第69話 森の奥へ
只今、マイコニドと戦闘中。
キノコ型のモンスターだが、外見は8割ぐらい人間の姿だ。
名前は『マイ』というらしい。
「まずは弱そうな奴から狙う。戦闘の鉄則だ」
マイはワープを駆使して、後衛にいたピンクの元へ移動。
彼女に掴みかかった。
「死ねえっ!」
「きゃああっ!」
危うしピンク!
いったい、どうするの?
「……う……ウルトラアップ!」
――ブックン!
ピンクのスキル発動。
その体は風船のように膨らみ、数メートルを超える巨体へと姿を変えた。
「……は、はあ!?」
マイは驚きのあまり、尻餅を付いた。
無理もない。マジでブクブクなのだ。超ブクブクなのだ。
「なんだこいつは。どこから出てきた」
召喚獣とでも思ったのか。
あいにく、私たちの中で召喚術ができるものはいない。
「ピンクだよ。あなたが襲おうとしていた」
「なに? さっきのみだらな女だと?」
もう一度、まじまじと見てみる。
「……言われてみれば、みだらな服を着ている。今では、ただの布切れだが……」
「きゃあああっ! 恥ずかしいよう! 見ないでえ!」
いや、無理だって。
目立ってるから。
「だが、その化け物の姿では……」
「化け物じゃないよう!」
「トラップを避けられまい。こうしてやる」
マイは足を引っかけると、ピンクを後ろへ転ばせた。
「……うにゃあ!」
―――カチ! カチ! カチ! カチ!
ごろんと横になってしまったピンク。
そのせいで、同時に四つもトラップを踏んでしまった。
「毒、麻痺、盲目、火傷だ。これだけのものを一度に喰らえば、酷いことになるぞ」
「……いやあ」
「もう遅い。さあ、やられてしまえ! みだらな女よ!」
マイは、ビシッと指をさした。
だが――。
「……」
「うわあん!」
「……おかしいな」
何も起きないのだ。
「何故、発動しない。トラップの故障か?」
マイはキノコの罠を調べてみるが、どこにもおかしなところはない。
「何故なんだ!?」
ここでピンクの能力について補足しておこう。
彼女のスキル『ウルトラアップ』には、ある隠された効果があるのだ。
それは『発動している間、状態異常の効かない無敵モードなれる』こと。
だから、ブクブク中のピンクには、マイのトラップが効いていないのだ。
「きゃっち!」
ボヤっとしているマイを捕獲し、頭上まで持ち上げた。
「だあっ、こら! 何をする。離せ!」
「てええいいっ!」
ジタバタしているマイを、遠くまで放り投げた。
――ドシャア!
「……いたた」
「おっ、あたしのところに落ちてきたな」
レッドが剣を突きつけた。
「……くっ。早くワープキノコの上に行かないと」
「影縫いー」
グリーンの矢が影に刺さって、マイの動きが止まる。
「……ぐおっ、体が動かん」
「でかしたグリーン! あとは、あたしがやるぜ! はあああっ!」
「わあっ! や、やめ」
「炎月斬り!」
炎を纏った剣で、バサッと切った。
「ぎゃああああっ!」
決着! マイコニドに勝利!
「倒さねーのか?」
「待って。彼女、気になることを言ってたでしょ? 話を聞こうよ」
マイの服は、ボロボロになっている。
胸元を隠しながら、私を睨みつけた。
「……くっ! 殺せ!」
「いや、そういうお約束は要らないから。この先に何があるの?」
マイは、顔をそむけた。
「おまえたちには、死んでも教えん」
「じゃあ、勝手に行くけど。あなたを倒したあとで」
「……くっ! やっぱり殺さないで!」
「ダメなんじゃん」
そのとき、どこかから声が響いた。
『マイ。もうよい』
直接、頭の中に話しかけてきている。
念話のようだが、私たちにもしっかりと聞こえている。
『通してやれ』
それを聞くと、マイはひどくうろたえた。
「何を言うのですか。それでは私がお守りする意味が」
『その者たちから、闇の力は感じられない』
「え? それはどういう」
『別の者だということだ』
マイは、私の顔を何度も見返している。
状況はよく分からないが、人違いだったらしい。
「失礼した。森の奥へ案内する。ついてきてくれ」
☆
「なあ。あたしたち、どこに向かってるんだ」
「ずいぶんと奥まで向かってるね」
似たような道を行ったり来たり。
一向に着く気配がないので、少し面倒くさくなっている。
「おまえたち、結界を抜けてきたんじゃないのか?」
「その結界って言うのが、よく分からないんだけど」
「迷うように、わざと複雑な道順にしているんだ。結界を使ってな」
聞いたことがあるな。
本当は一本道でも、空間を捻じ曲げてわざと広く見せる。
ダンジョンの仕掛けにもあるタイプだ。
「そんなものなかったよね」
「あったんだ。森のキノコたちの力を借りてな」
「キノコなら食べたぞ」
「……なん……だと!?」
どうやら、最初に食べたキノコが関係していたようだ。
レッドの勘は正しかったってことか。
「おまえら、ほんとに食べたのか? あれは私の同胞なんだ」
「でも、おいしかったよー」
「食用なら別にあるんだよ。同胞を食べないでくれ」
やっと行き止まりになり、マイが立ち止まった。
「ここが目的地だ」
「なんだ。洞窟かよ。つまんねえな」
「中が重要なんじゃないの?」
まあ、とにかく、奥に進んでいく。
「すっごく明るいね」
ピンクが驚くように、中は眩しいぐらいの明るさ。
その秘密は、どうやらキノコにあるようだ。
「壁にキノコが生えているだろ? それは『アカリダケ』と言ってな。暗闇を照らしてくれるんだ」
へえ。この白いキノコ。アカリダケって言うんだ……。
「って、アカリダケ! クエストで依頼された食材じゃん!」
見つけちゃったよ。すごく簡単に。
「なんだ。こんなものが欲しかったのか? 食用だからいくらでも採っていっていいぞ」
「ほんと?」
「ああ。放っておけば、勝手に生えてくる。増えすぎて、邪魔なぐらいだ」
そうなの? じゃあ、遠慮なくもらって帰ろう。
ついでに、試食もしようか。
ジャンっと、バーベキューセットを用意して……。
――チン!
「……はふはふ。うめえ」
「わーい。おいしいー」
「ほんと。食感がモチモチしてる」
どれ、私も一つ。
「もぐもぐ……ところで、マイは誰と話してたの?」
さっきから、気になっていたのだ。
男性のような低音ボイスで、偉そうなもの言いをしていた。
「エリュシオン様だ」
どこかで聞いたような名前だな。
なんだっけ? たしか、ミリアから聞いたような……。
「……勇者の秘密基地」
勇者戦線とも、呼ぶんだったか。
ドラギドも言ってたし、重要なものなんだろうけど。
「知ってたのか。そうだ。エリュシオン様は、勇者の活躍した英雄時代、基地として働いていたのだ」
「基地として……働く?」
城みたいな?
船ってこともあるかな。
「会えば、すぐに分かる」
そうしていると、マイが立ち止まった。
「着いたぞ。この先に、エリュシオン様がいる」
進んでみよう。




