20 ブルー、風邪をひく①
パーティー名 : エレメンタルクラウン
パーティーランク : C
「ふふっ。Cランクまで来れた」
ダンジョンに行くときは、ついでにクエストを受けるようにしてきた。
採集、護衛、討伐、その他もろもろ。
隠れたところで、色んなクエストに挑戦していたのだ。
その甲斐あって、Fランクからトントン拍子でCランクへ。
順調だ。ギルドマスターの希望どおり、Bランクぐらいなら、さっさと上がってあげよう。
「さて、新しいクエストは……どれにしようかな」
私が迷っていると、受付嬢がアドバイスをくれた。
「それなら、職業クエストを受けてみるのはどうでしょう」
職業クエスト? 知らない名前のクエストだ。
どんなクエストなんだろう。
「パーティーの中に、特定の職業がいることが条件。さらに、その職業を活躍させれば、追加ボーナスが入る。そういうクエストです」
「面白そうですね」
「はい。Cランク以上の方なら誰でも受けられるので、ぜひ挑戦してみてください」
ふむ。こっちの掲示板に貼られているのか。
どれどれ……。
【ミノタウロスの討伐】
B級ダンジョンに出現したミノタウロスを討伐せよ
※職業『魔法使い』の攻撃で倒せれば、追加ボーナス
※三日以内にクリアできれば、さらに追加ボーナス
ミノタウロスか。かなりの攻撃力を持つ強敵だ。
さすがに、Cランク以上ともなれば、討伐対象のレベルも高い。
ダンジョンもB級だし、これは心してかからなければ。
「職業は魔法使いとなっていますが、よろしいですか? 他の職業のクエストもありますが」
「はい。それでいいです」
魔法使いといえば、ブルー。
彼女なら心配いらないだろう。
私よりもしっかりしていて、私よりも冷静で、たぶん私よりも頭が良い。
パーティー内では、全面的に信頼できる仲間だ。
「分かってると思いますが、クエストは失敗しないように。また、必ず期限は守るように。もし、破るようなら、ランク降格もありえますから、そのつもりで」
いつも口を酸っぱくして言われていることだ。
もう聞き飽きた。
さて、ミーティングだな。
ギルドの広間まで行くとしよう。
☆
「……あれ?」
なにか変な感じだぞ。
レッド……グリーン……ブラック……ピンク……。
やっぱり、違和感がある。
「ブルーは? いないようだけど」
「さあな。見てねーぜ」
「いやいや。ブルーだよ? いつもそこで読書してるじゃん」
「知らねーよ! とにかく、あたしは見てない!」
ありえない。
彼女は時間に厳しくて、待ち合わせの一時間前には必ず着席してる人だ。
初めてミーティングした日もそうだった。
私よりもずっと早く来て、お気に入りの席で読書をしていた。
ブルーとは、そういう人だ。
まさか、彼女に限って、遅刻なんて……。
――バタンッ!
ギルドの扉が開け放たれた。
「……はあ……はあ」
見ると、女の子が息を切らせながら、立っている。
「……あ、あの」
一瞬、誰か分からなかった。
その女の子は妙に汗だくで、ぼさぼさの髪をしていて。
乱れまくってクシャクシャなシャツを着ているのだ。
おまけに、頬が上気していて、目が虚ろで、焦点が定まってなくて……。
いや、誰だよ!
私が待っていたのは、こんな女の子じゃないぞ。
「……すみません。遅刻してしまいました。この分は、必ず取り返すので」
うーん。なんと声をかけたらいいものか。
「……えっと」
「……はっ。すみません。急いでいたもので」
彼女は必死に髪を整え、シャツの皺を直そうとしている。
ダメだ。痛々しすぎる。
「きっと、ブルーちゃん、風邪なんだよ」
「風邪?」
「ほら。さっきから、ボヤっとしてるでしょ? あれは熱で頭が働いていない証拠だよ」
「へえ。そうなんだ」
「ステラちゃん。風邪をひいたことないの?」
「そうなの。私、バカだから、風邪をひかないんだ」
そうか。風邪なのか。
ちょっと、おでこを触ってみよ。
「な、何するんですか」
うん。熱い。こりゃダメだ。
「ブルー。あなたは風邪だよ」
「……私が風邪」
「そう。だから、今日はもう帰って、ベッドの中で安静にしててね」
そう言うと、ブルーはムスッとした。
「違います。風邪じゃないです」
「いやいや。風邪だって」
「違います! こう見えても、体調管理には気を配ってるんです! バカにしないでください!」
「いやさ……」
「わああああああっ! 違うのおおおおっ!」
あのブルーが、ヒステリックに。
冷静じゃない。いつものブルーはどこに行った。
「私は……へっ……クチュン! 元気です……クチュン!」
ブラックが箱ティッシュを持ってきてくれた。
「……ん……」
「ありがと」
私はティッシュを彼女の鼻に当てた。
「……ちょっ……クチュン!」
「はいはい、分かったから。まずは、鼻をチンしましょうね」
――チーン!
「どう? 落ち着いた?」
「ム~ッ!」
ああ。ダメだわ。
面倒になってきたから、多少、強引に行こう。
「ごめんね、ブルー。でも、あなたが悪いんだよ」
私は彼女に手をかざして、呪文を唱えた。
「スリープ!」
≪スリープ≫
難度 ★★
属性 無
使用回数 20/20
成功率 75%
説明 相手を眠らせる魔法。
「……あ……れ」
私の手に宿ったぼんやりとした光。
それを見たとたん、ブルーの意識が遠のいていった。
「……クー……クー」
今の彼女は、無防備すぎる。
普段なら、この程度の魔法には絶対に引っかからないだろう。
「レッド。この子をベッドに運んであげてくれる?」
「おう」
レッドは軽々と担ぎ上げた。
「なあ。こいつ、大丈夫なのか?」
「ブルーが心配?」
「ち、ちげーよ! 聞いてみただけだ」
「今は初めての風邪で取り乱してるだけだから。夕方まで眠れば、よくなるでしょ」
「そうか。それなら、いいんだ」
さて、気を取り直して、ミーティングしよう。
☆
「聞きましたよ。職業クエストを受けたんですって?」
おかしいな。
治ると思ったんだけど。
「私はもうよくなったので、準備が出来たら行きましょう」
目つきから言って、いつもと違うんだよな。
「うん。そう、誰から聞いたの?」
「受付嬢です」
見ると、こっちに向かって手を振ってる。
余計なことを。
「私の出番ですよね。連れて行ってください」
「分かった。連れてくから」
「では、準備ができたら」
「もう、夕方でしょ? 行くのは、明日の朝からね」
「……もう暗いから。たしかに」
ああ、ブルー。
この娘、本当にどうしちゃったんだろう。




