第46話 転職の神殿へ➁
いざ、転職の神殿へ!
というわけで、私はギルドの裏側にある黒い建物に向かった。
「……カチカチっと」
転送陣の隣の装置をいじって、設定を変更する。
「目的地は……」
登録されている地点は二つある。
一つはコダール村。
この間、ドラギドを倒したところだ。
で、もう一つは、転職の神殿。
今から、抗議に行くところである。
「……これで、よし」
設定完了。
続いて、連れて行くメンバーである。
今回のメンバー……。
メインメンバー:ステラ レッド ブルー ピンク (ミリア)
控え :グリーン ブラック
「レッドがいる!」
何故だ。
レッドは転送陣には、乗れないはずだぞ。
「あたしは乗るぜ。転職できる場所だろ? 前から、興味があったんだ」
「そんな。無理だよ。レッドじゃ」
「何言ってんだ? 余裕だぜ」
澄ました顔をしている。どういうことだ。
……いや、すぐにボロが出るはずだ。
ここはハエ男の物まねでメッキを剥がすとしよう。
「ブ――ンブンブン!」
「なんだそれ? ハエか?」
「ブ――ンブ――ン」
「わりと上手いな。あたしも真似しよう。ブ――ンブ――ン」
ギャグに乗ってくるだと!
ありえない。この自信は、いったいどこから……。
「どうして、レッド! 何故、あなたは……」
教えて欲しい。
あなたのその余裕のわけを。
「……やれやれ。教えてやるよ。その理由はな。これを手に入れたからさ」
そう言うと、懐からアイテムを取り出した。
「それは、もしかして……」
「そう! 虫よけスプレーさ!」
プシュウウウウウッ!
と、体中に吹きかけた。
「これで、あたしに虫は寄ってこない。この意味がおまえに分かるか?」
レッドは、ふふんと鼻を鳴らした。
「ハエが寄り付いてこない。つまり、転送中にハエと融合することはないってことだ。な? あたしって天才じゃねーか?」
「うん……」
そんなことで、よかったんだ。
もうこれで克服できたってこと? 便利なトラウマだな。
「おまえにも一つやるよ。店にあるもの買い占めてきたんだ」
「ありがとう」
プシュウウッ! あっ、匂いがしない。
けっこう高いスプレーなんだろうか。
「じゃあ、レッドも加えて、以上のメンバーで」
ピンクが意見を言った。
「ミリアちゃんは? 連れて行ってもいいの?」
転送事故のことを気にしているようだ。
たしかに、ハエ男以外はスプレーでは対策できない。
「問題ないよ。神殿は、転送先として人気だから」
今まで、多くの人によってテストされ、事故は予防されている。
他の登録先に比べれば、遥かに危険が少ないだろう。
「それに当人がいないと、話し合いもやりにくいし」
「そっか。そうだよね」
ってなわけで、神殿に出発。
ブイイイイイイイン!
☆
到着した。
周りは草原が一面に広がっており、遠くを見つめても人工物が一つもない。
神殿は、その草原の中央付近に建っていた。
白い石柱がいくつも並んだ独特な建造物で、神秘的な雰囲気をかもし出している。
「なんつーか、わくわくしてくるな。ボスがでてきそうで」
「うん。天使系かな。ビームをバシバシ撃って来そう」
このコツコツという足音が、また高揚感をかきたてるのだ。
入口に立つ女性に声をかける。
「神官に会わせてください」
「はい。それでは奥へご案内します」
建物の中を歩いていく。
ピンクが石柱の隙間から外を眺めて、声を上げた。
「綺麗! たくさんお花が咲いてるよ」
「ええ。心が和みます」
なんて呑気な。私たちはすでに敵地にいるのだ。
チューリップだかカーネーションだか知らないが、そんなものにうつつを抜かしている場合じゃないぞ。
まあ、たしかに、綺麗だけどね。
「私たちは抗議しに来たんだよ。ガツンと言ってやるの。こう、ガツンとね」
「気合が入ってんな」
「ミリアのためだからね。私も最初から気合を入れていくよ」
さあ、来い。
誰であろうと、私の妹を泣かせる奴は許さない。
「初めまして」
出てきたのは、眼鏡をかけた青年だった。
「神官のヨルクと言います。よろしく」
手を出してきたので、握手する。
「……よろしくお願いします」
「今日はどう言ったご用件で」
「……はい。ミリアの転職について抗議を……」
「ミリア・アリステラさんですね。少々お待ちください」
そう言って、本棚の資料を確認し始めた。
「……おーい。ガツンと言ってやるんじゃなかったのかよ」
「……だ、だって、真面目そうな人だから絡みづらくて」
「……でも、これじゃあ、抗議になってないよ」
「……待ってよ。まずは話を聞いてからね」
ヨルクが戻ってきた。
「お待たせしました。たしかに、アリステラさんは来月までに勇者から剣士へ転職することになってますね。警告文が、神殿から発行されています」
一月以内に転職しなければ、然るべき処置を取る。
そう言った警告だった。
横にいたミリアがか細い声を出した。
「……うぅ。剣士はイヤ」
そうだ。剣士なんて職業、ミリアには似合わない。
ここは断固、抗議だ。
「警告を取り消してください!」
よし! はっきり言ったぞ。
「困りましたね。僕が決めたわけではないので」
「ヨルクさんは、神殿でも偉い立場の人ですよね」
「はい」
「では、その警告を出した人に掛け合ってもらえませんか」
「しかし、警告したのは……」
ヨルクさんは言葉を濁した。
「神なのです」
……神……だと。
「……神なんていんのかよ」
「……いるよ。ここは神殿なんだから、神を奉ってる場所なんだよ」
「……どんな神なんだ。名前は」
「……それは……」
なんだっけ?
ブルーが答えてくれた。
「……女神ローザ。その方が、私たちの職業を管理しています」
ああ。名前は聞いたことはある。
けど、私の周りでは熱心な信者を見たことがなくて、あまり記憶には残らない。
正直なところ、影が薄い。友達が少ない日陰者のイメージだ。
「レイラントさん。今、女神は影が薄いと思いましたね。友達が少なく、日陰者だとも」
「……え?」
何故、バレた。
「女神はそう言った言葉には敏感なのです。特に神殿内では、その手の悪口は慎むように。神はいついかなるときでも、あなたのことを見ているのですから」
本当か? 怖いから、できるだけ気をつけよう。
「基本的に職業の選択は自由。しかし、『勇者』と『聖女』。この二つの職業だけは例外的に、神からの赦しを得る必要があります。アリステラさんは、赦しを得られなかったようです。そのために、警告を受けました」
言ってることは理解できるが、納得できない。
神が決めたことだから無理。
そう言われて、大人しく引き下がれと? 出来るわけないだろう。
「納得できませんか」
「はい。なんとかしてください」
神の赦しなら、私も得た覚えがない。
それなら、私も勇者失格ということになるが。
「では、神に直接、抗議してみてください」
「はい?」
「ローザは友好的な神なので、希望があれば、話ぐらいなら聞いてくれます」
「冗談ですよね?」
「今から、お通ししますよ。ついてきてください」
神と直接の交渉?
初めての経験だけど、女神ローザはそんなに間口が広いのか。
「アリステラさんも、そちらのお仲間の方も、どうぞお揃い
で」
よく分からないが、とにかく行ってみよう。




