第48話 ミリアと修行
「さあ、ミリア。どこからでも、かかってきなさい」
私は両手を開いて、ミリアを待ち受ける。
「はああああっ!」
剣を構えて、突っ込んできた。
「えいっ! とうっ!」
――ヒュッ! ヒュッ!
おお。ミリアが私に攻撃を……。
「いいよ、その調子。どんどん打ち込んできて」
「……はい!」
私の言葉に対して、返事を……。
「ええいっ!」
キィン!
凄い。凄いぞ。
今、私、ミリアと修行をしている!
二人きりで刃を交えながら、対話している。
「……くぅ。溜まんないよ」
そうだよ。こういうのを、やりたかったんだよ。
難しい言葉は不要。気持ちと気持ちのぶつかり合いって奴を。
「……はあ……はあ」
「よし。いいよ。少し休憩しようか」
汗をタオルで拭きながら、ミリアが私に話しかけてくる。
「……えっと、ステラさん」
「わあ! 風が強いな。声が聞こえないよ」
「……ステラ師匠」
「ステラ姉さまとは、呼んでくれないの?」
「それはイヤ」
そこまでは無理か。じゃあ、諦めるとして。
「あなたの頼れる師匠ステラさんだけど、どうかした? 相談事なら乗るよ。師匠だからね」
「真面目にやってくれませんか」
「ええ? 私は本気だよ」
「バカにしないでください。そのぐらいわかります」
ぷくっと頬を膨らませた。かわいい。
「早く、技を使ってください」
「技って?」
「勇者の技です。見せてくれなきゃ、覚えられないです」
ミリアは、クエストの条件のことを気にしている。
クエスト:鏡の涙を入手せよ
条件:ミリアの同行。加えて、ミリアに勇者の技を使用させよ。
このクエストを達成することができれば、ミリアは剣士に転職しなくてもいいようだ。
つまり、勇者のままでいられると。
でも、そのためには、ミリアがクエストに同行。
さらに、勇者の技を使用する必要がある。
パーティーの中で、勇者の技がつかえるのは私だけ。
つまり、彼女には、私に教わる以外の方法がないのだ。
「技を教えてください!」
「え~。どうしようかな~」
すぐに教えたら、私の弟子をやめそうだからな。
この至福のひとときをすぐにやめてしまうなんて、もったいない。
できるだけ、焦らしていきたいところ。
「もしも、私に一撃を入れることができたら、考えてあげてもいいかな」
「本当ですか?」
「うんうん。本当」
「……ようし」
おお。私のことを熱いまなざしで見ている。
ヤバい。楽しい……。
ギリギリまで、引き伸ばしちゃおう。
「はああああっ!」
ひょいひょいと躱した。
「まだまだ。そんなことじゃ、この私は捉えられないよ」
「むー! もう一度!」
そんな感じで、一日目の修行は過ぎて行った。
まあ、ミリアに関しては、この調子で進めていくとして。
次は、クエストについてだ。
『鏡の涙』。その入手先を探さないといけない。
「というわけなんですが、ギルドマスター。何か知っていませんか?」
「何故、俺に聞きにくるのか分からんが……」
私はそんなアイテム、聞いたことがないし。
知っていそうなブルーは、外出中だ。
私的な用事があるとかで、転職の神殿に居残っている。
「知ってるぞ。ドロップアイテムだな。リフレクマナコというモンスターが落とす」
「……リフレ……クマ……ナコ?」
なんだそれは。リフレができるのか。
クマに、ナマコが、なんだって?
「リフレク・マナコだ。マナコとは、目玉のこと。大きな目玉の姿をしている。リフレクとは、魔法のこと。おまえも知ってるだろう?」
たしか、魔法を反射させるバリアを作り出すんだったか。
純粋な魔法使いだと、たまに使用してくる人がいる。
「リフレクションを得意とするカウンタータイプのモンスターだ。対策すれば、おまえたちでも勝てない相手じゃない」
「へえ」
「最近だと、『アイゴン』と呼ばれてる。ギルドのデータブックを調べてみろ。詳しく載ってるから」
「わかりました」
アイゴンね。大きな目玉の怪物。
今度の相手はそいつになるらしい。
「それとミリアのことだが。ひょっとして、おまえ忘れてはいないだろうな」
「なんの話です?」
「魔物活性化体質のことだ」
ミリアの体質のことか。
周りのモンスターをレベルアップさせるんだったか。
前のカマキリのとき以来、一度も起こったことないけど。
発動条件がよく分からないから、対策しにくいんだよな。
「気をつけろよ。何かあっても遅いからな」
「了解です」
とりあえず、彼女にヒールは使わないでおこう。
前は、それで起こったから。
☆
で、十日後。
「はああああっ!」
ヒュッ! ヒュッ!
