42 ドラギドの弱点
「……なん……で!?」
私は驚嘆した。
目の前の魔物、吸血鬼ドラギドが私の奥義≪流星≫を破ったのだ。
「断言しよう。おまえでは、この私に勝てん」
その言葉も、あながち嘘ではない。
彼の≪ブラッドスキン≫は、物理攻撃を無効化できるスキル。
だから、私は≪流星≫を使って対抗しようとした。
この技は光属性が付いている。
本当なら、魔物相手に非常に有効な攻撃方法なのである。
だが、彼は連続攻撃で身体を砂にされても、立ち上がって再生してきた。
何故だ!? さっぱり意味が分からない。
「どうやら、今のがおまえの全力だったようだな」
ドラギドは私の動揺を読み取ったのか、標的を移し替えた。
今度は私ではなく、レオナを狙いに来るようだ。
ゆっくりと歩き、私の横を素通りしていく。
「……させない!」
私はドラギドの前に立ちはだかった。
剣に光を纏わせる。これで彼の身体にもダメージを与えられる。
「はああああっ!」
ヒュッ! ヒュッ!
ドラギドは躱すが、これで問題ない。
とにかく攻撃して、私に興味を向けさせるのだ。
レオナには指一本も触れさせない。
「……ふん」
バサッと、黒いマントを広げた。
コウモリを出す気か。 私は攻撃に備えて、身構える。
「きゃあああああっ!」
この声は、後ろからだ。
見ると、レオナの周りにコウモリが群がっている。
「……しまった」
いつの間に。
「油断したな。最初から潜ませていたのだ。こうするときのためにな」
おびただしい数のコウモリが彼女を包み、その体を覆いつくしていく。
「……勇者様……たす……けて……」
「レオナ! レオナ――――ッ!」
私の叫びもむなしく、コウモリの群れが羽ばたくと……。
レオナはその場から消え失せていた。
「少女はいただいた。もう、ここに用はない」
ドラギドは、バサッとマントを翻した。
「フハハッ! フハハハハッ!」
高笑いと共に、姿を消した。
「……くそっ! くそっ! くそっ!」
私はひざまづき、地面を叩いた。
「レオナ……うわあああああっ!」
☆
「うわああああっ! ムシャムシャ。モグモグ」
やっばいな。このオムライス、うますぎ。
ふんわり卵が口の中でとろけて、最高だ。
「おい。おかしくねーか。なんで当然のように家に帰って、飯を食ってるんだよ」
「それは晩御飯の時間だから」
「いやいや、そうじゃなくてだな。普通は助けに行くものなんじゃねーの? 勇者とか以前に、人として
レッドが、まっとうなセリフを吐いてる!
……あっ、もちろん、助けには行きます。
でも、その前に準備が必要なのだ。
「魔物が予想以上に、手ごわくてね」
「なに!? 強いのか。それなら、あたしも……」
「ブ――ン! ブンブ――ン!」
「……やめてくれ」
食事中に、ハエの話はよくないな。
ピンクにも、怒られた。
「敵は倒しても、起き上がってくるんだよね……ピンク。お代わり!」
新しいオムライスを持ってきてくれた。
「はい。どうぞ」
「ありがと」
「それって、不死身ってこと?」
「どうかな……」
なんとも言えない。
ドラギドも、不死身だとは言ってなかったし。
「何か引っかかることでも、あるんですか?」
「うん。≪流星≫を使ったときにね」
たしか、相手を細切れにしていたときだろうか。
奇妙な違和感を感じたのだ。
「違和感とは?」
「分かんないよ。でも、ドラギドにはまだ秘密があるんじゃないかと思う」
それが掴めれば、ドラギドを倒すための突破口になりそうなんだが。
――クイクイ!
