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37 転送陣


 帰りは荷馬車ではなく、きちんと人の座るところがある。

 しっかりした四輪馬車だった。


「ミリア~。一緒に勇者クッキー食べよう」

「もう! それお土産なんだから、勝手に開けないでください!」


 と、包みを奪われた。


「怒られた!? ちゃんと聖剣を取り返してきたのに」


 私の頑張りはなんだったのか。


「聞いてよピンク。好感度アップしないんだよ。イベントクリアしたのに」

「ステラちゃんが悪いよ。あれは、ブルーちゃんのお土産なんだから」


 ブルーの? クッキーとは無難な土産だな。


「お菓子なら、こっちのにしよ。はい」


 チョコパイを貰った。うん。おいしい。


「ミリア~。チョコパイだよ~」

「……」


 ミリアは知らんぷりである。

 聞こえないふりをするように、窓の外を眺めている。


「やっぱり、好感度アップしてないような」

「聖剣を抜かれちゃったからね」


 勇者以外の人に、聖剣を抜かれてしまった。

 それは彼女的には相当にショックなことだったらしい。


「せめて、先にステラちゃんが抜いていれば」

「無茶言わないでよ。あんなの普通のやり方じゃ絶対に抜けないって」

「そこをなんとかするのが勇者なんじゃないの?」

「うーん」


 無茶苦茶なことを言う。

 そうしてあげたかった気持ちはあるけど。

 というか、もしできてたら、今頃は私にべったりだったんだろうか。


「まあ、終わったことは仕方ないよね。チョコパイ食べよー。二つ目ー」



 アルムスの町に戻ってきた。


 いろいろあって盗賊団を一つ潰してきた大変な観光になってしまったが。

 無事に生誕祭も終え、誰一人欠けることなく、家まで帰ってくることができた。


 あとはゆっくり休むだけだな……。


「ステラさん。待ってましたよ」


 そうはいかないらしい。


「ブルー、どうしたの? そんなに慌てて……はい。お土産のクッキー」

「ありがとうございます。それで、実は……」


 彼女にしては珍しく、少し早口で説明した。


「先生が私を探していた?」

「はい。戻ってきたら、すぐに自分の元に来るようにと」


 どうやら、賢者さまが私の帰りを待っていたようだ。


「私は永遠に戻ってこないと伝えといて」

「いえ。頼みますよ。私も困ってるんです」


 ブルーも手を焼いてるか。

 仕方ない。行くとしよう。



 ギルドの裏側にある黒い建物。

 そこで賢者さまは寝泊まりしているようだ。


「先生~。ステラです~。言われたとおり、駆け付けてきましたよ~」


 賢者さまが出てきた。

 相変わらずのようだ。しかし、疲れた顔をしている。


「おおっ! 来たか! これを見てくれ!」


 そう言うと、私を奥の部屋まで案内した。

 窓がない殺風景な部屋である。


「……ん?」


 その中心に、何か置いてある。


「見せたかったものって、これですか?」


 白い石像だ。

 上質な素材と彫刻家による最高の一品、と言って欲しそうな。洗練された出来栄えだ。


「わしをモデルにした石像じゃ。かっこいいじゃろう?」

「……すみません。私、用事があるので」

「おまえに見せたかったのは、これじゃない。石像を動かしてみよ」


 私は石像を押してみる。

 すると、ガラガラ――ッ!


 下から魔方陣が出てきた。


「あっ、これ知ってる。転送陣ですよね」


 人や物を遠くへ飛ばすために使うものだ。

 ダンジョンの仕掛けでも、たまに使われている。


「わしが作ったんじゃ」

「ほへえ」


 そう言えば、彼女はギルマスに呼び出されて山里から降りてきたんだったな。

 これを作るためだったのか。


「マジで大変だった。わしはほとんど寝てない」

「そうですか」

「しばらく、寝る。起こすなよ」


 彼女はふらふらした足取りでベッドに入ると、すぐにグースカといびきをかいた。



 ギルマスに報告。


「そうかっ! ついにできたかっ! それで」

「眠りにつくから、起こすなと」

「……よしっ! いいぞっ!」


 ああなった賢者さまは、てこでも目覚めない。

 つまり、面倒ごとが一つなくなったということだ。


「では、ステラ! さっそくだが、おまえに仕事を頼みたい」

「ええっ! 私、帰ってきたばかりなんですけど」

「何を言ってるんだ! 暇をもらって、遊びにいってたんだろうが!」

「まあ、その通りなんですが」


 思いっきり、戦ってたんだけど。

 しかも、けっこう強い相手だった。


 少しぐらい休ませて欲しいかも。


「働きたくないのか? 永遠に暇をやってもいいんだが」

「……イヤだなあ。私、仕事好きなんですよ。なんでも、頼んでください」


 無理。ギルマスの頼みは断れない。


「おまえには、転送陣のテストをやってもらいたい! そして、そのついでに転送先でクエストをこなしてきてくれ」


  テストか。また厄介な仕事だな。


  ☆


 みんなにも説明する。


「……というわけなんだよ」

「じゃあ、また遠出することになるね」


 だが、今回は馬車に乗って数日も移動する必要はない。

 ほとんど一瞬で目的地に着くことができる。


「すげえ、便利じゃねーか。これで今度からは、いろんなダンジョンに行くことができるぜ」


 たしかに。世界には、多種多様なダンジョンが存在する。

 火山、砂漠、雪原、古代遺跡など。それはもう数えきれないほどに。


 そういった場所を、日帰りで探索できるようになるのだ。

 普通に考えれば、魅力的に感じるだろう。

 

「いやね、レッド。そんなに簡単なのものじゃないんだよ」

「どういうことだ」


 ブルーが説明する。


「転送陣はまだ技術的な面で、不明な点が多いのです。そのため、行ける場所はかなり限定されています」


 そうなのだ。

 今のところ、行き先の登録地点は二つ。

 これを増やすには、また面倒な作業が必要になってくる。


「さらに、事故が多いのです」

「事故?」

「はい。遠くへ飛ばされて行方不明になったり、体がバラバラになったり。恐ろしいことが頻発してるんです」


 冒険者の死亡率でもっとも高いのは、転送事故。そんな笑い話もあるぐらいだ。


「中には、異次元空間から魔物を呼び出してしまったという事例も報告されています。使用には細心の注意を払う必要があるのです」


 失敗すれば町中がモンスターであふれ、阿鼻叫喚の地獄絵図に、なんてことも。

 それだけは避けたいところだ。


「正直、私も怖いんだよね。何が起きるか分からないから」


 だって、賢者さまが作ったものなのだ。

 賢者さまが……やっぱり、イヤだ。怖い。


「わああっ! ギルマスのバカ!」


 私の命の価値、軽すぎないか?


「ギルドマスターは、それだけステラさんのことを信頼してるということですよ。他の人には任せられない重要な仕事なんですから」

「ええ? 本当に?」

「はい。自信を持ってください」


 ブルーが言うなら、そうなのかも。


 まあ、頑張ってみるかな。

 命を捨てる覚悟で。


「じゃあ、メンバーを考えたら、出発しようか」


 当たり前だが、ミリアは連れていけない。

 命の惜しくない人を連れていくとしよう。

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