44 VSドラギド(真の姿)
吸血鬼ドラギドは、真の姿に変身を遂げようとしていた。
その正体は――。
「……コウモリ」
そう。心臓を自身に取り込んだその姿は、全長約四メートルの巨大な吸血コウモリだった。
灰色の毛で覆われた胴体と、猛禽類のような頭。鉤づめのような足を持つ。
「キィキィ」
牙を剥き出しにし、甲高い声で鳴いた。
「我が名は吸血鬼ドラギド。ここから、おまえたちは更なる恐怖を味わうことになる」
私より先に、ブラックが前に飛び出した。
「……ん……」
盾を構え、前方の魔物に向かって突進していく。
彼女の≪シールドバッシュ≫だ。
命中させれば、確率でスタンさせることができる。
「……ふっ」
ドラギドは鼻で笑うと、バサッと音を立て、両翼を広げた。
そして、ブラックの攻撃が当たる前に、空へと飛び立つ。
バサバサッ!
天井を覆い尽くさんばかりの翼が、大きくはためいている。
「フハハッ! フハハハハハッ!」
城中に高笑いが響き渡る。
私たちを見下ろし、小馬鹿にするように言った。
「その盾の技は、私には届かんぞ。おまえには翼がないのだからな」
「……ん……」
「更に、おまえたちにこの魔法をプレゼントしよう」
ドラギドは口を広げて息を吸い込むと、そのお腹がぷっくりと膨らんだ。
そして、呪文を唱える。
「≪ビルス・フォール≫!」
ピ――――――ッ!
耳鳴りのような効果音とともに、口から何かを散布した。
「……ケホッ……コホッ!」
隣のブルーが咳き込んでいる。
私に寄りかかり、苦しそうに息をしている。
「……すみません。急に体が重くなって……ケホッ……コホッ」
これは、いったい……。
≪ビルス・フォール≫
難度 ★×8
属性 闇
使用回数 4/4
成功率 100%
説明 古代魔法の一つ。ウィルスを振りまく。一定時間ごとに、定数ダメージ。
フィールド全体に、『病気』の効果。
「病気って……」
病気:状態異常。攻撃・防御・素早さ・魔力が大幅ダウン。
なるほど。ドラギドは私たちに、能力低下、つまりデバフをかけたわけか。
「フハハッ! フハハハハッ! ステラよ。なかなかやるではないか。まさか、この私に≪ビルス・フォール≫まで使わせるとはな。だが、これで終わりだ。三十分! あと、三十分でおまえたちは病に蝕まれて死ぬ!」
私たちの体力は、魔物に比べれば微々たるものだ。
ドラギドの言ってることは、はったりではないのだろう。
「……ケホッ……コホッ!」
ブルーが苦しそうにしているのは、私たちの中で一番体力が低いからか。
定数ダメージだから、それだけ他の人より減りが激しいのだ。
「ブルー。じっとしてて」
とりあえず、彼女を地面に座らせて、私は魔法を使った。
「ヒール」
温かい光が、彼女の体を包み込む。
「どう? 立てそう?」
「……」
ブルーは立ち上がって、答えた。
「ありがとうございます。おかげで、回復できました」
「……そう」
ダメか。気休め程度ってことだな。
ブルーは変なところでムキになるところがある。
辛いなら、辛いとはっきり言って欲しい。
「よし。それなら、私が……」
体力だけは無駄にあるからな。
まずは弱点の感知だ。
心臓は取り込んでいるので、そこが急所になっているはず。
「耳をすませて……」
私はグリーンと違って、聴覚で感知をおこなう。
ちなみに、グリーンは第六感みたいな奴である。
「ふむふむ。心臓の鼓動は……」
聞こえる。奴の右胸の位置にはっきりと。
巨大だから、簡単に感知できたな。
「……神速!」
地面を蹴り、吸血コウモリの背後まで移動。
奴の右胸のあたりに狙いを絞る。
「セイントスピア!」
光の槍が、空中にいるコウモリへ飛んでいく。
そして、敵の急所である右胸へ――。
――パキン!
「……折れた」
奴の表皮に当たった途端、あっさりと折れてしまった。
「なんだ。今のは魔法だったのか。弱すぎて気づかなかったぞ」
「……むう」
魔力も低下してるんだったか。
しかし、私の魔法でも表皮にすら刺さらないなんて……。
「私がやります」
「ブルー。いいって。あなたは休んでて」
「いいえ。ご存知だと思いますが、≪シーバスター≫はチャージ回数に応じて威力が増大します。おそらく、三回、いえ、二回ほどチャージできれば奴の心臓は貫けます」
「でも、あなた……」
「できます!」
うーん。この娘は……。
でも、彼女の言う通り、方法はそれしかないか。
「じゃあ、ごめん。お願いしていい?」
「はい! ≪シーバスター≫!」
呪文を唱えると、地面がせり上がり、サメを模した大砲が出現した。
「チャージ!」
チュイイイイイン!
先端に光が集まっていく。
同時に周辺の空間が歪み、ねじれていく。
「チャージ!」
チュイイイイン!
更に、もう一回。
先端の光が球状に変化し、徐々に大きくなっていく。
ビリビリッ!
