第68話 マッシュトラッパー
マイコニド。
キノコ型のモンスター。
そいつのドロップアイテムが、今回のクエストに必要なのだが……。
「ここから先に行かせるわけにはいかない」
予想よりも人間の姿をしていたのだ。
ついでに言葉も、私たちと大差ない。
「このマイの命に代えても!」
あと、とても怒っていた。
武器を構えて、今にも襲いかからんとしている。
何故だ!?
「教えてピンク」
「私に聞くの? 分かんないよ」
「だよね」
私たちは食堂のおじさんの話を聞いて、キノコを採りに来ただけなのだ。
なのに、いきなり攻撃されている。
いや、相手はモンスターだし、それが普通ではあるけど。
「行くぞ!」
「ちょ、ちょっと待て!」
「……なんだ」
どうやら、何か行き違いがあるようだ。
まったく、話が嚙み合っていない。
結界がどうだとか言ってるし、彼女は何かを守ってるようなんだけど。
「いや……」
ここは平和的な解決をすべきだよね。
私は勇者なんだし。
「話合いをしよう」
「おまえと話し合うことなどない」
「まあ、そう言わずに」
マイは構えを解いた。
よし。話はちゃんと聞いてくれるタイプのようだ。
「……わかった。聞いてやる。言ってみろ」
「私たちは、先に進む気なんてないんだよ」
「なに? それなら、この森に何をしにきた」
ここは大事な部分だ。
できるだけ、波風を立てないような答えを考えて―ー。
「あたしたちは、おまえを食べに来たんだ」
レッドが胸を張って言った。
「私を食べに……」
「そうさ。マイコニドを食べに森までやってきたんだ」
それを聞くと、マイの拳がプルプルと震えた。
当然だろう。自分が食べられると知ったら、誰でも怒る。
「……変態」
マイが裏返った声で言った。
「私を食べたいなんて……変態! ド変態! 鬼畜! 色情魔!」
「……ええ」
そっちなの?
「さっきも森でキノコを食べたんだよー」
「……なっ。食べただと」
「甘くて、おいしかったよー」
「……くっ。すでに同胞が辱めを」
再び武器を構えて、私を睨んだ。
「変態どもめ! 許してはおけん! ここで成敗してくれる!」
あわわ。さっきよりも怒っている。
これじゃあ、逆効果だ。
「いいじゃねーか。どっちみち倒すんだ。変わんねーよ」
レッドが機嫌良さそうに、腹を撫でた。
「腹ごなしには、ちょうどいい相手だぜ」
そう舐めない方がいいと思うが。
私たち四人相手に、一人で前に出てきたのだ。
たぶん、それなりの策は用意してるのだろう。
「おまえたちを先には進ませない。いや、そこから一歩すら進ませない」
「おもしれーこと言うな。じゃあ、進んでやるぜ」
レッドは前に出た。
――カチッ!
「何故なら、罠を仕掛けてるから」
「……ど……どおお」
レッドの足元には、何かがある。
あれは……キノコか。
直径50センチほどのキノコが、彼女の動きを止めてしまった。
「マッシュトラッパー」
≪マッシュトラッパー≫
難度 ★★★★★
属性 地
使用回数 ∞
成功率 100%
説明 キノコ型のトラップを設置する。キノコの色によって、罠の種類が変化。
「黄色のキノコは、痺れキノコだ」
と、マイが説明してくれたように、レッドの体にビリっと電撃が走る。
「……うぐぐ……ぬう」
痺れて動けなくなってる。
思いっきり、トラップにかかってしまっているな。
「状態異常か。それなら……ピンク!」
「リカバー」
ピンクの魔法で、レッドの体が淡く包まれる。
彼女の職業は『踊り子』なので、そこまで回復力はないが。
麻痺程度なら、簡単に治癒ができる。
「……よし。これなら……」
その場で手足を動かして確認。
きちんと回復できたようだ。
「ピンク。ありがとな」
「うん」
「これで向こうへ進めるぜ……」
――カチッ!
「罠が一つとは言ってない」
「……だ……だおお」
また、青いキノコの罠を踏んでる。
レッド、ダメだな。
「次は、私が行こう!」
「無駄だ。この森には私のトラップが幾重にも張り巡らされている」
そう言って、トンと足踏みすると――。
ゴゴゴゴッ! と森全体が揺れ。
「キノコだー。キノコが生えてきたー」
地面を覆うほどビッシリと。
赤、青、黄……と、カラフルに並んでいる。
「……こんなにあるのか」
予想より多い。
文字通り、足の踏み場もないと言った感じだ。
「何人たりとも、この先には進ません!」
口だけではないようだ。
本当に、一歩すら踏み出すことができない。
「でも……」
だったら、地面を踏まなきゃいいだけの話だ。
私はその場にしゃがむと、足に力を込める。
いつもより、少し長めに溜めて……。
「ジャンプ!」
スキルを発動。
高跳びの要領で、マイのところまで飛び跳ねた。
「……な、なに!?」
「はあああっ!」
空中からのジャンプ切り。
キィン!
マイはガード。針を逆手に持った構えで、私の剣をはじき返した。
さっきも投げてたし、この針が彼女のメイン武器か。
「ブレイブラッシュ!」
「……ふん!」
体を逸らして、攻撃を回避される。
けっこう戦い慣れてるな。
「グリーン」
「アローレイン!」
矢の雨が私とマイに降り注ぐ。
これで仕留めるには威力が足りないが、攪乱はできる。
「ブレイブラッシュ!」
「……ちくっ」
再び攻撃することで態勢を崩した。
「今だ。隙あり!」
――ムニュッ!
「……へ?」
なんだ。何か柔らかいものが。
これは……。
「キノコだ。私の剣の刃から、キノコが生えている」
それが邪魔して、マイを切ることができない。
いったい、いつの間に。
「針に菌を仕込んでいたのだ。攻撃を当てることで、キノコが生える仕組みになっている」
やられた。最初に私を襲ったのは、これが狙いか。
キノコはすぐに処理できるけど……。
「今度はこちらの番だ! 隙あり!」
「やっぱり! うわああっ!」
マイは私の体を後ろに押した。
――カチ! プシュウウウ!
「灰色キノコの罠だ。相手を盲目にできる」
「……コホコホッテ! ケホケホッ!」
うーん。目がかすむ。
これはウザい。
「えいっ!」
――スカッ!
外れた。
「更に、マッシュトラッパーにはこういう使い方もある」
彼女は自分から後ろにさがり、罠を踏んだ。
――カチッ! シュイン!
すると突然、マイが姿を消してしまった。
「ここだ!」
南の方角から、声が響いた。
見ると、彼女が。瞬間移動をしたのか?
「白いキノコの罠だ。ワープすることができる」
マイの側には、ピンクが立っている。
次の狙いは、彼女ということか。
リカバーで回復もしてたし、少し目立ちすぎたのかも。
「パーティーの中で一番弱そうな奴から仕留める。戦闘の鉄則だ」
マイはピンクに両手で掴みかかった。
「さあ、息の根を止めてやる。みだらな恰好をした女め! 肌を出し過ぎなんだよ!」
ああ。気になってたのか。あの衣装、エロいからな。
でも、ピンクは踊り子で、それが正装だから。
冒険者のルールだから。
「死ねえっ!」
「きゃあああっ!」
ピンクがやられそうだ。
どうする?




