第63話 VSオバケスロット③
回転が止まる。
絵柄は……ブレイブス、ブレイブス、ブレイブス。
「モードチェンジ!」
闇の中から、誰かが姿を現した。
黄金の鎧を身にまとい、背中ではマントをはためかせている。
「ブレイブスモード」
あれが、勇者なのか。
何か、好青年を思わせる雰囲気で、私に笑顔で語り掛けた。
「勇者ステラ。おまえの剣と俺の剣、どちらがより上か勝負しようじゃないか」
そう言って、魔族は私に自慢の剣を見せてきた。
前に聖剣祭で見た剣とは、だいぶ印象が違う。幅広の剣で、鈍色に光っている。
「この『クラシカルソード』で、今からおまえを血祭にあげてくれる」
古典的な剣、といった意味だろうか。
魔族の剣にしては、無難な名前だな。どうでもいいが。
「さっきは、ちょっと前に出すぎたな」
敵の魔法で危うくやられるところだった。ブラックがいなければ、倒されてたかも。
反省したので、ここからは仲間を隣に置こう。
「というわけなんだよ。ブルー」
「はい。がんばりましょう」
彼女が側にいるときの言い知れぬ安心感。良いものだ。
最初から、こうしておけって話だが。
「さて……」
ナイトは防御、ウィザードは魔法、ヒーラーは回復力に優れていた。
そして、勇者は……なんだろう。勇者って何に優れているんだ?
「自分に当てはめてみればいいのでは?」
私が得意なことは……なんだろう。
「来ねえのか。なら、こちらから行くぜ……ふん!」
魔族が先制を取った。
正眼の構えから、縦にまっすぐ切り込んでくる。
「……神速!」
後ろにさがって回避。
まずは位置取り。私に注意を向けさせて、ブルーから離させないと。
――ビュン! ビュン!
敵の間合いは、けっこう広い。
身長差はないけど、相手の方が剣が大きいんだよな。
「……ふん!」
横に振ってきた。飛んで避けよう。
「……ジャンプ!」
頭上を飛び越えて、着地。
振り向き際に、敵の背中を切り伏せた。
――キィン!
「……かたい」
この黄金の鎧は、ハリボテではない。
ナイトだけでなく、ブレイブスも固いタイプか。
これはブルーの魔法が重要になるな。
物理防御の高い相手には、魔法を使え。
基本的な戦略だ。
「……神速!」
後ろに退くたびに、私を追ってくる。
だいぶ距離を取れた。彼女に合図を送る。
「ブルー。お願い」
「はい。≪シーバスター≫」
サメを模した砲台が出現。
「チャージ!」
チュイイイイイン!
先端に魔力を溜める。
「発射!」
青白い光線が放たれた。
狙うのは、魔族の背中。今は私が引き付けているので、完全に無防備な状態だ。
彼女の魔法は威力も申し分ない。
当たれば大ダメージは必至!
「スロロロロッ!」
そいつは私を見ながら、不気味に笑い出した。
「何が、おかしいの?」
「おまえ勝った気でいるだろう。勇者では魔法は受けられない。そう思っているわけだ」
魔族の剣『クラシカルソード』が輝いている。
これはスキルか。
オバケスロットは、力を溜めているのだ。
「おまえはまだ侮っているのだ。勇者のことも、オレたち魔族のこともな」
魔族はくるっと向き直ると、両手で剣を持ち、叫んだ。
「≪メイジバーン≫!」
≪メイジバーン≫
難度 ★×8
属性 光
使用回数 15/15
成功率 100%
説明 魔法使いを殺す秘剣。あらゆる魔法を切り裂くことができる。
青白い光。視界を覆うほどの大きな魔法が、オバケスロットに迫っている。
今、彼はその魔法に真っ向から挑もうとしていた。
「……ふん!」
刃が魔法に食い込み、ビリビリと震えている。
だが、魔族はそこから更に切り込んでいく。
「……ふんふん! ふんふんふん!」
青白い光が、縦からばっさりと割れていき……。
「ふううううん!」
ついに、一刀両断することに成功する。
ブルーの魔法は真っ二つに引き裂かれてしまった。
「……なっ、なんなのこれ」
魔法を二つに割ったのだ。
とても驚いてしまったぞ。
「別に驚くことではない。勇者も使っていた技だ」
「勇者が……」
魔法を切ってたの? 怖いんだけど。
「さあ、魔法使いの攻撃は潰した。魔法でオレの鎧は壊せなくなったな」
たしかに。
これで魔族の防御を破るのは難しくなった。
「次はおまえだ。おまえの剣を潰してやる」
オバケスロットは私に剣を突きつけた。
やれるものなら……。
「やってみろ! ブレイブラッシュ!」
キィン! がっちりとガードされる。
完全に読み切ってる動きだ。
ナイトのときも、ヒーラーのときも見せてるからな。
「その技はもう見飽きた。次は俺の技を喰らえ! ヘルブレイク!」
目の前に、赤黒い閃光が走った。
「……おっ」
私は背を屈めて、回避する。
「危ない……」
「……ふん!」
もう一度、横に振ってきた。
「ジャンプ!」
「それも見飽きた。セイントスピア!」
私と同じ魔法か。剣で弾き返そう。キィン!
