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28 馬車で移動①


「なあにぃっ!」


 ギルドマスターに話してみたところ、そんな返事をされた。


「俺は忙しい、人手不足だって言ってるのに。観光したい、遠くに遊びに行きたいと。そう言ってるのか!?」

「ですよね」

「サボタージュかっ! ストライキかっ! そんなに働きたくないかっ!」

「ひいぃぃぃっ!。調子に乗りました。取り消します」


 ギルマスの威圧感がヤバい。

 私では、対抗できない。

 ごめん。みんな……。


「どこに行きたいって?」

「シグマの町です」

「……シグマ。馬車で丸一日ってところだな。何しに行くつもりだっ!」

「聖剣を見に行きたいなと。ちょうど、聖剣祭の時期なので」

「聖剣祭だとおっ!」

「あははっ! 言ってみただけですよー」


 ギルマスは黙り込んだ。

 どうやら、何かを考えているようだ。


「そうか。聖剣祭か。いいぞ。行ってこい」

「いいんですか? 忙しいんじゃ……」

「構わん。馬車は俺が手配してやるっ! 好きなところへ行ってくるといいっ!」


 なんと。交通費まで出してくれると。

 それは助かる。ここは甘えさせてもらうとしよう。


「………………ようやく勇者としての自覚が出てきたか」

「え? 何か言いました?」

「いや、こちらの話だ。あと、ミリアはお前が連れて行けよ」

「その点はご心配なく。きっちり同行させます」

「そうか」


 という話を終えて、ギルマスからも了承を得ることができた。


 しかし、問題が発生。

 私には未達成のクエストが残っていたのだ。


 だいたい、十ほど。

 普段はまとめてクエストを受けてしまうタイプなので、こういうときは困ってしまう。


「では、私がやっておきましょう」

「ブルー。いいの? それなら、町に残ってもらうことになるけど」

「もともと、全員が遠出するのは問題があったでしょう? 私は初めから残るつもりでしたよ」


 ありがたい申し出ではあるが、悪い気がするな。


「……ん……」

「なに? ブラックも残るの?」


 コクコクと頷いた。

 ブルーが一人だけだと寂しいからってことだろうか。


「じゃあ、ブルー、それから、ブラック。ごめんね。お留守番になっちゃうけど」

「ええ。クエストはきちんとやっておくので、楽しんできてください」

「……ん……」


 ☆


 今回のメンバーは……。


 メインメンバー:ステラ レッド グリーン ピンク (ミリア)

  控え    :ブルー ブラック


「と、このようなメンバーで出かけることになったよ」

「ブルーがいねーぞ」

「ほんと、ブルーのこと好きだよね。仕方ないの。本人が残ってくれるって言うんだから」


 で、早朝。準備を終えた私たちは、北口に向かった。

 そこで、馬車が待ってるからだ。


「変だよ。あの馬車」


 うん。ピンクの言う通りだ。

 人の乗るところがなく、代わりに積み荷が乗せられている。


 観光用の馬車じゃないな。交易として利用するものだろう。


 馬車の裏手から、御者が出てきた。わりと細身で、痩せた印象の男だ。


「護衛の依頼を受けてくれたのは、あなたたちでしょうか?」


 ギルドマスターだな。

『馬車を手配してやる』って言ってたけど、護衛の仕事も兼ねているということか。


 でも、私は特に問題ないな。大方の予想はしていたし。

 というより、シグマの町は聖剣祭をやっているのだ。


 普通に考えたら混雑するし、観光用の馬車も満員で乗ることができなかった。

 仮に乗れたとしても高額だっただろう。


 それをタダで乗せてもらおうと言うのだ。護衛ぐらい当たり前である。


「ごめんね、ミリア。仕事になっちゃうけど」

「いえ、馬車の護衛なんて、素晴らしいお仕事だと思います。当然、勇者なら受けるべきです」


 そこに食いついちゃうの?

