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第79話 小さな侵略者


「……やってしまった」


 前代未聞!

 なんと家の中に、モンスターが侵入してしまったのだ。


 小さな侵略者と呼ぶべきか。

 そいつはミリアの部屋に入り込み、ベッドの下で彼女が就寝するのを待ち構えていたのだ。


 理由? そんなものは、推して知るべし。

 あんなことや、こんなこと。口にするのもおぞましい行為をするためである。


「変態野郎め! 許せん!」


 ともかく、なんとしても夜中のうちに、モンスターを倒さないといけない。


 夜が明けてしまえば、町中に一気に人が増えてしまう。

 選択を誤ると、大騒動に発展する危険性もある。


 念のために、保険をかけておこう。


「ピンク。あなたに頼みたいことがあるんだけど」

「なに、ステラちゃん。あらたまって」

「賢者様に、このことを知らせてほしいの。魔物の名前を言ってあげれば、伝わると思うから」

「うん。いいよ」


 これでよし。

 先生に言っておけば、少なくとも町の外には広がらないだろう。


 私はミリアの部屋を出て、リビングに向かった。

 どうやら、魔物はそこに逃げ込んだようなのだ。


「……あいつ、どこに行った」


 テーブルでは、レッドが眠りこけていた。

 何故、自分の部屋に行かないんだ。そんなところで寝ちゃダメだぞ。


「レッド。起きて!」

「……ふぇ」


 彼女は目をこすりながら、答えた。


「……なんだ。朝飯の時間か?」

「まだ夜の11時だよ」

「……そうか。じゃあ、お休み」

「ダメだよ。ベッドで眠って。風邪を引くからさ」


 肩を揺すっていると、レッドが面倒くさそうに答えた。


「風呂に入ってから寝ようと思って」

「そう」

「でも、ブルーの奴、風呂が長くてさ。なかなか出て来ねーんだよ。それで待ってたら、ウトウトしてきて」


 そういや、ピンクも似たようなこと言ってたな。

 ブルーは長風呂。レッドは短め。私はその中間ぐらい。


「じゃあ、あなたが最初に入ったら?」

「ジャンケンで負けたんだよ」


 お風呂の順番って、ジャンケンで決めてたの?


「あたし、運悪いかもしれねえ」

「そう。でも、そこで寝るのはよくないよ」


 あっ、レッドと話してる場合じゃなかった。


「モンスターを見なかった?」 

「は?」

「ネズミみたいに、ちっこい奴なんだけど」

「言ってる意味が分かんねーんだけど」


 そりゃそうか。

 ここは家の中。普通に考えたら、おかしい。


「ねーねー。ステラ。鍋のところー」


 グリーンが見つけたようだ。

 キッチンの周りを徘徊している。


「よーし。やるねー」

「待って! あいつに攻撃しちゃダメ!」

「なんでー?」


 リトルサモナーは、ある習性を持っているのだ。

 それは『強い刺激を受けると召喚する』というもの。


 つまり、何もしなければ、召喚はしてこない。

 半端な攻撃は、逆効果になってしまう。


「やるなら、ギリギリまで近づいて、影を刺して」


 魔物は、鍋に近づいている。

 あそこには、まだ残ったカレーがあるのだが。


「ケケケッ!」


 鍋を温めなおしている。

 そして、お皿を用意し、そこにカレーをよそっているようだ。


「ケケケーケ」


 食べている。

 スプーンを手に持って、カレーを口に運んでいる。


「ケケ、ケケ」


 お腹が空いてたのか?

 我が家のカレーに興味を持ってしまったのか?


 とにかく、今がチャンス。魔物に接近していく。

 だがしかし――。


「ケケーケケー!」


 突如として、苦しみ出したのだ。

 喉を抑えて、もがき始めるリトルサモナー。


 手をバタつかせながら、何かを掴もうとしている。

 求めているのは、なんだ? 水か?


