー」
グリーンも急かしてくるし、さっさと出発するか。
「みんな。魔方陣の中に入って」
私が手招きすると、グリーン、ブラック、ブルー、ピンクと順番に乗って行く。
「ほら。ミリアちゃんも。早く」
「……うぅ」
ピンクの伸ばした手を、おずおずと掴む。
「お姉さま~」
「ほら。大丈夫だよ」
ミリアは、一人では転送陣に乗れないようだ。
ピンクに手を握ってもらわないと、恐怖で足がすくんでしまうのだとか。
「……かわいい」
涙目になりながら、ピンクの体にすがりついている。
初々しくていいじゃないか。
「ステラちゃんも同じでしょ」
「え?」
「初めてコダール村に行ったときは、大騒ぎしてたじゃない!」
「……そんなこと、あったかな」
「いえ。私も見ましたが」
「ブルーちゃんも覚えてるって」
「……くっ」
でも、今は私も余裕なのだ。
そんなわけで、ミリアをからかってみる。
「ほーら。ミリア。ステラお姉ちゃんの手だよ~。握ってもいいよ~」
「えいっ!」
――バチン!
強めに叩かれた。
「気持ち悪いです。変態の目です」
「……ひ、酷い」
やはり私よりも、ピンクの方が良いというのか。
「ボタンを押しますが」
「うん。いいよ。押して」
「はい。それでは……」
ブイイイイイイイン!
☆
目的地に到着。
「……あれ?」
部屋だ。
それはいいのだが。
天井も壁も白く塗られている。
物が一つもない殺風景な部屋。
そればかりか、扉も窓も見当たらない。
完全な密室なんだけど。
「……どういうこと?」
まさか、転送事故?
私はまだお目にかかったことはないが、稀によくあるそうだし。
「ねえ。ブルー……」
「……」
ブルーが黙り込んでしまった。
止めて欲しい。怖くなってしまうだろう。
「……ぷっ」
誰かの声が聞こえたので、私は振り返った。
「ははははっ。ステラの顔、面白い~」
「……メアリ」
私の姉弟子で、聖女をやってる娘だ。
「事故だと思ったのよね? 安心して、ここはサモネアよ」
ちゃんと目的地には辿り着けているようだ。
しかし、何故こんな殺風景な部屋に?
「どうやったら、出られるの?」
「出られないわよ」
「え?」
「このサモネアの町はね。外がないの。町の全てが、こんな部屋ばっかりでできてるの」
前に行った『クレストの町』みたいなものだろうか。
あそこも、テーマパークしか存在しなかった。
「私は会長に招待されてるんだけど」
「知ってるわ。私が案内役を頼まれてるんだもの」
「じゃあ、お屋敷に連れてってよ」
「こっちよ。ついてきて」
彼女の案内で、部屋の奥までやってくる。
すると、そこには魔法陣が。
それぞれ模様が違う。
『剣』、『盾』、『ポーション』の絵が描かれている。
「この町は転送陣を使って移動するのよ」
つまり、『武器屋』、『防具屋』、『アイテム屋』に行けるということか。
「装置は?」
「部屋の隅にあるわ。邪魔にならないようにね」
「へえ」
こんな町もあるのか。
まだまだ、知らないことばかりだな。
「まだ時間もあるし、町でも廻ってみる?」
「そうだね。せっかく来たんだし」
では、転送陣に入ってみるとしよう。