 勇者らしいかな? 馬車の護衛って。


 あと、彼女は朝から鼻息が荒い。すでに興奮しているのか。

 まだ、出発すらしてないわけだけど。


「わーい。バトルだー」

 

 バサバサッ! グリーンが服を脱いだ。

 何してんだ、という感じだが、中には防具が着こまれていた。


「ほい。ほい。やー」


 そして、無駄にかっこいいポージング。


「なんだ。グリーンもやってんのか。やられたぜ」


 続いて、バサバサッ! レッドも服を脱いだ。

 いつも着こんでいる防具である。


「二人とも、やる気満々だね」

「どこへ行こうと、バトルはやるだろ? あたしたちは冒険者なんだぜ」


 そして、レッドもポージング。


「えいっ。えいっ。やー」


 本当は観光だったということを忘れてるな。

 暴れられれば、なんでもいいんだろう。


「じゃあ、私たちは、近くのお店で着替えてくるよ」

「ああ。待ってるぜ」


 ☆


 というわけで、アルムスの町を出立した。

 目指す場所は、シグマの町。そこでおこなわれる聖剣祭を見に行くのである。


 予定通りに行けば、一日程度かかる。

 馬車は朝から出発し、途中で休憩を取りながら、中継地点の宿で寝泊まり。

 そして、翌日の夕方には、町に到着する予定だ。


 方角は北。

 私たちが暮らすアルムスは緑の豊かな町だが、北に進むに連れて、どんどん緑が減っていく。

 その内、僅かにあった枯れ木までなくなって行き、荒野地帯となる。


「ムムッ! ムムムッ!」


 これは、グリーンの感知だ。

 彼女の感知能力を使えば、この辺りの一帯はカバーできる。

 突然、攻撃を受けても、安心である。


「何もいないよー」


 彼女の感知には、引っかからなかったようだ。


 しかし、油断してはならない。

 隅に隠れていたせいで、たまたま感知できなかったという可能性もある。


 周りを見渡してみると、あの岩陰が怪しい。

 あそこなら、数人ぐらい隠れられる。


「グリーン。もう一度、感知してみてくれる? できれば、あの周辺を中心に……」


「ムムムッ!」


 ギュルルルゥッ!