「そうか。辛かったんだな」


 我が家のカレーは、香辛料が多めのピり辛風味。

 食べ慣れてないと、きつかったかも。


「あっ、杖を持った。大変だ」


 カレーの辛さも、強い刺激のうちに入るのか。


「ケケーケ!」


 ボフっと音がして、モンスターが現れた。

 二本の角に、赤い肌。大きな図体をした鬼のモンスター。


「オーガだ……って、いや」


 ここはキッチンなんだけど。

 こんなバカでかい奴を召喚されたら、屋根が抜けちゃうんだけど。


 オーガは立ち上がった。ズゴオオッ!

 すっごい。高いな。大きいな。


「ぎゃああっ! やめてえっ! 借家なんだ! 壊れたら、弁償なんだよ!」


 なんて叫んだところで、聞いてはもらえない。

 モンスターは腕を振り上げた。ドゴオン!


「ほげえっ!」


 私は何も見てない。これは夢だ。幻だ。

 さあて、カレーをお代わりしようかな~(現実逃避)。


 レッドがわくわくしながら、話しかけてきた。


「モンスターがいるじゃねーか」

「うん。いるね」

「倒していいか?」

「やっちゃっていいよ。あと、天井を弁償させて」

「おう」


 リトルサモナーが、何食わぬ顔で逃げていく。

 追いかけないと。


 ☆


 私はキッチンを出て、洗面所に向かった。

 モンスターがここに入って行くのを見たからだ。


「……いったい、こんなところへ何をしに」


 私は背を屈めながら、脱衣所の辺りを散策していく。


 すると、誰かの声が耳に入ってきた。


「……なんだろう」


 どうやら、お風呂の中からのようだ。


「……キラキラな海と風~♪」


 歌だろうか。


「……輝くアトリウム~♪」


 澄んだ声で、耳心地はいいけれど。


「ほんとはもっと~優しい気持ちを~♪」


 熱唱しちゃってるな。心がこもってるのが伝わってくる。

 誰が歌ってるんだろう。


 ――ガラガラ!


 扉を開けてみる。

 湯船に入ってる娘が、その音に反応した。


「……えっと……」


 言葉に詰まってしまう。


 あれ? レッドも言ってたけど。

 お風呂に入ってたのって……。


「ブルー……」


 彼女は私の方を見ると、ほてった肌を更に赤くした。


「……あ」


 タオルで顔を隠して、恥ずかしさをごまかそうとしている。


 そして、先ほどの美声はどこへやら。

 かぼそい声で言い訳をしはじめた。


「……あ……あの……違うんです……これは」


 何が違うんだろう。


「いいよ。大丈夫だよ。お風呂で歌うの気持ちいいもんね」


 体がリラックスしてるせいか、良い声が出せるのだ。

 その音も壁に反響して、面白いぐらい響いてくれる。


「……ちが……その」


 そっとしておいてあげよう。


「ゆっくり入っててね」


 レッドには、私から上手く言っておくとして……。

 あっ、違う。そうじゃない。用事があったんだった。


「ごめん。ブルー。モンスターを……」


 と思ったら、湯船に浮かんでるのを発見。

 まさか、ミリアだけでなく、ブルーのことも狙っていたのか?


「……ゴポ……ゴポ」


 溺れてる!

 もはや、事故死寸前。私が手を下すまでもないんだが。


「ケーケケ!」


 ボフっと音がして、モンスターが出現。


「クエ――!」


 黄色の毛並みをした鳥のモンスター。


「クエー鳥……って、いや」


 またなのか。でかすぎる。

 あんまり大きすぎて、ブルーの顔が見えなくなっちゃってるよ。


「クエ――!」


 魔物は鳴きながら、両翼を広げた。ドゴオン!


「うわああっ!」


 天井、というより、お風呂場がぶっ壊れてしまった。


「ほんとに悪いんだけどさ。ブルー」

「……はい。私が倒しておきます」


 どこにいるかも分からないブルーに、別れを告げて。

 私はリトルサモナーを追いかけていく。


 今度はあいつ、どこを壊すつもりなんだ。




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