21 ブルー、風邪をひく➁
今回のメンバーは……
メインメンバー :ステラ レッド ブルー ブラック
控え :グリーン ピンク
私は手をかざして、呪文を唱えた。
「スリープ」
すると、手のひらがぼんやりと光を帯びた。
「ブルー。こっち見て~」
「……」
――プイッ!
彼女はそっぽを向いた。
「……くっ。さすがに、同じ手には引っかからないか」
やっぱり、ブルーは連れていかないとダメなのか。
どうやら彼女は職業クエストのことを聞いて、あれを自分の使命のように感じているらしい。
クエストなんて失敗したっていいのに。
ランクが下がってもまた上げ直せばいいだけだ。
むしろ、私としてはブルーの風邪の方が、よっぽど重要なことなんだけどな……。
「ブラック。あなたが頼りだよ」
「……ん……」
「その盾でパーティーのみんなを守るの。期待してるからね」
「……ん……」
まあ、この娘は大丈夫だろう。
何も言わなくても、普通にやってくれるし。
「それからレッド。今日はあなたが前衛ね」
「おまえはどうすんだ」
「私はブルーの傍についてる。今のあの娘、心配だから」
「あいつ、本当に連れていくのか」
「仕方ないんだよ。言うこと聞かないんだもん」
一回、思い通りにやらせてあげることにしよう。
そうすれば、すっきりして、もやもやが晴れて、元気になったり……。
「投げ槍だな」
「じゃあ、レッドは他に何か良い案あるの?」
「……ない」
「でしょ? だから、一回、好きにやらせてあげようよ」
私たちは、町を出て北へ移動。そして、鉱山の入口までやってきた。
「この中に今回のターゲット、ミノタウロスがいます」
「ミノ……って、牛」
「そうだよ。牛の頭をした獣人」
「また、牛かよ」
もしかして、ダークバイソンのことを言ってるんだろうか。
レッドの言う通り、あれも巨大な牛の姿をしたモンスターだった。
「今回は人型だから、私たちみたいに防具を装備してる。斧も持ってる。知能もそこそこあるから、攻撃パターンも読みにくい。対応の仕方もまるで違ってくるから、十分に注意してね」
鉱山の中は、明るい。
壁にはランプが取り付けてあり、狭い通路でも足元が見やすい。
このダンジョンは地形の変動も緩やかなので、急な変動でランプがなくなったりすることはない。
「みんな離れすぎないように」
「おう」
「はい」
「……ん……」
しばらく歩いていると、モンスターが現れた。
地面に開いた小さな穴から、ポコッと顔を出す。
「ヂュー! ヂュー!」
テツネズミだ。
洞窟の鉱石を主食としていて、その身体は鉄のように硬いと言われている。
ポコポコッと、地面にいくつも穴が開いた。
「うおっ、なんかたくさんいやがる」
いつの間にか、地面がネズミでびっしりと埋められている。
「テツネズミは群れで人を襲うの」
体長は大きいもので10センチほど。剣では攻撃を当てにくい。
剣士のレッドでは、分が悪いか。
「ここは、私に任せてください!」
「ブルー」
「テツネズミは水属性の攻撃を苦手にしています。私の魔法を使えば、こんな奴らイチコロです」
頼もしいセリフを吐きながら、前に出てきたブルー。
その両手から、得意の魔法を放つ。
「喰らいなさいっ! ダイダルウェーブ!」
≪ダイダルウェーブ≫
難度 ★★★
属性 水
使用回数 15/15
成功率 100%
説明 全体攻撃。局所的な波を引き起こす。
ブルーの前方に、大きな波が発生し……。
「……へっ……クチュン!」
ザッパ――――ンッ!