「ヘルブレイク!」
「うおおっ!」
まだ攻撃が続くのか。
他のモードより、切り出しのタイミングが早い。
「はああああっ!」
私からも攻撃をしかけるが、全てガード。
きっちりと処理してくる。
「オレには、おまえの動きなど止まって見える」
ハッタリではなさそうだ。
勇者の能力。
それは『剣技』ということか。
こいつは剣に対して、優れた技量を持っているのだ。
真っ向から打ち合っていても、たぶん私は勝てない。
「どうした勇者! まだまだ行くぜ!」
さらに攻撃を仕掛けてくる。
「このままじゃ……」
まずい。なんとかしないと。
でも、どうしたら……。
そう考えていると、頭上から魔法が飛んできた。
パタパタパタパタ! ブルーの≪シードローン≫だ。
三機が、空を飛び回っている。
「ショット!」
遠くからブルーが合図を送ると、ドローンから弾が発射された。
「無駄なことを。俺に魔法は効かん。≪メイジバーン≫!」
全ての弾を切り落としていく。
おそろしいほど高速の剣さばきだ。
私でも全て追い切れているとは、言えない。
「ライトニング!」
更に魔法で雷を落として、ドローンを焼き払った。
「頭の悪い魔法使いだ。一度やられただけでは、分からんようだな」
だが、パタパタパタパタ! すぐに次のドローンがやってきた。
オバケスロットは苛立ちを覚えた。
「おい! なんだこのバカは。教えてやれよ! すでに、おまえの魔法は死んでいるとな」
「……」
ブルーは、バカじゃない。
なんとかして、隙を作ろうとしているのだろう。
私に倒させるために。
「≪メイジバーン≫」
魔法を切り裂いていく。
一つとして、逃さない。華麗な剣さばきだ。
「くだらん! オレに魔法は効かん!」
「……いや、そうか」
分かったぞ。
ブルーが、私に何をさせたいのか。
「……よし。ブルー」
私たちの力で、この魔族を倒してやろう。
「……うけてみろ」
戦闘中に一度しか使うことができない。
私の奥義――。
「……流星!」
鮮やかな光に包まれた。
私の剣は、凄まじいスピードで、敵を切り刻む。
十……二十……三十……。
「くだらん。そんな技、全て受けてやる。この『クラシカルソード』でな」
キィン! キィン! キィン!
オバケスロットを切り、切り、そして、切って行く……四十……五十……。
「無駄だ! 無駄だ!」
キィン! キィン! キィン!
まだ続く……六十……七十……まだ終わらない……八十……九十……。
「……」
倒せていない。
オバケスロットはノーダメージだ。
「スロロロッ! 大したことない技だったな。所詮、勇者の剣技の前では、おまえの技など無力に等しい」
「今のは、私の奥義だったんだ」
「そうか。では、おまえも潰せたな。オレの勝ちだ」
そのとき、後ろからブルーの声がした。
「≪シーバスター≫!」
砲台が出現。
「チャージ!」
チュイイイイイイン!
更に、あと二回。
計三回のチャージを終えた。
「発射!」
青白い光線が放たれた。
「やれやれ。本当に分からん奴だ。その魔法はもう破られたというのに」
オバケスロットは剣を構え、力を溜めた。
スキルを発動するつもりだ。
「≪メイジバーン≫! もう一度、潰してやる!」
迫ってくる青白い光線に、魔族は剣を食い込ませた。
「……ふん!」
そのとき。
――ピキッ!
彼の剣『クラシカルソード』にヒビが入ったのだ。
「なんだこれは……」
魔族の顔から血の気が引いた。
それは小さなヒビに過ぎなかったが、刃を押すたびに悪化していく。
――ピキキッ!
「いつだ。いったい、いつこんなヒビが……はっ、まさか」
魔族が、近くにいた私に顔を向けた。
「おまえか。おまえがやったんだ。最初から狙ってやがったな。奥義を出したのも、オレに剣で受けさせるために……」
そうだ。私は確信していた。
こいつの華麗な剣技なら、私の攻撃を全て受けきってくれると。
「切らなくていいの? 魔法が来てるけど」
魔族の前には、青白い魔法の塊が迫っている。
「うおおおおっ! ふんふんふんふん!」
――ピキピキッ! パキパキッ!
「……ダ、ダメだ。耐えられん。このままだと、剣が」
――ジュウウウッ!
光は、魔族の手を僅かに焦がした。
それほど、高密度なのだ。ブルーの魔法は。
「……や、やめろ。来るんじゃないっ! 止まれっ! 止まれええっ!」
――パキパキッ!
「止まってくれええええっ!」
――パリイイイイイン!
彼の剣が折れる頃には、すでに魔族の頭は半分ほど消えてなくなっていた。
あと、数十秒後だろうか。
彼が、この世から消えてなくなるのは。




