27 観光へ行こう
「……勇者らしくない?」
ミリアにそう言われて、私は思わず聞き返した。
「はい。ステラさん。あなたは勇者らしくないです」
前の竹林ダンジョンの一件で、彼女としても思うところがあったらしい。
ちゃんと訓練を受けてくれるようになった。
剣はレッドに、魔法はブルーに、弓はグリーンに、盾はブラックに。
それぞれ教わるようになったのだけど。
何故だか、私にだけは当たりが厳しいのだ。
他の人には、普通に接してるのに。
「具体的に言うと、ダサいです。服装も髪型もかっこよくないです。それに、オーラがないんです。もっと、イケてるオーラが欲しいです。こうバシッとした感じで」
なるほど。イケてる感じか。
「俺の魔法がおかしいって、弱すぎるって意味だよな(キリッ)」
「ふざけてますか?」
「私はマジメだよ」
そういえば、彼女は伝説の勇者に憧れてるとか言ってたな。
そんな英雄と比べれば、私なんかダサいモブ女だろうけど。
ちょっと理想が高すぎるんじゃないだろうか。
「あなたに教わることはないです」
「きっぱり言うね」
「事実です。剣も魔法も他の方に教えてもらいます。それで問題ありません」
ミリアは私にそっぽを向けると、家に戻っていった。
「うーん。勇者らしくないか」
私は賢者さまに才能を認められて、幼いころより修行を受けてきた。
そして、実力的に勇者のレベルに達したから、勇者という職業を選び、今に至っている。
正直なところ、勇者に思い入れはない。嫌いじゃないけど、好きでもない。
だから、『勇者らしく』と言われても困ってしまう。
「勇者らしい人か。そんな人になれば、ミリアも私のことを認めてくれるのかな」
少し考えてみよう。
勇者らしく、かっこよく、イケてるオーラで……。
☆
今日のメンバーは……。
メインメンバー:レッド ブルー グリーン ブラック (ミリア)
控え :ステラ ピンク
「今日は私が控えか……」
まあ、ローテーションというやつだ。
ブルーがいれば、戦闘の方は問題ないし、私は家のお手伝い。
家事当番は、控えメンバーがやる決まりになっている。
たとえ、リーダーといえども例外ではない。
「お掃除しなくちゃね」
私はボロボロの服に着替えた。
この服なら、汚れても捨てればいいので問題はない。
それから、モップやバケツ、各種掃除用具を準備。
みんなが出払ってるうちに、しっかりキレイにしておかないとね。
「まずは、どこから掃除しようかなー」
ゆらゆらと廊下を歩く。
そして、通路の奥にある部屋の前に立った。
ドアには『ミリアの部屋』という札が下がっている。
最近、彼女にあてがわれた部屋だ。
「うん。ここからだな。この部屋から掃除しよう」
今はダンジョンに出かけているので、中に人はいない。
なので、ノックをする必要はない。
「仕方ないよね。入らないと、掃除できないからね」
ドアノブを捻ってみる。
ガチャガチャ! ガチャガチャ!
「あれ? 鍵がかかってる?」
なんだと。他の部屋は鍵なんてかかってなかったぞ。
「ふむふむ。ディスクシリンダー錠ね。余裕だね」
私はスキルを発動した。
「≪アンロック≫!」
≪アンロック≫
難度 ★
属性 無
使用回数 20/20
成功率 ??%
説明 開錠スキル。技量によって、成功率が変わる。
カチッ! 錠前はあっさり外れた。
私は地味に技量が高いのだ。この程度の錠前では、難易度が低すぎる。
他人を入れたくないなら、魔法の錠前でも用意するんだったな。
ダンジョンの扉や宝箱に使われてるようなヤツ。
「では、中に入ろうかな」
もちろん、掃除するためだ。
ミリアの部屋の中を漁りたいわけじゃないぞ。
さて、中は……。
綺麗だな。わざわざ掃除するまでもなく、きちんと整理されている。
カーペットが敷いてあり、コロコロするものが置いてある。
あれで落ちてる髪の毛を取ったりするんだよね。知ってる。
クローゼットは……いつも着ているような服ばかりだ。
本棚がある。置いてあるのは、『ザ・ボウケン』。
ああ、冒険者の専門誌か。私もこの雑誌、読んだことある。
他は、『勇者戦線①』。小説のシリーズものか。何のジャンルだ? 戦記もの?
