33 聖剣、盗まれる③
私は立ち止まって、後ろを振り返った。
ミリアがいない。
「……しまった」
飛ばし過ぎたのか。
彼女を置いてきてしまった。
でも、町の中にいれば安心だろうし、とりあえず正門へ急ごう。
走っていくと、前方の人混みの中でレッドの手が上がった。
「おーい。こっちだ。おせーぞ」
「レッドだけ? 他の二人は?」
「ピンクは置いてきた。グリーンはどっか行った」
「そうなんだ。それで、賊は?」
「まだ来てねーよ」
私が聞いたのは、物見やぐらからの鐘だ。
町の外、前方数キロほどの距離から、賊らしき影がこちらに向かってきている。
正門近くに野次馬のように集まる人々を見て、レッドはわくわくしていた。
きっと、彼女にはこの祭りはつまらなかったのだろう。
わざわざ向こうから攻めてくれるのなら、私としてもありがたい。
ミロスみたいなのは、面倒すぎる。
「先頭まで行こうぜ」
野次馬をかき分け、正門のそばまで向かった。
すると、そこでバッと人が出てきて、レッドを弾き飛ばした。
見ると、銀色の鎧をガチガチに着込んだ兵士である。
それが十数人。さらに、後ろからはローブを着た魔法使いが数人も現れた。
みんな同じ紋章を付けている。部隊ってことか。
あごひげを生やしている。隊長っぽい男が、話しかけてきた。
「ここは任せてもらおう!」
「あんたら、なんだ」
「我々か? 我々は――」
兵士は、バッバッバッと動いて、ポーズを決めた。
「シグマ警備隊だあっ!」
ジャジャーン(効果音!)
決めポーズは数秒間、誰も動いていない。
キレもよかった。かなり練習したようだな。
「……くっ。かっこいい。あたしたちもやろうぜ」
うん。考えておくよ。
「なに? シグマ警備隊だと?」
「シグマの町から、選りすぐられた精鋭だと聞く」
「彼らが出てくれるなら、安心ね」
おお。市民からの好感度は高そうだな。
「君たちは観光に来たのだろう? それなら、観光を続けなさい」
「あたしは冒険者だぞ」
「我々は警備隊。町を守り抜くのは、我々の仕事だ」
うん。彼らの言う通りだ。
ここはシグマの町で、私たちは観光に来たよそ者なのだ。
おとなしく、彼らの支持に従おう。
「……うぬう」
「レッド。気を落とさないでよ。そこの露店で、串焼きでも買ってあげるから」
「特大サイズにしろよ」
「了解。ついでに、ソースも追加しとく」
そういうわけで、私たちは待機。
「……はふはふっ。これ、うめえ……ん?」
ドシーン! ドシーン!
地響きだ。一定のリズムを刻んでいる。
ドシーン! ドシーン!
地響きが止まった。
どうやら、来たようだ。
「……」
何か黒い影が人々を覆いつくすと、門の内側からニョキっと手が覗いた。
「……よっこらせ」
腕を通し、肩を入れようとしたところで、門の敷居に亀裂が走った。
そのまま、体を前に出すと――。
ガラガラガラッ!
門が耐え切れず、崩壊していく。
「……こいつ、門を……」
丈夫に作っていたのだ。
普通にやっていたら、まず壊れるはずはない。
そう、普通なら。
だが、そいつにとっては小さすぎたのだ。
「なんだあ。せっめえ、入口だな」
男はなんでもないことのように、ボリボリと腹をかいた。
明らかに他の者とは、性質が違う。
その姿を見て、レッドは震えた。
「おい。あのおっさん、誰だ」
「グラニュート。盗賊団のボスだよ」
「そうか。アレが……」
口元が緩んでいる。
あの男から、何かを感じ取ってしまったか。
シグマ警備隊の隊長は、前に出た。
「グラニュート! よく聞け! 我々、シグマ警備隊がいる限り、この町の住民には指一本触れさせん!」
「……」
グラニュートは隊長の言葉を無視し、前に踏み出した。
「山賊風情が! 図に乗るな!」
ザっと弓部隊が横に並ぶと、合図と共に、弓を撃ちだした。
キリリリリ……シュッ! シュンシュンシュン!
