第65話 美食クエスト
ギルマスに、クエスト達成の報告に来た。
「そうか。魔族が聖女を追っていたのか」
「はい。私が救助に行かなければ、危ないところだったようです」
「魔族はどうしたんだ?」
「きっちりと仕留めました。魔法で消し飛ばしてやりましたよ」
「消したのか?」
「ええ。勇者として当然ですよ。相手は魔族なので」
メアリも『よくやったわ!』と褒めてくれた。
にこやかになって、その場をぴょんぴょんと跳ねまわっていた。
相当、参ってたようだからな。オバケスロットに追い回されて。
「情報を聞き出さなくてよかったのか?」
「……あっ」
「まあ、聖女が何も言わないなら、不要なんだろう。ともかくご苦労だった。俺の方からも報酬を出しておこう」
「ありがとうございます」
ギルマスは、時計を確認している。
「そろそろ、正午か」
「ギルマス、お昼まだなんですか?」
「ああ。これからだ」
「それなら……」
私は鞄から、お弁当を取り出した。
「はい。どうぞ」
「なんだこれは」
「お弁当を作って来たんです~」
「弁当?」
「はい~。ギルマスのために作りました~。私の真心がいっぱいに詰まったお弁当なんです~。食べてみてください~」
「うむ。いただこう」
ギルマスは包みを解いて、弁当箱の蓋を開けた。
「これは……」
ギルマスは、蓋を持ったまま、私にたずねた。
「コロッケじゃないか。俺の好物なんだ」
「はい~」
「どうして、知ってるんだ」
「そのぐらい当然ですよ~。一緒に仕事して長いじゃないですか~」
「怖いな……まあ、食べてみるとするか」
コロッケを口に入れると、ゆっくりと咀嚼した。
そして、ゴクリと呑み込む。
「うまい。衣の中に、ジャガイモと牛肉の旨味が凝縮されている。あらためて、コロッケの良さを知った気がするよ」
そう言って、口に一気に放り込んだ。
ホクホク顔だ。ほっぺたが落ちそうな旨さなんだろう。
「……ふっ」
所詮、ギルマスも男か。
手作り弁当一つで、この体たらく。チョロすぎるぜ。
これで、好感度はうなぎ上り! 報酬アップ間違いなし!
「だが、これ作ったのは、おまえじゃないだろ」
「……なっ」
なぜ、バレた。
「機械的というか、無機質な味だ。人が作ったわけじゃない。魔法か何かだろう」
「酷いギルマス~。私の手作りなのに~」
「あと、そのネトネトした喋り方、気持ち悪いぞ。人前ではやるなよ」
「……はい。気を付けます」
……くっ。ギルマスは堕とせなかったか。
ネタが割れてしまったので、普通に説明する。
「バーベキューセットをもらったのか。聖女から? 凄いな」
「そうなんです。だから今、利用法を考えているところで」
「いや、おまえ、それを先に言え。やれるクエストが一気に増えるぞ」
「え? どういうことです?」
「美食クエストというものがあるんだ」
たしか、ギルドの奥の方に、貼り紙が張られていた。
『クエストを受けてくれる方、募集中』と書いてあった。
今までは関係ないと思って無視してたけど。
「このクエストには条件があるんだ。それは『携帯調理器具を所持していること』。料理の品質がバラバラだと採用されんからな」
「では、今の私は受けることができると」
「ああ。おまえがやりたいと言うなら、いくらでも紹介してやろう」
「ギルマス~、大好きです~」
「だから、その喋り方やめろ」
☆
家に帰ってきた。
「というわけで、これからは美食クエストも受けていくよ」
「美食クエストだあ? なんか食えるのか?」
「食べるんじゃなくて、作るんだよ。それと食材を調達したりね」
とはいえ、やること自体は、今までと大差ない。
基本はダンジョン探索。空いたときに、調理。
「なんで今までできなかったの?」
ピンクが私にたずねてきた。
「食材調達ならできたんじゃ……」
「簡単に説明すると、食材を腐りにくくできるらしいの。保存の利くものに変えることができるんだって」
「難しそう」
「うん。私もよく分かってないんだ。だから、とりあえず、受けてみようと」
バサッと書類を取り出した。
「クエストを持ってきたんだけど」
「おっし。やってみようぜ……どれどれ、プリン十個を納品? こんなのやるのか?」
レッドは嫌がると思っていた。
書類を投げ出して、隅の方に引っ込んでいった。
まあ、こういうのは、ブルーやピンクあたりの仕事だろう。
誰もやらなければ、私がやるということで。
「はいはーい。私がやるー」
「何故、ここでグリーンが」
「ダメなのー?」
「いいよ。問題ないよ。誰でも作れるからね」
前はミリアが率先してやってたからな。
グリーンにもやらせてみよう。
「えっと、卵と砂糖と……」
食材を揃えてみたので、グリーンに渡す。
「じゃあ、作ってみて」
「はーい。バーベキューセットに突っ込むー」
――チン!
「できたー」
よし。それじゃあ、味見をしてみよう。
「もぐもぐ……うん。甘くておいしい。この……シュークリーム!」
……え?
「ねえ。なんでシュークリームを作ってるの?」
「おいしくなかったー?」
「いや、おいしいけどね。作って欲しいのは、プリンなんだよ」
「あー、まちがえたー」
仕方ないか。プリンとシュークリーム。
お菓子としては、似たタイプだからな。
「……ん……」
「おっ、ブラック。やってくれるの?」
コクコクと頷いた。
「じゃあ、食材を渡すから、よろしくね」
「……ん……」
――チン!
「もぐもく……うん。いいね。和の味だよね。この……茶碗蒸し!」
……え?
「いやいや、甘い茶碗蒸しってどういうこと? プリンだよ。すごく離れちゃったよ」
「……ん……」
「え? ちょうど食べたかった? ダメだよ。好みで選んじゃ」
どうしようもないな。
「二人とも、ふざけすぎ。クエストなんだからね。真面目にやらないとダメだよ」
「はーい」
「……ん……」
やれやれ。ここは私がやるとしようか。
「グリーン。ブラック。よーく見ててよ。私がお手本を見せるからね」
――チン!
「もぐもぐ。ほらね。簡単でしょ。甘くて、おいしい……卵焼き!」
……え?
「おーい。卵焼きが出来てんぞ」
「プリンを作っていたのでは」
「……」
「ステラちゃんの卵焼きって、いつも甘いもんね」
「……ピンク。それフォローになってない」
何故だ。バーベキューセットって、誰でも簡単に調理できるんじゃなかったのか。
どうして、プリンができない。
そんなに作るの難しくないだろ。
「もう一度だ。もう一度、やれば……」
――チン!
「うわああっ! やっぱり、卵焼きができるよー」
意外と難しいんだけど。
ミリアは簡単そうにやってたのに。