 グリーンのお腹の音が鳴ったのか。


「ピンク」

「はい。お弁当だよ」

「ムシャムシャ、モグモグ……ムムッ! ムムムッ! 何もいないよー」


 敵は隠れてないみたいだな。

 そう言えば、もうすぐお昼ぐらいだったっけ。


「こっちにもお弁当くれる?」

「はい。どうぞ」


 お弁当を二つ受け取ると、一つを隣にいるミリアに渡す。


「ミリア。ご飯だよ」

「……」


 彼女の顔は真っ青だ。

 さっきからピクリともせず、虚ろな目で、下の方を見ている。


「ミリア? 大丈夫?」

「……ちょっ、揺らさないで。やめて」


 乗り物酔いだな。

 別に彼女が悪いわけではない。私たちが乗っているのは荷車だ。

 そばには、匂いの強い箱。それから、藁が敷き詰められている。


 それに、道は整備されておらず、先ほどからガタガタと揺れている。

 どうやら、この馬車、裏道のようなところを走っているみたいなのだ。


「……お、お姉さま、助けて……苦しい」

「こっちにおいで。お水を飲もうか」

「おい。そいつが来たら、荷車が傾いちまうぞ」

「グリーンと位置を交代して。あなたは私の隣へ」

「はーい」


 がんばれ、ミリア。

 冒険者って楽しいことばかりじゃない。

 ときには、つらく苦しいこともあったりするのだ。



 といった感じで、私たちの馬車の旅は続いている。

 そろそろ、夕方かな。陽が沈みかかっている。


「……むにゃむにゃ」


 グリーンは睡眠中だ。

 感知はけっこう神経を使うし、真剣にやろうとすれば疲れてしまうのだ。


 彼女にばかり負担をかけるわけにはいかない。

 私が交代して、感知をおこなう。


 耳を澄ませて、物音を探る。気になる物音は……ないな。


 念のため、地図を確認しておこうか。

 バサッと開いて、現在位置を確認。


 それから、敵が隠れられそうなところは……あの高台が怪しいな。

 目を凝らしてみるが、特に何もないようだけど。


 あそこから攻撃魔法を使われたりしたら、かなり危険だと思う。


 でも、強力な魔法というのは、それだけ相手に感知されやすくなるから。

 私やグリーンがいれば、まず発動する前に気づくことができるはずだ。


「あのさ。あたし、朝から思ってたんだが」

「レッド。何?」

「おまえ、難しいこと考えすぎじゃね? 出てきた奴をぶった切ればいいだけ。簡単な依頼じゃねーか」


 荷物の護衛は初めてだからな。

 レッドの言い分もよくわかる。


「いや、でもね。万が一、馬車に何かあったら、クエスト失敗になるからね」


 ここは慎重に、確実に行きたいのだ。


「そのレッドという方の言う通りですよ」


 御者が話しかけてきた。


「あなたたちはシグマの町に観光に行くんですよね。あまり、無理はなさらないでください」

「いえ、そうは言っても」

「ここらにいる魔物なら、私のこれでもやれます」


 そう言って、私にクロスボウを見せてきた。

 護身用の武器だろうか。


「それに、敵は分かっているんです」

「本当ですか?」

「グラニュート盗賊団。おそらく、この積み荷を狙ってくるのは奴らでしょう」


 グラニュート? 

 どこかで聞いたことがあるな。たしか、ギルドの貼り紙で……。


「山賊ですよね。賞金をかけられている」

「よくご存じですね。グラニュートはその盗賊団のボスをやっています」


 かなり腕が立つ巨漢だと聞いたことがある。

 斧をブンブンと振り回し、賞金目当ての冒険者たちを返り討ちにするのだとか。


「危険ですね」

「はい。ですが、グラニュート自身も厄介なのですが、真に危険なのはその妻であるパルテの方なのです」


 グラニュートは一介の山賊に過ぎなかった。

 だが、パルテという女性を妻にしたことで、盗賊団を結成し、犯罪の規模が広がった。


「どのように危険なんですか?」

「それが私にもさっぱり。見たこともない奇怪な術で、人々を惑わせるのです」


 その部分は情報がないのか。

 たぶん、賢者さまのような、独自の秘術を使うんだろうけど。


 さて、どうやって、対策をしようか。

 考えていると、グリーンが目を覚ました。


「むにゃむにゃ……はっ! 来たよー! 来たー」

「グリーン。何が来たの? どの方角から?」

「ムムー!……あっちー」


 と、言った瞬間、爆撃が起こった。

 馬車がガタガタッ! と揺れて、馬がわななく。


「きゃああっ!」

「落ち着いて、ミリア」


 直撃はしていない。ただの威嚇射撃だろう。

 それでも、馬車を止めるには十分な威力だった。


 放り出されるように外に出た私たち。

 まずは、状況確認を。


 たしか、グリーンはあっちと言ったか。

 ということは……。


 さっきの高台か!


「……なっ」


 私は、我が目を疑った。


 先ほどの高台。

 そこに数メートルほどの大砲があるのだ。

 それも一つではない。全部で八門の大砲が、私たちの馬車を狙っている。


「……ありえない」


 ほんの数分前には何もなかったはずだ。


 ということは、あんな巨大なものを高台まで運んできたってことか。

 あんな僅かな時間で、私たちの誰にも気づかれずに。


 いったい、どんな方法を使って……。


「パルテです。奴のしわざです……ああ……彼女が現れてから、こんなことばかりだ」


 たしかに、御者の言う通りだ。

 さっぱり、分からない。


 高台から、男たちがぞろぞろと出てきた。


 あれが、グラニュート盗賊団か。

 山賊上がりなだけあって、いかにも荒くれものという恰好をしている。


 男の一人が、声を張り上げた。


「グラニュート盗賊団だ! 命が惜しければ、我々に積み荷を全て引き渡すことだ!」



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