第62話 VSオバケスロット➁
回転が止まる。
揃った絵柄は……ヒーラー、ヒーラー、ヒーラー。
「モードチェンジ!」
オバケスロットの体は、闇に包まれた。
中から、ガシャン、ガシャンと音がする。
「ヒーラーモード」
出てきたのは、胴着姿の僧侶。
剃りあがった頭と筋肉質な体が特徴である。
おそらくは、モンクだろうか。
どちらかと言えば、回復もこなせる格闘家みたいな職業である。
「ああ、痛え。腕が痛え」
先ほど、私が切り落としたところだ。
血が止まらず、人間のように、赤い血を垂れ流している。
「治さねえとな。よいしょっと……」
男の体が光に包まれていく。
「リカバー!」
ヒールの強化版のような魔法だ。
傷だけでなく、ほとんどの状態異常を回復させることが可能。
切り落とされた腕が元に戻り、体中の傷が癒えていく。
正直なところ、異常なほどの回復力だ。
これが『ヒーラーモード』の能力ってことなんだろう。
でも、腕が生えてくるって……。
相当な魔力があっても、ここまではできないだろう。
「レッドは私が看病しとくわ。その間に、こいつをなんとかするのよ」
「うん。やってみる」
そろそろ、敵の能力についても掴めてきたところだ。
オバケスロットは強いが、そこまで現実離れしたことができるわけじゃない。
「……ふう。よしよし。治った。治った」
腕を回して、感覚を確かめているようだ。
「……神速!」
スキル発動。地面を蹴って、相手に切りかかる。
「パワーアップ。スピードアップ」
僧侶の体が淡く輝いた。バフもこなせるタイプか。
「ガードアップはしなくてもいいの?」
「防御? そんなものは必要ないな」
挑発じみたセリフを吐いた。
そうか。じゃあ、遠慮なく痛めつけてやろう。
「飛燕脚!」
私に向けて、蹴り技を放ってきた。
素早い動きで、私の顔まで足が伸びてくる。
「ジャンプ!」
当たるか。
ぴょんと飛び上がり。
そのタイミングで、もう一度、腕を切り落とす。
ドサリと地面に腕が転がった。
どうだ。痛いだろ。
「……ふっ。リカバー」
みるみる腕が生えてくる。
「ほらな。必要なかっただろう」
したり顔で言い放つ魔族。
「ブレイブラッシュ! ブレイブラッシュ!」
スキルの二連撃。酷い傷を負わせてやった。
「リカバー」
速攻で、全回復。
「大したことはないな」
……くっ。スロットの分際で。
「それなら、回復できなくなるまで……攻撃を加えてやる」
私は手を上げた。
「グリーン! やって!」
「はーい」
彼女はすでに準備をすませ、弓を引いている。
その体には、ピンクの『パワーアップ』がしっかりとかかっている。
「≪アローレイン≫」
頭上に放たれた矢が数百に散り、雨のように降り注いだ。
――ガガガガガッ! 僧侶の体中が、矢によって射抜かれる。
「……ご……ごお」
どうだ。強化された『アローレイン』なら、敵をハチの巣にすることだってわけないのだ。
「……ふっ。リカバー」
再び光り出すと、体中の穴が塞がれていく。
まったく応えていない。あっさり回復されてしまった。
「……そろそろいいか」
コキコキと首を鳴らすと、私を見てニヤリと笑った。
彼は勝利に確信を持ったようだ。
「勇者。悪いが、おまえには死んでもらうぜ。このヒーラーモードの最強魔法によってな」
「……最強魔法?」
「そうさ。お前はこの魔法を受けきることができねえ。絶対にな」
なんだ。何が始まるって言うんだ。
「喰らえっ! 古代魔法。≪スカー・シフト≫!」
≪スカー・シフト≫
難度 ★×8
属性 無
使用回数 5/5
成功率 100%
説明 古代魔法の一つ。自分の受けたダメージを、相手に移し替える。
「……くっ」
私は防御の構えを取った。
ダメージを少しでも抑えたい。そう考えたからだ。
「スロロッ! ガードをしたところで意味ないぜ」
「なんですって」
「ああ。この魔法はダメージを『与える』んじゃなく、『移し替える』からな」
はったりではなく、本当にこれで私を倒す気のようだ。
挑発じみたセリフも、これのため。
ダメージを喰らって、この魔法を使うためだったのか。
「死ねえっ!」
まずい。やられる。
そのときだった――。
「……ん……」
直前になってブラックが前に出てきたのだ。
そして――。
ブシュウウウウッ! と血が噴き出した。
「……ん……」
「ブラック――――ッ!」
ブラックは、パタンと仰向けになって倒れた。
「……そんな」
彼女は、私をかばってくれたのだ。
敵の魔法にやられそうになったバカな私を守るために。
「……ごめんブラック。ごめん……」
私は涙を拭って、オバケスロットを睨みつけた。
「許さない! ブラックをこんな風にしたあなたを、私は絶対に許さないっ!」
「スロロロッ! まあ、そう怒るな。おまえもすぐに同じ場所へ連れてってやるさ」
そう言って、スロットは高笑いをした。
「さあ、これで終わりにしてやる。残ったダメージでスカーシぐふぉっ……」
突然、敵が吹っ飛んだ。
「……え?」
何が起こったんだ。
気づくと、ブラックがハンマーを持って立っていた。
「……ん……」
普通に元気そうである。
「どうなってるの……あっ、そうか」
≪ゼロ・イマジン≫か。
ブラックはスキルと魔法のダメージを一度だけ無効化できるのだ。
「でも、血は? 血がブシュッて出てたよね」
「……ん……」
「ケチャップ? そんな冗談いらないから」
もう、この娘は。
無事でよかったけど。
「なんだこいつは。どうなってやがる」
僧侶は訳がわからない様子だ。
殴られた頬をさすりながら、立ち上がろうとする。
だが、何故か立てない。
というか、動くことができない。
「……ちっ。今度はなんだ」
「影縫いー!」
グリーンの声が聞こえる。
さりげなく、影に矢を刺していたのだ。
だが、これで奴は≪スカー・シフト≫を使えない。
動くことができないのだ。魔法を放つときの姿勢が取れない。
「モードチェンジ!」
レバーをガチャリ!
スロットが回転。
絵柄は……ブレイブス、ブレイブス、ブレイブス。
闇が、魔族の体を包み込んでいく。
ブレイブス。
ということは、今度は勇者か?