「カーテンとシーツの色は、桃色か……」
というより、部屋全体が桃色で統一されている。
やはり、ピンクがお姉さまだからか。それで、色を合わせていると。どうでもいいな。
ベッドは良い匂いがする。香水でも使ってるんだろう。
「あとは……なにこれ? 縫いぐるみ?」
細長い棒のような縫いぐるみが置いてある。
ベッドの上にあるから、これを抱いて寝てるんだろうか。想像すると、かわいいな。
「あっ、裏に刺繍してある……えっと、『せいけん』」
そうか。この棒は聖剣なのか。
これを振って、勇者気分に浸ってるんだろうか。
「……あんまり、ネタになるようなものがないな。どうしよう……ああ、掃除に来たんだっけ」
まあ、適当にやるけど。どうせ、最初からキレイだし。
机の上も見ておこうか。部屋に入ったときから、気になっていたのだ。
あそこにあるもの、どう見ても日記だろう。
意外とマメな性格なんだろう。
ちなみに、私は日記なんて付けない。毎日を全力で生きているのだ。
「さあて、中には何が書いてあるのかな」
日記を開いてみる。
ガチャガチャ! ガチャガチャ!
「あれ? こっちにも鍵が」
ふむ。南京錠か。
いや、だからね。この程度の錠前、私には意味がないんだって。
「じゃあ、さっそく開けてみよう……アンロ……むぐっ」
背後から、口を押えられた。
これではスキルを発動できない。
いったい、何者!?
「ねー、ステラちゃん。勝手に他人の部屋に入り込んで、何をやってるの?」
ピンクの声だ。私は振り返って、答えた。
「違うんだよ。これは勇者らしさを探ろうと」
「やってること、泥棒だよね」
「……うん。たしかに」
「ミリアちゃんは私たちを信頼してここに住んでるんだよ。ステラちゃんがやってることって、その信頼を裏切る最低の行為だよね」
「……うん。まったく、そのとおり。返す言葉もないよ」
反省しました。
もう、ミリアの部屋に勝手に入ったりしません!
……たぶん。
というわけで、ピンクと一緒に夕食の支度。
キッチンに向かい、フライパンに油を引いて、ひき肉や卵を用意してハンバーグを作る。
それと同時進行でサラダも作る。お肉だけじゃなく、野菜もね。
ハンバーグが焼けた頃に、スープを皿に分ける。それから、お店で買ってきたパンも皿に乗せる。
「ただいま~」
みんな、帰ってきた。
手洗い、うがいをしてもらってる間に、料理をテーブルに運ぶ。
さて、料理を召し上がってもらおう。
「……はむっ。もぐもぐ」
ミリアが一口、食べた。
「どう? ミリアちゃん?」
「とてもおいしいです。お姉さま、料理もお上手なんですね。憧れます」
「……えっと、そのハンバーグはステラちゃんが作ったんだよ」
ミリアは目をそらした。
「へえ。まあ、いいんじゃないですか」
なんだ、その露骨な態度の変化は。
「はむはむっ、うめえ。うめえ」
レッドを見ろ。誰の料理を食べても、『うめえ』しか言わないんだぞ。
この子、味とか分かってるのかな。
――クイクイ!
誰かが、私の袖を引っ張っている。
「なに? ブラック、どうしたの?」
紙とペンを用意すると、絵を描き始めた。
え? それ、食事中にやることなのか?
「……ん……」
何か細長い棒のような絵だが。
ピンと来ないな。
ブルーが答えた。
「ああ。聖剣祭のことですね」
「聖剣祭?」
「シグマの町で、毎年おこなわれているお祭りのことです。ちょうど、今の時期にやってるので、ブラックさんはそのことを言ってるのかと」
レッドが食べるのを止めた。
「なんだ、聖剣祭ってことは、聖剣があんのか」
「そうですよ。あの町には勇者が使ったと言われる剣が保管されているんです」
「剣か。面白そうだな」
レッドは敵を切る武器として、剣に興味があるようだ。
「……ん。聖剣って」
たしか、ミリアの部屋で見たような……。
私がミリアの方を向くと、彼女は口を抑えている。
大きな声を出さないようにしてるのか、笑いをこらえてるのか。
どちらにせよ、バレバレだ。
表情筋が緩みまくっているし、目の輝きがさっきまでとまるで違う。
『聖剣』という単語を聞いただけで、嬉しくなっちゃったのか。
隣にいたピンクが、私に耳打ちした。
「ステラちゃん。チャンスだよ」
「え? 何が?」
「ミリアちゃんと仲良くしたいんでしょ? 聖剣を見に連れてってあげれば、好感度アップ間違いなしだよ」
言われてみれば。
『勇者らしさ』なんて難しいこと考えなくても、彼女の興味を引くことができる。
良い案かもしれない。
「みんなで、聖剣祭に行こう!」
さっそく、提案してみた。
「おう。あたしも行きたい!」
「いいんじゃないですか」
「わーい。おでかけー」
「……ん……」
……ふっ。余裕だぜ。
というか、最近、ダンジョンばかりだったからな。
たまには、こういうのもいいだろう。
じゃあ、夕飯を食べたら、準備をしよう。