波は彼女だけにかかり、その身体は水びたしになった。
「……ガクガク……ブルブル……へっ……クチュン!」
ブラックが荷物からタオルを取り出して、渡す。
「……ん……」
「……あ、ありがとうございます……へっ……クチュン!」
髪も服もビショビショだ。あれでは、さらに風邪が悪化してしまう。
「あいつ、何やってんだよ」
「魔法使いはね。優れた精神力と高い集中力が必要不可欠なの。今のブルーには、魔法を使いこなすなんて、到底無理」
そして、それは私たちの中でもっとも精神力が高い彼女だからできることだ。
私だって魔法を使うことはできるが、メインに据えることはできない。
なぜか意地を張ってるようだが、本当は立っているのもやっとなはずだ。
早く終わらせて、休ませてあげたい。
「私も全体魔法はあまり得意じゃないの。手分けしてやろう。レッドはあっちね。ブラックはそっち」
私のセイントスピア、レッドとブラックの攻撃で、テツネズミを蹴散らしていく。
そうしていると、奥の方でズシンと音がした。
このダンジョンで大型モンスターは一体しかいない。
「近いようね。急ぎましょう」
ネズミ退治はきりの良いところで終わらせて、前に進む。
赤い獣の身体が視界に入った。
「モオオオオオッ!」
ミノタウロスは地面に刺さった巨大な斧を引き抜くと、私たちに狙いを定めた。
「……ん……」
ブラックが前へ。斧による攻撃を盾によってさばく。
ピンクがいないので能力アップはないが、彼女の防御力なら問題ない。
「クリティカルだけには注意して。斧の命中力は低いけど、たぶん、クリティカルだけは、あなたでも無理だよ」
ブラックがコクコクと頷く。
先ほどから直撃は逸らしているし、彼女はきちんと理解している。
とはいえ、注意していても危険ではある。
このモンスターの攻略には、短期決戦が望ましい。
「あたしはどうする?」
巨体なせいもあって、隙は大きい。
だが、こいつには鎧があり、急所はしっかりと守られている。
「防具は、私が魔法で壊すから」
「おう。そこをあたしが切ればいいんだな。分かりやすいぜ」
ミノタウロスが斧を振り込むが、ブラックが防御。
私たちの方にはまったく攻撃は届いていない。
ここからなら、いくらでも魔法が撃ち込める。
「セイントスピア!」
光の槍は、右肩に命中。
あそこはちょうど防具の留め金の位置だ。
「モオオオオオオッ!」
鎧が肩のところから、ビロンとはがれる。
牛の胸元があらわになった。
これで敵の心臓部が丸見え。急所ががら空きだ。
「レッド!」
「よっしゃあっ! 任せとけ」
レッドが剣を抜き、踏み出す。
だが……。
「待ってください!」
「なんだよブルー」
「私が……やらないと……」
ブルーは何もしていないのに、息を乱している。
顔も赤いし、上手に立てていない。
やはり、先ほどびしょ濡れになったせいで、風邪が悪化してしまったのだ。
「ブルー。じっとしててよ」
「……職業クエスト。私が倒さないと」
「あんなのお遊びだよ。どうでもいいんだって」
「……やらせてください。私、足を引っ張りたくない……」
だったら、早く元気になって。
「……これで……≪シーバスター≫」
呪文を唱えると、ブルーの足元がせり上がり、砲台が出現した。
≪シーバスター≫
難度 ★★★★★
属性 水
使用回数 20/20
成功率 100%
説明 対象を指定し、標的を爆撃。チャージ回数によって、威力が増大する。
前に見た≪シーキャノン≫と似ているけど、こちらはサメのようなデザインをしている。
あと、下部に車輪が付いている。
向こうと違って動かせるみたいだ。
「……チャ……チャージ」
――チュイーン……!
砲台の先端に光が集まっていく。
ビリッ! ビリリッ!
肌がチクチクと痛い。砲台の周りが歪んでいる。
これは高威力の魔法だ。空間がねじれてしまうほどの。
「でも……」
今の彼女では、こんな魔法はコントロールできないだろう。
ここから、どうするつもりなんだ。
「……ごめん……ステラ……あと……やって」
「え? ブルー?」
「……」
あっ、そういうことか。
≪シーハンター≫は彼女の魔法だ。
だから、これを私がコントロールして倒しても、彼女の魔法で倒したってことになる。
つまり、『魔法使いの攻撃で倒した』。
職業クエストの条件を満たしたってことになる。
「分かったよブルー。ちゃんと、あなたの魔法で倒すから」
「……」
私は砲台を動かし、ミノタウロスに照準を合わせる。
狙うは、奴の心臓部。
「発射用意! 3……2……1……」
ようし。ミノタウロス。
喰らえ。これでおまえの最後だ。
「0! 発射!」
チュド――――ン!
「モオオオオオオッ!」
予想通り、凄まじい威力だ。
ミノタウロスの胸部にぽっかりと大穴が開いている。
人間に使ったりしたら、大変なことになる。
完全に大型モンスター専用だな。
私は切ない表情をして、言った。
「ブルー。あなたの仇は取ったよ」
「…………私、死んでないですよ」
☆
それから、数日たった。
「すみません。先日はお騒がせしました」
おお。落ち着いた雰囲気。
これだよ。これが私たちのブルーだよ。
「風邪は怖いですね。これからは栄養を考えた食事、適度な睡眠、それから、うがい手洗いを徹底して。
みんなで生活の改善に務めていきましょう」
なんか、ブルーっぽいこと言ってる。
よかった。いつものブルーだ。
「特に、レッドさん。お肉ばかりでなく、野菜もしっかり食べるように」
「……うぅ……くう」
「ねえ。レッド、なんで泣いてるの?」
「うるせい! ちょっと目にゴミが入っただけだ!」
「なんで、ベタな言い訳するの?」
とにかく、よかった。
さて、次はパーティーランクをBまで上げないとな。