ブラックが袖を引っ張ってる。
「どうしたの?」
紙とペンを用意すると、サラサラと描き始める。
「……ん……」
「これは……」
ハートだろうか。
白い紙いっぱいに、ハートマークが描かれている。
「ブラック。ちょっと貸してみてよ」
私もこの間、似顔絵を描いたからな。
絵なら、任せて欲しい。
「じゃーん。どう?」
桃色でペイントしてみた。
鮮やかな色を付けたことで、印象に残りやすくなったと思う。
「さらに、これをこうして……」
黒色のペンで、陰を描き加える。
こうすることで絵が浮かび上がり、より立体感があるものに。
「ほら、いいでしょう?」
より魅力的になった。
ブラックの絵はシンプルすぎて、華やかさにかけるのだ。
「これからは、ステラ画伯と呼びなさい!」
えっへん、と胸を張った。
「……ん……ん……」
なんか、怒ってる。
彼女の得意分野を奪ってしまったのだ。悪いことしたな。
「冗談だよ。私は描かないから、あなたは好きなだけ絵を描いて」
「……ん……ん……」
「殴らないでよ。新しいペンも買ってあげるからさ」
☆
「吸血鬼についてギルドで調べてみましたが、ドラギドという名は見つかりませんでしたね」
「そっか。ありがとね」
口ぶりからして、長く生きてるようだったから、過去の文献にでも載ってるかと思ったが。
当てが外れたか。
「ですが、一つ気になる記述があって」
「なに?」
「大昔、コダール村は伯爵の所領だったようです」
「へえ」
「それで、村の近くには、その伯爵のお城があったのだと」
なるほど。お城か。
今も古城として残ってるなら、魔物の棲みかとしては打ってつけだろう。
レオナや他の村人たちも、そこに行けば見つかるかもしれない。
「でも、問題は……」
ドラギドの倒し方だな。
どうやって、倒せばいいの?
「まだ、分かんないのかよ」
「そうなの。悲しことにね」
もう一週間は経過している。
急がないと、さすがにドラギドも待ってはくれないぞ。
「みんな。ご飯できたよ」
ピンクだ。とりあえず、食べてから考えよう。
「今夜の料理は、レバニラ炒めだよ」
「えー。苦いのやだー」
「好き嫌いはダメだよ」
レバーか。実は私も苦手なのだ。
昔、半生のレバーを食べて、お腹を壊してしまったことがある。
あれはヤバかった。
本当に死ぬかと思ったのだ。
「レバーはね。ちゃんと、加熱しないといけないんだよ!」
「おお。いきなり、どうした」
「レバーって、肝臓だからね! 肝臓だよ……肝……あああああああっ!」
「うっせーよ。耳元で、でかい声を出すな」
「分かったんだよ! ドラギドの違和感の正体が」
今は、食卓に全員が揃ってる。
私は説明した。
「心臓がなかった?」
「そう。ドラギドを細切れにしたときにね。体中のどこにも心臓がなかったの」
「つまり、どういうことだ」
「ブルー」
「はい。おそらく、それがドラギドの弱点なのかと」
自分の急所である心臓だけを、別の場所に隔離。
そうすることで、倒されても死なない不死身の身体を手に入れられる。
もちろん、心臓は再生できないだろう。
できるなら、わざわざ隠しておく必要はないはずだ。
つまり、ドラギドは心臓をつぶせば倒せる。
「似たようなタイプの魔物は知ってる。そいつと一緒なら、本体と心臓は言うほど離れてはいないはず」
「これで敵の対策は、できましたね」
「うん。奴の棲みかに向かおう」
レオナ。待ってて。
すぐに、助けに行くから。
「ところで……」
私はブラックに頭を下げた。
「本当にごめんなさい。私はブラックのことを、みくびってたよ」
彼女はハートマーク、つまり、心臓のことを伝えようとしていたのだ。
マジでごめん。本当に、気づかなかったんだ。
「……ん……ん……」
ああ。機嫌を損ねてる!
やっちゃったよ。
「……あの、えっと、とにかく、がんばろう」
「……ん……」
そんなわけで、明日になったら出発だ。