側で見ている私も鳥肌が立ってきた。
いけそうだ。これなら、奴に風穴を開けることも。
「発射!」
先端から青白い光線が放たれる。
一直線に、標的へ。
「……なっ」
コウモリの姿でも分かる。
彼の顔色が変わり、焦りの色が見えた。
死ぬ! そう思ったに、違いない。
「キィキィ!」
甲高い声で鳴くと、片翼を上げて体を傾けた。
光線はコウモリの胸元に直撃。
だが――。
「……ブラッドスキン」
胴体が真っ赤に染まると、ぐにゃりと体が曲がった。
「……あの姿でも、血液の体になれるのか」
たしかに命中はしたが、寸前で急所は逸らされた。
空いた穴も、スキルを使ってすぐに塞がれてしまう。
「……すみません。思いのほか、スピードが」
「うん」
いつもなら、倒せていた。
素早さにデバフもかかってるし、ブルー自身の体調も悪い。
コンディションは最悪。しかし、やらないといけない。
「今のは危なかった。その魔法は危険なのだな」
そう言うと、ドラギドは呪文を唱えた。
「ダークフレア!」
口から黒い炎を吐き出した。
闇属性の攻撃魔法だ。
それでブルーを潰すつもりか。
「……ん……」
ブラックが前に出る。
≪マジックシールド≫
難度 ★★
属性 無
使用回数 10/10
成功率 100%
説明 魔法攻撃によるダメージを50%カット
ブイイイン! と、ブラックの周りがバリアで覆われる。
バリアに当たると、炎は逸れていく。
更に盾を振って、魔法を打ち消す。
強気な守り方だ。
でも、ちょっと痛そう。
「ブラック。平気? あなたの防御力も落ちてるけど」
「……ん……」
問題ないか。
念のため、ヒールをかけておこう。
「ブルーの守護は、あなたに任せた」
「……ん……」
私はサポートだ。
≪シーバスター≫の威力は申し分ないので、次は命中力。
というより、相手を拘束しないとな。
前はブラックにスタンしてもらったけど、今の奴は空の上。
だが、私たちにはもう一つ、奴を拘束する方法がある。
「さあ、グリーン。あなたの出番だよ」
影縫いだ。彼女のお馴染みのスキルを、ここで使ってもらおう。
「影ないよー」
「……え?」
マジで……あっ、ほんとだ。
この城は窓に暗幕が張られていて、日中でも真っ暗なのだ。
今もわずかな光をもとに、暗い場所で戦わされている。
「……ふむ。そうか。じゃあ、≪ハリケーン≫を使ってくれる」
「んー?」
「ブルーの邪魔にならないように、あっちで使おう」
そんなわけで、彼女のスキルが発動。
「……ハリケーン!」
ビュウウウウウウゥ! 突風が吹き荒れた。
「……うおお」
相変わらず、凄い風だ。ズルズルと引きずられ、後ろへさがっていく。
でも、ちょっと力不足だな。
「グリーン。まだ、足りないよ。もっと強く」
「わかったー」
ビュウウウウウウゥ! 風速が上がってきた。
「……おお」
ヤバい。本当に吹き飛ぶ。油断してたらダメだ。
でも、これなら……。
――ピシッ!
壁に一筋の亀裂が。
――ピシピシ! ピシピシピシ!
更にいくつもの亀裂が。ついでに、天井にも。
「ようし! ありがとう! そこまででいいよ」
「はーい」
パタンと手を下ろした。
風もやんでくれた。
「……うん」
天井にはかなりの数の亀裂が走っている。
これなら、私の弱った魔法でも穴が空けられそうである。
あとは今の時間から、太陽の位置を予測して。
「……あの辺りかな」
手をかざして、呪文を唱えた。
「セイントスピア!」
光の槍が、天井に穴を開けた。
ピカーッと室内に光が入り込み、地面には影ができる。
「これで準備ができたぞ」
ブルーのところへ移動。
「……ケホッ……コホッ」
ブルーの病気が悪化してる!
「コントロールは私がするよ。あなたはチャージだけやって」
「……すみません……チャージ!」
チュイイイイイン!
先端に光が溜まり。
「チャージ!」
チュイイイイイン!
更にもう一回。先端の光が大きくなっていく。
「……さあ、ドラギド」
吸血コウモリ、その右胸に照準を合わせる。
「……これで本当に、あなたの最後、だよ」
私は手を上げた。
「発射!」
青白い光線が放たれた。
「……くっ! バカの一つ覚えに!」
彼の胴体が赤く変色する。
また、スキルを発動しようとしているのだ。
「……ブラッド……」
私は叫んだ。
「グリーン! 今だよ!」
合図に合わせて、すでに構えていたグリーンが、弓を引く。
――キリリリリッ……シュッ! ストンッ!
「……ブラッド……ス……スキ」
ドラギドの体がピタリ止まった。彼は身動きが取れない。
自身の弱点である右胸を無防備に晒したままだ。
「……ス……キ……」
光線は一直線に飛んでいく。
固定されたドラギドには、もちろん何もできない。
シュイイン!
光の線が、コウモリの身体を射抜いた。
口の端から、ポタポタと血が滴り落ちる。
「……キ……キ……」
ドラギドの声が途切れた。