同時に連射。何十発もの矢が、グラニュートに襲い掛かる。
しかし、彼は避けようとすらしていない。
矢は男の身体に当たるが刺さることなく、その場に落ちた。
「魔法だ! 魔法を使えっ!」
続いて、ローブを纏った部隊が出てきた。
杖を構え、大男に狙いを定める。
そして、呪文を唱える。
「ファイアボール!」
杖の先端が橙色に光ると、そこから炎の弾が撃ちだされた。
直撃とともに、ドカーンっと爆発が起こる。
「もっとだ! 畳みかけろ!」
「ファイアボール! ファイアボール! ファイアボール!」
魔法使いたちは、一斉に炎の弾を撃ちだし、それを全て命中させた。
ドカーン! ドカーン! と、何度も爆発が起こる。
さすがにこれだけ撃てば、グラニュートもただでは済まないはず……。
「……やったか!?」
だが、煙の中から姿を現したグラニュートに、隊長は目を見開いた。
「……無傷だと」
そう、服が少し破れただけ。それ以外はまったくの無傷だったのだ。
「どうなってる! もしや、何かトリックを……」
隊長はわけが分からず、グラニュートから距離を取った。
「……違う」
グラニュートはトリックなど何も使っていない。
単純に能力差がありすぎるのだ。
だから、矢も通らない。魔法も通じない。
何をやっても無駄なのだ。
警備隊では、グラニュートを倒せない。
「……ふあああ」
グラニュートはあくびをすると、首をコキコキと鳴らした。
「終わったか? なら、次はオレの番だな……おい。斧をよこせ」
数人の部下たちが、斧を運んでくる。
グラニュートは、斧を軽々と持ち上げると、隊長を指さした。
「おめえが頭だな」
「……ひ、ひい」
「面倒なのは嫌えなんだ。さっさと終わらせちまおう」
そう言うと、斧を大きく振り上げ、その場で固まった。
「チャンスだ」
動かなくなったので、隊員の一人が叫んだ。
だが、それは間違っている。
あれは力を溜める動作。スキルを放とうとしている。
「レッド」
「よしきたっ」
レッドは走った。
グラニュートと隊長の間に割り込むように、移動。
剣を抜いた。
それと同時に、グラニュートが斧を振り下ろす。
「ギガントグレイブ!」
≪ギガントグレイブ≫
難度 ★★★
属性 地
使用回数 5/5
成功率 90%
説明 大地が砕けるほどの一撃を放つ。溜め時間によって、威力が変動。
巨大な斧は、隊長の身体を一刀両断しようとする。
「ひいいっ!」
ガキィン!
その刃を寸前で受け止めるレッド。
だが、凄まじい威力。
そのうえから、グラニートは更に圧力をかける。自身の全体重をかけ、押しつぶそうとする。
「……が……あ」
レッドは歯を食いしばり、額から血管を浮き上がらせながら、なんとか耐える。
足元の地面がミシミシと音を立て、崩れていく。
「……ちっ。負けねぇ 絶対、かあああああっつ!」
気合を入れて、前に踏み出す。
さらに、一歩。そこからまた……。
意地で押し戻す。
「がああああっ!」
キギインッ!
斧をはじき返した。
「……なっ」
さすがのグラニュートも、顔色を変えた。
「オレのギガントグレイブを、剣ではじき返すだと!? こいつはたまげたな」
「……だあ……はあ。どうだ、こんちくしょう」
レッドは汗を拭うと、剣を構えた。
「今度は、あたしの攻撃だ」
「……」
グラニュートは背を向けた。
「もうやめだ。引き上げるぞ」
「なに? 逃げんのかよ」
「……」
グラニュートは斧を部下に放り投げると、何も言わずに門から出ていく。
「あいつら、何がしたかったんだ」
警備隊の一人が呆れるように言った。
本当だ。入口で少し暴れただけ。こちらには、けが人もいない。
祭りの冷やかしでもしにきたのか?
「大変だ――っ! 大変だ――っ!」
今度は、どうした。
「早く来てくれ! 大変なんだ!」
ひとまず、レッドは休ませて。
私は声のする方へ、駆け出した。
「……ステラさん」
ミリアが涙目で、迎えてくれた。
「どうしたの?」
「それが……その……」
その場で泣き崩れてしまった。
深刻な事態だということは分かるが。
要領を得ないので、自分で見に行く。
すると――。
「……は?」
「だから、聖剣がなくなったんです」
そんな馬鹿な。
でも、聖剣があった場所には、剣がない。
切れ目の入った岩盤だけが、そこにあるのだ。
「いったい、どうなってるの?」
とにかく、聖剣祭は中断だ。
みんなを呼び戻さないと。