「モグモグ……この桃、甘い。ミリアも一つどう? とってもおいしいよ」
彼女は剣をブンブンと振り回している。
「なんなのこの人? なんで技を教えてくれないの?」
「だって、まだ一撃も入ってないよ」
「当たってよ~。時間ないのに~」
クエストの期限は約一か月。あと二十日。
タイムリミットは、刻一刻と迫っている。
かわいそうだ。同情を禁じ得ない。
だが、当たるわけにはいかない。
何故なら、当たれば、そこで楽しい修行ライフが終わってしまうから。
すまない、ミリア。耐えてくれ。
私のためなんだ。私が訓練で、あなたとイチャイチャするためなんだ。
きっと、分かってくれるはずだ。
だって、妹欲しかったんだ。もっと甘えて欲しいんだよ。
「ステラちゃん。最低だね!」
「……はっ、ピンク」
何故ここに。
今は二人っきりの修行中なのに。
「ミリアちゃんが相談に来たよ。なかなか技を教えてくれないって」
バチン!
ピンクのビンタが炸裂。
「……いたっ」
だが、この程度の痛み、ミリアに無視される日々に比べれば……。
「どうして、そんな酷いことするの」
「ち、違うんだよ。これには深い事情が……」
「問答無用!」
ピンクが力を溜めている。
「……う……ウルトラアップ!」
――ブックン!
ピンクの身体が風船みたいに膨らんだ。
そして、私の首ねっこを掴み上げ……。
ガシッとホールド。私の体を羽交い絞めにする。
足が地面に着かない。
それに凄い力で、背骨の辺りがミシミシ言ってる。
「今だよミリアちゃん」
「はい! お姉さま!」
その間にミリアが剣を構え、迫ってきた。
……くっ。連携プレイか。
二人で、私の修行ライフを終わらせるつもりだな。
「……させないぞ」
私は必死に体を動かした。
だが、ブクブクしたピンクの体はビクともしない。
彼女のホールドを解くことができない。
「はああああっ!」
そうしている間に、ミリアが迫る。
もう、目と鼻の先だ。
このままで、彼女に一撃を喰らってしまう。
修行が……終わってしまう。
「ステラちゃん。観念して、技を教えなさい」
「……いやだあ! 絶対にい!」
そうだ。まだ、始まったばかりなんだ。
二人っきりの修行をもっと続けるんだ。
「……くっ」
あの技だ。あの技を使えば……。
私は苦しくも、声を振り絞った。
「≪マックスブレイブ≫!」
≪マックスブレイブ≫
難度 ★★★★★
属性 光
使用回数 5/5
成功率 100%
説明 別名―勇者の怒り。一定時間、全ての攻撃が確定クリティカル。使用後、全能力↓↓
頭上から暗雲が立ち込め、私の頭上に向けて、雷が落ちてきた。
ピカッと光ると、私の体中から力がみなぎってくる。
「……むんっ!」
力を入れると、ピンクのホールドが外れ、彼女ははじかれた。
「はあああっ!」
ミリアが切りかかってきた。
私はそのおでこに、デコピンをお見舞いする。
「きゃあああああっ!」
ドッカ――――ン!
近くの岩まで吹っ飛び、岩盤には大きなクレーターが形成。
「……あっ、やりすぎた」
確定クリティカルなんだっけ。
ミリア、無事かな。
「大丈夫?」
「……やった」
「え?」
「ステラさんに、勇者の技を使わせた!」
「……なっ」
そうだった。
≪マックスブレイブ≫は、勇者の技。
結局、彼女に見せちゃってるじゃないか。
「やったね、ミリアちゃん」
「はい。お姉さまの言う通りでした」
おのれ、ピンク!
はかったなあ!




